2
数日間の馬車での旅路の後、ミハイルは婿入り先の屋敷に足を踏み入れた。ミハイルが、派手ではないけれど手入れの行き届いた荘厳なエントランスに目を瞬かせていると、大理石の床にコツコツと靴の音が鳴り響いた。
「……遠いところよく来てくれた、ミハイル。領主のアズリオだ。」
低く深みのある声にミハイルが視線を向けると、そこには上質そうだけれどシンプルなデザインの服を着た男が立っていた。歳はミハイルより少し上に見える。
緩く後ろに撫でつけられた黒髪、切れ長な赤い瞳、高く整った鼻に薄い唇、シャープな頬、長身で鍛え上げられた体。真面目そうで美丈夫という言葉が似合う男らしく整った容姿に、ミハイルは目を丸くした。
金で男を娶るくらいだから、とんでもなく醜い見た目か歪んだ性格の持ち主だろうと思っていたから、驚いてすぐには言葉が出てこなかった。
「……アズリオ様。お初にお目にかかります、ミハイルです。不束者ですが精一杯努めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
ミハイルがなんとか予め考えていた台詞を言うと、アズリオは僅かに眉を寄せた。
「……貴殿に求めることは特にないので自由に過ごしてくれ。特に今日は長距離移動して疲れているだろう。部屋を用意してあるからゆっくり休んでくれ。」
アズリオは淡々と言い、今度はミハイルが困ったように眉を下げた。
「ええと……。」
「ああ、約束通り貴殿のご実家への支援はするから心配しなくていい。飢える領民のために好きでもない男の元に嫁ぎにきた貴殿の心意気を無駄にするつもりはない。」
「ありがとうございます。」
ミハイルは安心して口元を緩め、アズリオは背中に隠した拳を握り締めた。




