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最終ラウンド

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 発: タカチホ技術研究所L4ケニヒスベルグコロニー支社宇宙服開発室長・タカチホ

 受: エウロパ条約機構軍月面基地司令・グラショウ

 件名: 最終報告


 グラショウ月面基地司令


 設計書、取扱説明書、整備手引書を添付いたします。設計書につきましては以前の指示通り製造元となるタカチホ技研工業とも共有いたしました。

 開発も一段落着き、今後は技研工業への技術支援という形での間接的なものとなりますがなにかございましたら気軽にお声掛け下さい。

 本案件では貴重な知見を得る事ができ、我々技術研究所所員一同感謝しております。


 貴組織がそのお役目を恙なく果される事、また司令のご健勝とご活躍をお祈りいたします。


 タカチホ


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 発: エウロパ条約機構軍月面基地司令・グラショウ

 発: タカチホ技術研究所L4ケニヒスベルグコロニー支社宇宙服開発室長・タカチホ

 件名: Re: 最終報告


 タカチホ室長


 何を言っているのかちょっと意味が分からん。兵器・兵装というのは終りの無い改良の連続だ。今は優位だったとしても、それは何時迄も続くものではない。

 前々世紀に開発された銃が原理を変えながらも未だに開発・製造されているのはそういう理由からだ。しっかりとした適用範囲がある限り、そういうものは失くならない。


 今回、君と君のスタッフは素晴しい成果を残した。であればそれを我々軍が逃す筈が無いだろう。開発コード『ひまぽす』。正式名称 HMPSSの開発はまだまだ続くよ。今回の HMPSS001 を皮切りに HMPSS002、3とね。


 だから


 引き続き、今後共宜しく頼むよ。

 君には期待しているよ。


 グラショウ


 ◇◇◇◇ 記録に残らないやりとり ◇◇◇◇


 技研工業での支援作業も一段落し久し振りに技術研究所に顔を出したわたしは、これまた久し振りに研究所の食堂へと昼食をとりに来た。

 食堂の大型モニターを横目に見ながらわたしはカウンターの向こうのおばちゃんに声を掛ける。

「野菜ラーメンとチャーハン、あと海藻サラダも」

「ユリアちゃん、久しぶり。サラダのドレッシングは何にするんだい?」

 わたしが差し出した食券を確認しながらおばちゃんは訊ねてきた。

「さっぱりあっさりなのが良い」

「じゃあ醤油ベースの柑橘類系にしとくよ。ちょいと待ってな」

「うん、それでお願い」

 あっさり返事をしたわたしは、注文した料理が来るまでの暇潰しに大型モニターに目を向けた。

 何かのニュースが流れているようだが、食堂のわいわいがやがやとした会話で内容は上手く聞き取れなかった。

 しばらくしてモニター内の映像が切り替わる。

 そこに映し出されていたのは、望遠レンズで捉えられた数体の宇宙服だった。それらは互いに一定の距離をとりながら、長い光の尾を背負っていた。

 わたしはその見覚えのある光の尾に魅入られる。

 あれはもっと長かったけれど……

 どれ位たったのだろう。カウンターを振り替えるも注文した料理は未だ出されてはいなかった。

 もう一度モニターへ目を遣るとそこにはキャプションが表示されていた。

 "コロニー維持・整備局に配備のスペースデブリ処理のための新装備、。今日お披露目"

 どういう事か、と訝っていると

「お待ち。熱いうちに食べちまいな」

 とおばちゃんの声がした。


 空いた席に腰を落ち着け、ラーメンを啜りながら先程の映像について考える。モニターの映像は既に違うニュースに切り替わっていた。

 あれは極秘なのでは無いの?

 それに尾の引きかたが記憶にあるものとは違

 うのは何故なの?

 疑問が次から次へと浮んでくる。

 テーブルの向こうに人が座る音がした。

 口の中のものを飲み込んで顔を上げるとそこには見知った二人の顔があった。

「室長。それにタニグチ君も。どうしたの」

 目の前のふたりはタカチホ室長と、推進機の数値シミュレーションで世話になった同僚だった。

 タニグチ君は何故か納得いかなそうな表情をしていた。

「イサワ君。先程のニュースは見たかい?」

 室長が訊ねてきたのでわたしは軽く頷いた。

「はい。驚きました。極秘開発だったと思ってたので、いま公表しても良いのかなって」

 もう公表されてるので問題ないかと思いつつも、わたしは声を潜めた。

「その件だが、先方の偉いさんから連絡があった。あれは一種の示威行為(デモンストレーション)だそうだ。『こちらにはこういう装備がある。お前ら(ルス)何か(侵攻)しようとしても対抗手段はあるぞ』というアピールらしい」

 なる程。

 あちらが計画通り侵攻作戦を開始したところでこちらには迎撃手段があるんだから諦めろ、と言う事ね。

「じゃあ、全開性能を見せていないのは……」

「次の開発案件のための時間稼ぎだそうだ。あのニュースを見たところであちらが直ぐに諦めるとは思えないそうでね。わたしもそう思う」

 室長は溜息をつきながら続ける。

「今回、そして直近の侵攻は延期されるだろう。そして『ひまぽす』の性能を分析し、対応できない手段を考える。手っ取り早いのは宇宙艇の推力を上げて追い付けないようにする事だろう。その方向である程度準備を進めた頃合いで、更に上の性能を見せ付ける。そうしている間に、こちらでは『ひまぽす2』の開発を進める」

 わたしは嫌な予感におそわれた。タニグチ君を見ると彼は先に聞かされていたのか、嫌そうな表情を隠そうともしていなかった。

 わたしは大きく息を吸い、吐き出し、室長へと一言


「いじめです。これは明らかにいじめです。退職して良いですか。良いですよね」


 低くおどろおどろしい声を投げ付けたのだった。


 終

これにてこの作品は完結となります。

お話としてはどうかという記録の列挙だけの作品でしたが、ここまでお付き合い下さりありがとうございました。


お気付きになられた方もいらっしゃるかもしれませんが、この作品は笹本祐一さんの『星のパイロット』シリーズに影響されてます。

とくに『彗星狩り』『ハイフロンティア』です。

未読の方で、もし宇宙開発系のラノベに興味がありましたらご一読をお勧めします。


最後に捕捉を

推進剤が三重水素(水素3)なのに液体ヘリウムを手配させた理由について、書こうと思いながら省略してしまったのでここで説明を少しばかり。


ヘリウムは陽子2中性子2から出きた原子核を持っています。ヘリウムを電子捕獲誘引装置(とんでも装置)を通すと陽子+電子=中性子+ニュートリノとなって、陽子1中性子3の原子核(水素4、四重水素)ができます。ただ水素4は非常に不安定で水素3+中性子に崩壊する。

ただ全てのヘリウムが水素3に変わる訳ではないので適切な分離過程を経て水素3だけの推進剤を得る。という理屈を用意しておりました。


また水素3から水素を得るには、ちょっとだけでてきた

 中性子=陽子+電子+ニュートリノ

反応を引き起すβ崩壊誘引装置(とんでも装置)を使って

 水素3(陽子1中性子2)→リチウム3(陽子3)+2電子+2ニュートリノ

という過程を経て、リチウム3→3水素(陽子)に崩壊(未確認の現象)という理屈も用意しておりましたが作中には入れられませんでした。


気になってた方。これで少しはすっきりしましたでしょうか?


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