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また別の日。
領地の監査時期が重なり、アズリオは連日、執務室に籠もりきりで書類仕事をこなしていた。
廊下まで漏れ聞こえる重苦しい溜息に、ミハイルはお邪魔にならないようにと思いつつも、さすがに放っておけなくなる。
(嫌われている僕が直接顔を出すのは、彼のストレスになるだろうけれど……)
ミハイルはキッチンへ向かい、使用人に頼んで、アズリオが好むという少し苦味のあるお茶を淹れてもらった。さらに、疲れが取れるようにと、素朴だが優しい甘さの焼き菓子を添える。ミハイルがよい反応をしたと使用人から報告を受け、アズリオの指示で常備されるようになったものだが、ミハイルはそんなことを知らない。
「旦那様、失礼します。差し入れを置いておきますね」
アズリオが顔を上げるより早く、ミハイルはトレイをドア付近のサイドテーブルに素早く置き、そのまま流れるように退室した。
顔を合わせる時間を最小限に抑える、ミハイルなりの配慮だった。
残されたアズリオは、パタンと閉まったドアと、湯気を立てるお茶を交互に見つめる。
(ミハイルが、俺のために……? いや、違うな。きっと妻としての務めとでも思ってのことだろう。俺に気を遣わなければ、この屋敷で居場所をなくすと思わせてしまったのかもしれない。ミハイルがストレスを感じないように顔を合わせないようにしていたが、単に無関心に見えたのもしれない)
アズリオは自分の気の回らなさに頭を抱えつつも、お茶を一口、大切そうに口に含んだ。
染み渡るような温かさと、素朴な菓子の甘さに、張り詰めていた心がじんわりと解けていく。
少しの休憩の後、アズリオは無意識に口元を緩ませて仕事に向き直った。




