16
婚礼の挙げ直しの報せは、瞬く間に領内、そして社交界へと轟いた。
とりわけ、以前のあのひっそりとした式に参列していたアズリオの親しい友人や古参の使用人たちは、この一報に狂喜乱舞した。アズリオが何年も前からミハイルに一目惚れし、彼を想っては溜息をついていた姿も、「身売り同然で迎えざるを得なかった」と頭を抱えて悶絶していた健気な姿も、すべて知っていたためだ。
「あの堅物で不器用なアズリオが、ついに……!」
「よくぞ奥様の心を射止められた! アズリア様、おめでとうございます!」
屋敷の厨房では、料理長が「これで毎日あの木の実の菓子を堂々と焼ける!」と張り切り、友人たちはアズリオの肩を壊さんばかりに叩いて祝福した。周囲の温かい笑顔に囲まれて、ミハイルもどこか誇らしく、そしてほんの少しだけ、お祝いの雰囲気に浮き立つような気恥ずかしさと喜びを感じていた。
そして迎えた、二度目の結婚式。
今度は領都で最も大きな大聖堂が舞台だった。社交界の重鎮から近隣の貴族まで、溢れんばかりの招待客が詰めかけている。
大聖堂の扉が開いた瞬間、堂内は一気に静まり返り、次の瞬間には感嘆の溜息が漏れた。
新調された、極上のシルクで仕立てられた白いタキシード。それに身を包んだミハイルが、光を浴びてバージンロードを歩んでくる。その姿は、以前の寂しげな式とは違い、愛されている自信と穏やかな幸福感に満ちあふれ、息を呑むほどに美しかった。
これまでアズリオの圧倒的な財力と地位を狙っていた社交界の令嬢たちは、そのあまりの美しさを前にして、言葉を失い落胆した。
「いくら男とはいえ、あんな極上の美人が相手では、とてもじゃないけど敵わないわ……」と、戦う前から完全に戦意を喪失してしまう。
一方で、ミハイルの美貌に目を奪われた若い令息たちは、アズリオに対して猛烈な嫉妬の視線を向けた。
「あんな美形、いつの間に囲い込んでいやがったんだ」「俺があの男を飾り立ててやりたかった」と、心中で悔しがる者も少なくなかった。
しかし、そんな周囲の邪推や嫉妬は、二人が祭壇の前で並んだ瞬間に、すべて霧散することになる。
アズリオは、今度は逃げることなく、熱い熱を帯びた瞳でミハイルをまっすぐに見つめていた。その大きな手は、ミハイルの細い手を壊れ物を扱うように、けれど絶対に離さないという強い意志を込めて包み込んでいる。
ミハイルもまた、そんなアズリオを見上げて、慈しむような、心からの甘い微笑みを返した。
神官の前で誓いを立て、アズリオがゆっくりとミハイルの額に誓いのキスを落とす。
その一連の動作、視線の交わし方、お互いを想う空気の重なり合いには、他人が立ち入る隙など一寸たりとも存在しなかった。二人の間に流れる、あまりにも深い信頼と強固な愛のオーラに、嫉妬していた令息たちも、未練のあった令嬢たちも、「……あれは、無理だ」「お互いしか見えていないじゃないか」と、完全に諦めざるを得なかった。
「……綺麗だ、ミハイル。今度は、ちゃんと見られた」
キスを終え、至近距離で顔を真っ赤にしながらそう囁くアズリオに、ミハイルはくすくすと嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます、アズリオ様。僕も、あなたの格好良い姿を特等席で見られて嬉しいです」
万雷の拍手と、心からの祝福の嵐が二人を包み込む。
長いすれ違いを経て結ばれた二人は、まるでお互いしか見えていないように幸せそうに微笑み合った。




