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第六ラウンド

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 発: タカチホ技術研究所L4ケニヒスベルグコロニー支社宇宙服開発室長・タカチホ

 受: エウロパ条約機構軍月面基地司令・グラショウ

 件名: 進捗報告


 グラショウ月面基地司令


 試験機による動作検証の報告書を添付します。


 結論を先に申し上げますと、以下に二点の修正によって性能の大幅な改善がみられました。


 1. 放電室形状の見直し

 1.1 放電室を損傷しない程度に途中で流路を狭める。

 1.2 排気プラズマの噴出方向が推力軸線に揃うよう、ノズルの形状を最適化

 2. 推力偏向機構の導入

 2.1 電極の特殊な組成を利用し、一つの放電室内で電力の強弱を持たせる。その結果排気方向の変更が可となる。


 1 の修正により目標値を僅かに上回る 52ミリ(ニュートン)の推力電力比を達成。宇宙服の仕様変更に伴う重量増は、電極の素材変更による軽量化と合わせて初期の要求を満たす。

 2 の修正により左右方向の偏向推力が得られ、機動中の姿勢制御の自由度が増える。


 どちらの修正も()()の示唆によるものですが、彼女が何者なのかお尋ねするのはまた別の機会に譲りたいと思います。


 また何時かお食事にお誘い下さい。今度はイサワ主任もお誘いいただければ幸いです。


 タカチホ


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 発: エウロパ条約機構軍月面基地司令・グラショウ

 受: タカチホ技術研究所L4ケニヒスベルグコロニー支社宇宙服開発室長・タカチホ

 件名: Re: 進捗報告


 タカチホ室長


 結果に大変満足している。君にも、君のスタッフにも感謝する。

 これで、機動中の上下左右への移動や方向転換もやりやすくなった。窒素ガスによる姿勢制御にも余裕が出きた。


 ()()は非常に優秀だからね。今回のお祭りが一段落したら詳しい話でもしよう。勿論その時はイサワ主任もお誘いする。


 グラショウ


 ≡≡≡≡

 ユリア・イサワ主任開発メモ


 こんな事が出来るとは!

 グラフェン状の組成のおかげでこれを挟む複合素材間は弱いながらも絶縁状態にできる。勿論完璧な絶縁体じゃないからクロストークはある。

 だが何層もあるグラフェンと導電素材のミルフィーユ全体でみたら。

 一つの電極で電流のグラデーションを作り出すことができるのだ!

 排気速度は電力の多寡に左右されるから一基のスラスタ内に制御可能なプラズマの流速の勾配を作り出す事が可能になる。

 推進効率からみれば勿論こんな勾配なんて無いほうが良いけれど、制御可能だったなら排気の方向をある程度自由に変えられる事ができてしまう。

 個々のスラスタの出力を変える事で、スラスタのクラスターとしてトルクを発生させる事、つまり向きを変える事は考えていたけれど、これで姿勢を変えずに進行方向を変えられる。

 障害物を避ける等の機動が容易になるだろう。


 でも、素材データからこんな使い方を思い付くなんて、一体彼女は何者なんだろう。

 ターニャと愛称で呼ばれている彼女は、宇宙服本体の開発チームでも高く評価されているらしい。

 実際に開発中の宇宙服を着用・試験しているようだ。問題点を指摘するだけでなく、どこを修正すれば良いか的確な示唆をしていると聞く。

 うちのチームも、この電極素材の応用的な使い方だけでなく、放電室の形状について過去の埋もれた論文の存在を教えてもらったりと色々助けてもらってる。


 自身の事については何も言わない。その手の質問は笑顔の盾に阻まれてしまう。一見私よりも若く見えるけど、時々感じる雰囲気に外見には不釣り合いな貫禄が見え隠れするんだけど。


 開発が一段落したら、ゆっくりと話し合う機会が持てるだろうか?

 でも開発が終わったら、今度は生産・量産の方へ行ってしまうのかも?


 まだ、平行開発中のクラスター制御システムとの結合試験と宇宙服との接続・操作試験が残ってる。

 それでも山場は超えた感じがする。

 あと一息!

 もう一頑張り!


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