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湊は、八の座席を開けて懐中電灯と拳銃を八に返していた。
「ねぇ、八」
「なんでしょう」
「湊に銃を持たせるなんてどういうつもり?」
ピャートゥイの声は、怒りの感情が含まれているように聞こえた。
「お守りです」
「そのお守りのせいで湊は危険な選択をしたわ。撃ちはしなかったけど……」
危険な選択。それは拳銃を持って秋津大和の前に出たことだろう。
「それは申し訳ございません」
自分のせいで八が怒られているのは忍びないと思い、湊もごめんと謝った。
「湊、そう思うならあんな危険なことはやめて」
「うん……」
ピャートゥイは窓の外に視線を移した。
ちょっと息苦しい雰囲気だった。
「あのさ」
「何」
「ピャートゥイの目的、聞いていいかい」
息苦しさに耐えかねて話題を変えるように湊はそういった。
「ええ、もう湊にも手伝ってもらうっていったものね」
一呼吸おいてピャートゥイは湊を見た。
「湊、あなたのカメラに写った巨大な影。私もアレを追いかけているの」
「やっぱり同じ目的だったんだ。でもそれならどうして隠していたんだい?」
「同じ目的だから協力しようなんていわれても困ると思ったの」
なるほど、と湊は頷いた。
「それじゃあ、あの影について知っていたっていうのは?」
前に不思議な誤魔化され方をしたことを湊は思い出した。
「ああ、あれね。そのままの意味よ。今のアレについては何も知らない。ただ千葉県の各地を飛び回るようになった今より、前の状態を知っているって話よ」
「じゃあ、前の状態を教えてよ」
湊は少し前のめりに座った。
「その前に、湊はアレの正体を知る必要があるわね」
ピャートゥイは座席に座りなおした。
「アレの名前は、決戦兵器ポビヂーチェリ。千葉県で行われた地上戦で、勝利を揺るがないものにするための兵器」
ポビヂーチェリ。独特な響きだ。
間違いなく日本製じゃない。ということは、テロ組織が持ち込んだ兵器。
湊が顎に手を添えてそう考えていると、ピャートゥイは説明を始めた。
「高さは十九メートル。基本形体はそこらのBGと変わらない二足歩行。だけど変形機構を持っていて、変形時には高速飛行が可能。超高性能ステルス装置、ヌレヴォイを内蔵しているためそれが作動中は一切の視認が不可能。その他様々な機能と武装を持っているけど、長くなるから今は割愛するわ」
湊は話を聞きながら一眼レフカメラで撮った写真を確認した。
巨大な影が写っている。
これがポビヂーチェリ。
飛行していたので変形した姿だ。
「湊のカメラを見た時は驚いたわ。ぶれているとしてもポビヂーチェリが写っているのだもの」
湊が一眼レフカメラを覗いているのを見たピャートゥイはそういった後、湊の意識を話に戻すように咳払いをした。
「そんなポビヂーチェリだけど、私の知っている限りでは千葉県内を訳もなく飛び回るようなことをする兵器ではなかったわ」
湊は一眼レフカメラを置いてピャートゥイに視線を戻した。
ピャートゥイは湊を見ながらも、どこか遠い目をしていた。
ここではなく記憶の中の景色を見ているような目だった。
「どんな兵器だったんだい」
「……投入からたった七日で千葉県内の生存者をほぼ全滅させた。敵味方問わずね」
ピャートゥイは背もたれによりかかり、目をつぶった。
「その後、今も放たれ続けている千葉県全域を覆う妨害電波が発生し、その影響で深い眠りについた……」
ピャートゥイの知識量に関心すると同時に湊は疑問を抱いた。
「ピャートゥイ、その知識は一体どこで?」
「ごめんなさい、いえないわ。これだけは絶対に……」
ピャートゥイは珍しく思いつめた顔で湊を見た。
どうやら禁句のようだった。
湊は慌てて話題を逸らした。
「最終的にはポビヂーチェリをどうするんだい。俺はこのカメラにしっかりと収めたいんだけど、ピャートゥイは?」
「私はポビヂーチェリを完全に停止させる。その為に、ここにいる」
ピャートゥイのその言葉は、まるでそれだけが生きる理由だといわんばかりのものだった。
「えっと、どうやって……?」
「……」
それは教えてくれないようだ。
そのまま車内は沈黙に包まれるかと思われたが、急に八がスピードを上げハンドルを切った。
その反動でベルトをしていなかった湊はピャートゥイに頭から突っ込んだ。
「八、どうしたの?」
ピャートゥイは易々と湊を受け止め、そのまま片手で抱きしめた。もう片方の手は車内のベルトを掴んでいた。
「先ほどの話ですが」
「どれよ、もったいぶらずに結論から話して」
「湊さんに銃を撃たせます」
「は?」
八の車内で二人の声が重なった。
湊は再び回転式拳銃を握っていた。
「さっき説明した通りよ。分かった?」
「よし、やってみる」
湊は八の上部ハッチから外に身を乗り出した。
八が高速走行中ということもあり、凄まじい風にさらされた。
「う……」
風に負けないように踏ん張って後方を確認すると、秋津大和の装甲車がまだ遠いが確実にこちらに迫っていた。
湊の持つ回転式拳銃には弾が一発だけ装填されている。
理由は簡単だ。
まず、これから湊は威嚇射撃を行う。威嚇射撃なので撃つ弾は一発でいいということ。そして初心者が銃を扱う時は、二発以上装填するのは危険だということだった。
「湊、威嚇射撃だから緊張する必要は無いわ」
ピャートゥイは車内で、湊が万が一にも飛ばされないように湊の足を押さえていた。
湊は、両腕を真っすぐ伸ばしピャートゥイの教え通りに回転式拳銃を構えた。
そして、引き金に指を掛け、息を止めた。
指を引いた瞬間、風を切り裂く音。射撃の反動。
弾丸は秋津大和の装甲車に当たることは無かった。
しかし、秋津大和の装甲車は急ブレーキをかけてその場に止まった。
それを見届けて湊は車内に引っ込んだ。
「はあ。緊張した」
「お疲れ様。本当に緊張する必要ないのに」
湊はピャートゥイに回転式拳銃を渡した。
「いくら向こうが撃ってこないことが分かるからって、それは無茶な話だよ」
湊は座席に深く座って深呼吸をし、先ほどのやり取りを思い出した。
八が湊に銃を撃たせるといった後、ピャートゥイは猛反対した。
それはそうだった。少し前までピャートゥイは、湊が危険な行動をとったことに対して怒っていたのだから。
しかし、八は言い返した。もし湊が一人で戦わないといけなくなった時に何もできない人間にしたいのですか、と。
秋津大和へのけん制の為にも、湊も戦う力があると分からせることは必要なことだと合理的なお嬢なら分かるはずです、ともいっていた。
それでもピャートゥイは相手の反撃の可能性などで反対していたが、八の巧みな話術によりいい負かされていた。
決定打は、戦時中でもなければ警察でも自衛隊でもない平時の日本の企業が人殺しを行うはずがないため反撃はしてこないということであった。
条件として決して弾を当てなければというのが付いていたが。
「これで一安心かな、もう撃つ機会が無ければいいけど」
湊は騒がしい心臓を落ち着かせるように呼吸に意識を向けて目を閉じた。
「すみません、お嬢。私が間違っていたようです」
八のその声が聞こえた後、外から車体に何かが当たる音が聞こえた。
「チョルト!」
ピャートゥイは短くそう叫んだ。その後、「だからいったじゃない!」といって座席から立ち上がった。
ピャートゥイは座席を開けて、何かのパーツを組み立て始めた。
「な、なに」
「撃ち返してきたのよ!」
動揺する湊をよそにピャートゥイは素早く組み立てたそれを持ち上げた。
ピャートゥイの目はぎらついていた。
「大きい。そ、それって」
「KSV八十。つまるところ対物ライフルよ。これ着けときなさい」
湊は投げつけられたイヤーマフとピャートゥイを交互に見た。
そしてピャートゥイは悪魔の様な笑みを浮かべて上部ハッチから身を乗り出そうとしたが、湊がピャートゥイの腕を掴んで止めた。
「まってまって、危険だよ。それにそれで撃ち返すのかい?」
「ええ、誰に攻撃しているか分からせてやるわ。八、音的に向こうは自動小銃を撃っているのよね。相手のリロードタイミングを教えて」
湊の制止も気にせずピャートゥイは上部ハッチに手を掛けた。
「殺すの?」
湊のその言葉にピャートゥイは振り向いた。
「ダメ?」
「絶対ダメだ!」
ピャートゥイは頷いた。
「分かっているわ。私だって誰も殺したくないもの」
「お嬢、今です」
八の言葉を聞いた瞬間、ピャートゥイは器用に対物ライフルを上部ハッチから外に出し、自らも身を乗り出した。
湊は急いでイヤーマフを着けた。




