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湊は少しだけ、薄着の女性に見惚れていた。
正直、男なら誰でもそうなるだろうと思った。
顔は可愛い、そして薄着で体のラインが出ている。
「何、あたしに見惚れてるの。キモだね~」
二階の渡り廊下から見下ろす女性にそういわれ、湊は俯いて頭を掻いた。
性格はあまりよくなさそうだ。
そして、湊はピャートゥイに横っ腹を軽く肘打ちされた。
「緊張感持ってくれる?」
言葉にはとんでもない怒りが含まれているのが分かり悪寒が走った。
「で、あなた誰?」
ピャートゥイは薄着の女性に敵意剥きだしで話しかけた。
「あたしは秋津大和の特殊試験隊第二小隊隊長、鵜原浪花。ナミハナちゃんって呼んでいいよ」
「遠慮しとくわ」
即答だった。
「ねぇ、そっちのことも教えてよ。あなた達何者なの。カーチェイス中に対物ライフルを撃ってくるし、一般人じゃないよね」
「教える義理は無いわ」
ナミハナの言葉にピャートゥイは冷たく返した。
湊がピャートゥイと初めて会った時より冷たい雰囲気だった。
「教えるのが怖いの?」
「教える気が無いの」
「そんな事が通ると思ってるんだ。あは、頭雑魚雑魚だね」
ナミハナが片手を軽く上げると湊達を囲んでいる五人が包囲網を縮めてきた。
「名前だけでも教えてくれたら、包囲をといてあげようかなぁ」
ナミハナはそういって楽しそうに笑っていた。
「湊、銃を構えて」
ピャートゥイは湊に小声で話しかけた。
「た、戦うのかい?」
「いえ、逃げるわ。私が包囲を崩す。湊は構えるだけでいい」
「分かった……」
湊はポケットから素早く銃を取り出し構えた。もちろん構えるだけなので引き金に指を掛けない。
それを見たナミハナの部下が一斉に湊に銃を向けた為、湊は背中に嫌な汗を掻いた。
「戦う気なんだ。六対二で勝てる訳ないのに。計算も出来ない雑魚頭なの?」
湊も流石にそろそろ一発くらい撃ってやりたくなったが我慢した。
次の瞬間、ピャートゥイが包囲を固めた五人の内の後方の一人に対し飛び蹴りを放った。
突然のことで対処できなかったナミハナの部下はいとも簡単に気絶した。
「湊!」
ピャートゥイに手を引かれ湊は走り出した。
「こら、何してるの。追いかけなさい!」
部下の情けない姿を見たナミハナは二階から叫んでいた。
「先、行って!」
「ピャートゥイは?」
「ちょっと虐めてあげたくなったの」
そういうピャートゥイの顔には、八の中で対物ライフルを持ち出した時の様な笑みが浮かんでいた。
「ナミハナ!」
ピャートゥイはそう叫び、ワンピースをたくし上げフョードルを二丁取り出すと二階に居るナミハナに向かって乱射した。
「きゃー!」
ナミハナはしゃがみ込んで頭を抱えていた。
ナミハナの部下たちは物陰に隠れた。
ピャートゥイの放った銃弾は全てナミハナの頭上に外れていった。
湊は唖然としてピャートゥイを見ていた。
そして、これからは絶対にピャートゥイを怒らせないようにしようと心に誓ったのだった。
「ふうすっきりした。なにボサっとしてるの、いくわよ!」
爽やかな笑みを浮かべてピャートゥイはフョードルをしまい、湊の手を引いて走った。
「もう、何してるの。撃ち返して!」
「しかし、相手は子供ですよ?」
「あたしが撃たれているのよ。いいから撃ち返しなさーい!」
そんなやりとりが聞こえてきた後、銃弾が飛んできた。
「ごめん湊、ちょっと状況を悪くしちゃったみたい」
そういいつつピャートゥイは少しも悪びれている様子は無かった。
走るピャートゥイと湊は前方の広場に、巨大な影を発見した。
「ポビヂーチェリ……!」
その影、ポビヂーチェリは二つの足で地面に立っていた。
「本当にいた!」
湊は初めてしっかりとポビヂーチェリを目視し喜んだ。
ポビヂーチェリは真っ黒な体に、赤いライトのようなものが随所に付いていた。
その容姿は見る者を圧倒するものであった。
「待ちなさーい!」
二人の後ろからナミハナの声が聞こえてきた。
その後、すぐに銃弾も飛んでくる。
「一旦ポビヂーチェリは後回しね……」
そういったピャートゥイが湊と物陰に隠れたその時だった。
ポビヂーチェリがその頭をナミハナの方へ向けたのだ。
「動き出した……!」
湊は驚いた。人型のポビヂーチェリが動くのを見るのは初めてだったというのと、一般的な無人機やBGより巨大なので、そのサイズ感に圧倒されたのだ。
「あ、目標を確認!」
ナミハナが叫んで彼女の部下と共に立ち止まったその時だった。
ポビヂーチェリの脚部装甲が開いた。
「まずい。湊、隠れて!」
ポビヂーチェリを覗き込んでいた湊をピャートゥイは物陰の奥に押し込んだ。
数秒後、轟音が響き渡った。
「何が起きてるんだ!」
轟音の中、湊がピャートゥイに叫ぶ。
「対人用圧縮エナジー速射砲!」
「なんだって!」
「対人用の兵器よ。エンジンが動いている限り無限に撃てるわ!」
数十秒ほど轟音と衝撃が辺りを包んだ。
そして、それが終わるとピャートゥイはポビヂーチェリを覗き込んだ。
「湊、もう平気よ」
その言葉で湊もポビヂーチェリがいた場所を覗き込むと、そこにはただ激しく損壊した広場があっただけだった。
「ポビヂーチェリは……?」
「満足してどこかへ消えたみたいね。まったくあの女さえいなければ……」
ピャートゥイはぶつぶつと文句をいっていた。
「そういえば秋津大和は?」
湊は辺りを確認した。
瓦礫の中で座り込んで俯いたナミハナが見えた。周りにはナミハナの部下たちが倒れ伏していた。
「まさか、死んだ……?」
湊がそう呟いた時、泣き声が響いた。
「ぐす。一体なんなのよぉ!」
ナミハナがそう叫んで泣いている声だった。
その声に起こされるようにナミハナの部下たちはむくりと起き上がった。地面に倒れていたのは攻撃を回避するためであったようだ。
「隊長、大丈夫ですか?」
「大丈夫な訳、ないでしょ!」
「痛!」
せっかく気遣ってくれていた部下をナミハナは殴っていた。
「はぁ、残念ながら向こうも全員元気そうね」
ピャートゥイはそういって呆れ顔で笑った。
「さぁ、今のうちに離脱しましょう」
湊は頷いた。
泣いているナミハナに気づかれないように二人はその場を後にした。
「来た道は使えないわね」
ショッピングモールの外に出たピャートゥイはそういって眉を顰めた。
湊もピャートゥイの視線の先を見た。
「秋津大和の別部隊か……」
二人が来た道から秋津大和の装備をした人間が次々とやってきていた。
恐らく大空洞内で遭遇した部隊だ。
「別の道から離脱しようか。反対側にも道があるみたいだし」
湊は近くに転がっていた壊れた看板に記されている地図を確認した。
「そうね。八もきっとそっちに移動しているはずよ」
そう決めると二人は小走りでショッピングモールの裏にある、来た道とは反対の道へ向かった。
ショッピングモールの外を通ったので、中にいるであろうナミハナ達に遭遇することは無く、無事に反対の道へ行くことが出来た。
しかし、こちらの道もまた崩れた建物の瓦礫が積み重なっていた。
「こればっかりはしょうがないか……」
溜息を吐きつつ湊は瓦礫を上った。
「すぐに八に合流出来るわよ」
ピャートゥイは湊を元気づけるように背中を軽く叩いた。
ピャートゥイの言葉に頷いて湊は歩いていたが瓦礫の山が崖のようになっていたので立ち止まった。
「降りたら戻れそうにないね」
「もう戻る必要もないし、大丈夫よ」
ピャートゥイはそういって軽々と瓦礫の崖を飛び降りた。
湊はというと、少し高さがあることで飛び降りることにしり込みしていた。
高さは大体四メートルくらいだった。
着地の仕方によっては骨折する高さだ。
「湊?」
「あぁ、ちょっと待って。行くよ……」
湊は深呼吸をした。
「受け止めてあげようか」
ピャートゥイは崖の下で手を広げた。
「まさか」
湊は肩をすくめた。
「よし、行くぞ……」
そう呟き意を決して崖を飛んだ。
落ちる瞬間、全身に鳥肌が立った。
そして、着地。
湊は正直どうやって着地したか自分でも分からなかった。
しかし、割と平気だったので上手く着地出来たのだろう。
「頑張ったわね」
「ありがとう……」
ピャートゥイに褒められて照れ臭かった湊は顔を見られないように俯いた。




