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アズリオの寝室にある大きな天蓋付きのベッド。お互いに寝衣に身を包み、横に並んだ瞬間、ベッドの沈み込みと共に、お互いの体温が微かに伝わってくる。
ミハイルは「夫婦になったのだし、両想いだと分かったのだから、いよいよ……」と、穏やかながらもそれなりの覚悟と、ほんの少しの気恥ずかしさを胸に抱いて目を閉じていた。
しかし。
「――おやすみ、ミハイル。ゆっくり休んでくれ」
アズリオはそう優しく囁くと、そのまま目を閉じてしまった。
ミハイルが寝返りを打ってアズリオの方を向くと、アズリオは暗闇の中で完全に直立不動のまま、微動だにもしない。
(……本当に、何もする気がないんだな)
ミハイルは拍子抜けすると同時に、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
アズリオにとって、ミハイルへの欲情は確かに存在する。同じベッドから漂うミハイルの甘い香りや、寝衣の隙間から覗く白い肌は、彼の理性を何度も焼き切れそうにさせていた。
しかし、アズリオの中では、その欲情を遥かに上回るこの世で一番大切にしたい、傷つけたくないという巨大な愛情があった。
(実家のために嫁いできてくれた健気なミハイルを、俺の獣じみた欲求で怖がらせるわけにはいかない。彼は触れられても嫌じゃないと言ってくれたが、それは俺を気遣っての言葉かもしれない。完全に心が俺に馴染むまでは、決して焦って手を出すまい……!)
そんなアズリオの、不器用で、どこまでも真摯な過保護さを、ミハイルはすぐに察した。
(本当に、愛されているんだな、僕)
自分を身売りの慰み者だと割り切ってこの屋敷にやってきたミハイルにとって、アズリオのこの手を出さないという選択こそが、何より自分を一人の人間として、妻として尊重してくれているという最高の証拠に思えた。
「アズリオ様」
ミハイルは、少し甘さをふくん声でアズリオの名前を呼んだ。アズリオは即座に飛び起きてミハイルを覗き込む。
「何だ、ミハイル。寝苦しいか? 暑いか?」
「いいえ。アズリオ様が、あんまり大切にしてくださるから、嬉しくて」
「――っく……!」
ミハイルは寝ながら無防備に笑って目を細め、アズリオはあまりの愛しさに呻き声を上げた。
(可愛すぎて爆発しそうだ。だが耐えろ、耐えるんだ俺の理性……!)
「そ、そうか。喜んでもらえたなら何より」
アズリオは上擦りそうな声を抑え込んでそう言うと、再び横になって目を閉じて、仕事のことを考えてミハイルのことを頭から追い出そうとした。
それでもミハイルの寝息や衣擦れの音に意識が向いてしまい、朝にはよく寝たと伸びをするミハイルの横で、アズリオは寝不足でげっそりしていた。




