第五ラウンド
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タイトル: 第一回推進機構試作機試験後の音声記録(極秘)
場所: L4タカチホ技術研究所実験用コロニー実験管制室
「うん、良いね。タカチホ室長。2ヶ月という短期間でよくここまで仕上げてくれた」
「いえ。まだ設定値に届いていない幾つかの項目があります。特に推力電力比は 45ミリNで仕様変更後の55は届いていませんし、動作時間も6000秒でまだまだです」
「だが改良の余地はあるのだろう? 2ヶ月という期間の考えればそれ程気に病む事では無いと思うが?」
「グラショウ司令。発言よろしいでしょうか」
「勿論だよ、イサワ主任。自由に発言してくれて構わない」
「それでは。何故このような無茶苦茶な「ごほん!」前代未聞の宇宙服が御入用なのでしょうか? 宇宙艇との競争でもしようとしてらっしゃるのでしょうか?」
「うん、そうだ。発進直後の宇宙艇を追跡・拿捕できるだけの性能が欲しかった」
「……何故、とお聞きしてもよろしいでしょうか?」
少しの間
「イサワ君。これ以上は……」
「いい。タカチホ室長。室長には既に説明してあるが主任にも話しておこう」
「お願いします」
「主任は、二年前のカーリ宇宙基地の事故の事を覚えているかな?」
「はい。管制ルームのシステムエラーにより94時間の通信断・運用停止が発生しました。L4への物資輸送にも影響しましたので、良く覚えております」
「対外的にはその様に発表されている。しかし事実は違う。本当はあの時、ルス条約機構軍による情報戦によって一時カーリ宇宙基地は彼等に占拠されていた。狙いは月面基地およびこのL4コロニー群への侵攻にあった。まあ、なんとか48時間で奪回、その46時間後には無事復旧した訳だが」
息を飲む音
「びっくりするだろう。タカチホ室長も最初この話を聞いた時は同じ顔をしていたよ。それで、だ。その後ルス側とは一種の手打を行っていたのだが、半年位前からまたあちら側が不穏な動きを見せるようになった」
「不穏な動き……と言いますと?」
「星の街に大量の物資が集められ、L5タシュケントコロニーへと輸送されているのだ。大量の水や合金と共にね」
「水、ですか? それは何も不思議なことではないのでは?」
「主任も知っての通りコロニー内の水資源は徹底的に再循環されている。地球からの補給がそれ程必要ない程にね。だが、今回輸送された量は必要な補給量を遥かに上回るる。確かに水は必要不可欠な資源だ。だがコロニー内のスペースも限りある資源だ。当面使う予定の無いもののために割いてはいられないのも事実だ。なのに、だ。主任。君ならこれの用途として何を考える?」
「他のコロニーへとかは無いんですよね? もしそうであれば、その情報を掴んでない筈が無いですから。そうすると何らかの水素化合物を合成するため、でしょうか? でも、それなら初めからその化合物を輸送すれば良いだけですし……」
「私も最初に聞いたときそう思ったんだ、イサワ君。だが、水から生成できて、コロニーでは安価に製造できて、長期保管には向かないものと考えていったら答えは出た」
「室長のおっしゃる通りだとすると。電気はコロニーでは使いたい放題ですね、特大の太陽電池パネルがありますから。水から作れて長期保管に向かないという事は……液体水素ですか?」
「我々軍もそう考えた。電気分解による液体水素と液体酸素が狙いだろう、とね。さて液酸・液水を大量に使う目的は何だろうか? 我々の結論はこうだった。化学ロケットの運用だ。それも数十隻の規模だ」
「ちょっと待って下さい。化学ロケットの使用場面は主に地球から静止衛星軌道までの衛星打ち上げです。それ以上の高軌道へは、月軌道まで電磁加速・転移システムで打ち上げた後軌道遷移した方が安上がりです。遷移に使用するのも主にイオンエンジン、化学タイプにしてもハイパーゴリックがメインです。月軌道より外側だと、それこそMPDアークジェットやホールスラスタ、なんならVASIMRなどの高比推力、高推力密度のエンジンがあります。今更、液酸・液水ロケットを運用する意味が分かりません」
「主任。確かに君の言う通りなんだが……我々の分析では|ここ(L4)への侵攻作戦実施が濃厚だと予測した。高推力宇宙艇による兵員のピストン輸送を主軸とした侵攻作戦だ、とね」
「そうなんだイサワ君。私もこの話を聞いた時はまさか、と思ったんだがよくよく聞くと有り得ない話ではないと考え直した。まず、L5コロニーの電磁加速器・転移システムでこちらのベクターに合わせ兵員輸送宇宙艇を派遣する。兵を降下させた後、高推力エンジンを使用し短時間で宇宙艇をL5のベクターに合わせ転移。燃料の補給し次第次の兵員をこちらに降下させる。短時間で大量の兵を投入するには理に適った方法だ」
「ですが、それは可能性の一つですよね。だったら……」
「イサワ主任。確かに可能性の一つかもしれん。だが我々軍は可能性がある以上それを見過す事が出きん。対抗策は準備しておかなければならん。カーリの時は見過す余地さえ与えられなかったのだ。あの時彼女が居なければ今頃どうなっていた事か……」
「彼女……とは? どなたの事でしょうか?」
「いずれ主任には引き合わせよう。話を戻すと、我々の予測は日に日に確信に変りつつある。つい先日にはコロニー侵攻を目的としたと思われる降下訓練が実施されたと情報部からの報告が入った。肝心の宇宙艇の建造が予定より遅れているようなのが救いだ」
「それでは、この宇宙服の要件というのは……」
「そう、輸送物資から割り出された仕様を持つ宇宙輸送艇を追いかけるための機動性、戦闘を熟し拿捕するための運動性・俊敏性を持つための要件だよ。イサワ主任」




