15
「……ミハイル、少し真面目な話をしてもいいだろうか」
ある日の夜、同じベッドの中でアズリオがぽつりと言い出した。
その声は、かつてないほど真剣で、どこか緊張に震えている。ミハイルは「はい、何ですか?」と、アズリオの瞳を見つめた。
「俺たちの結婚式を……もう一度、挙げ直させてほしいんだ」
「え……?」
思わぬ提案に、ミハイルはパチパチと瞬きをした。
アズリオは布団の中で手をぎゅっと握りしめ、胸の内を語り始める。
「あの時の式は、貴殿を社交界のハイエナどもから隠すため、そしていつでも実家へ返して自由の身にできるようにと、俺の勝手な都合で身内だけの寂しいものにしてしまった。だが、もう貴殿を離すつもりはないし、貴殿もここにいてくれると言ってくれた。だから……」
アズリオはミハイルの目をまっすぐに見つめた。
「貴殿がこの領地の、そして俺の、正式で唯一無二の伴侶であることを、皆に誇示したいんだ。スレインのような不届き者に、二度と手出しをさせないためにも、盛大な式を挙げて貴殿を俺の妻として社交界に周知させたい」
「アズリオ様……」
どこまでも自分を守るため、そしてこれからの未来を共に歩むための提案。ミハイルの胸に、じわりと熱いものが広がる。
しかし、アズリオが結婚式を挙げ直したい理由は、それだけではなかった。
アズリオは急に耳まで真っ赤に染めると、視線を泳がせながら、蚊の鳴くような声で本音を漏らした。
「それに……その、前の式の時、白いタキシードを着た君が、あまりにも、その、息を呑むほど綺麗で……。罪悪感も相まって、実に惜しいことに、まともに直視できなかったんだ」
アズリオは頭を抱え、もだもだとのたうち回るように続けた。
「神官の前で誓いを立てる君を、もっとちゃんと目に焼き付けたかった……! 恥ずかしながら、もう一度、今度は堂々と、世界で一番美しい君の花嫁姿を特等席で見たいという……俺の強欲な願いでもあるんだ……!」
必死に顔を真っ赤にして告白する大男を見て、ミハイルは思わずクスッと吹き出してしまった。
(直視できなかったなんて。あの時、あんなに怖い顔をして全然こっちを見なかったのは、そんな理由だったんだ。本当に、この旦那様はどこまで愛おしいのだろう)
あの寂しい式を、自分を嫌っている証拠だと誤解していたミハイルにとって、アズリオが「もう一度、今度はみんなに紹介したい」と言ってくれることは、言葉にできないほど幸せなことだった。
ミハイルは、アズリオの頬にそっと自分の手を添えて、優しく微笑んだ。
「嬉しいです、アズリオ様。ぜひ、もう一度挙げさせてください。今度は……ちゃんと、僕の目を見て、誓いのキスをしてくださいね?」
「ミ、ミハイル……ッ!!」
最高のご褒美を提示されたアズリオは、嬉しさと興奮のあまり、その夜とうとう一睡もできなくなるのだった。
こうして、領地始まって以来の大々的な「婚礼の挙げ直し」が決定した。
今度は隠れる必要などどこにもない。ミハイルのために、仕立て屋が最高級の白いタキシードを新調し、アズリオは柔らかな笑みを浮かべながら、式の準備に奔走するのだった。




