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雑草と呼ばれた令嬢は、氷の公爵の庭を咲かせる  作者: もちもちほっぺ


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18/20

ふたつめのふくらみ

アルヴィン経由で、ルミナリス家の近況が入ってきたのは、十二月に入った頃だった。


「カサンドラ嬢が、社交界を休んでいるそうです」


夕食の後、アルヴィンが訪ねてきて、お茶を飲みながら言った。


「体調不良、という話ですが」


フェリシアはカップを置いた。


「そうですか」


「夜会でお会いしたときより、随分と変わっているそうで。顔がげっそりして、でもお腹の辺りだけは……まあ、その」


アルヴィンは言葉を選んだ。


「体のバランスが、だいぶ変わっているようです」


フェリシアは少し考えた。

夜会でのカサンドラを思い出した。


あのときはあいかわらずドレスの胸元から、白く豊かな谷間が覗いていた。その谷間から視線を下げると、さらにたっぷりとした丸みがドレスの布地をきつそうに押し広げていた。


さらに顔色の悪さ。扇で隠していた唇の乾き。

あのとき既に、始まっていたのだろう。


「夫人も、同じ状態だそうで。伯爵家は医師の往診が続いているとか」


「そうですか」


「ルミナリス家への招待状も、最近はめっきり減っているようです。オーロラが安定して出せない状態では、イベントには呼べませんから」


フェリシアは窓の外を見た。

冬の庭が見えた。


葉を落とした木々の間に、スノードロップの球根が眠っている。

春になれば、白い花が咲く。ギルバートが子供の頃に見ていた、あの白い花が。


「フェリシア嬢は、何か思うことはありますか」


アルヴィンが静かに聞いた。

フェリシアはしばらく、窓の外を見ていた。


「私が、もっと早くに伝えていれば良かったのかもしれません」


「伝える?」


「お二人の体のことを。きちんと言葉にして、お父様に話していれば」


アルヴィンは何も言わなかった。


「でも、言っても聞いてもらえなかったかもしれないし……わかりません」


「フェリシア嬢」


アルヴィンが、静かに言った。


「あなたのせいではありません」


フェリシアは頷いた。

そうだとも思ったし、そうでないとも思った。ただ、それ以上考えても仕方がないことも、わかっていた。


「今日も、庭に水をやりに行きます」


フェリシアは立ち上がった。


「冬でも?」


「球根は、土の中で春を待っています。乾燥すると、目覚めが遅くなるので」


アルヴィンはフェリシアを見て、少し笑った。

「そうですか」




ルミナリス家が公爵邸に乗り込んできたのは、その三日後だった。

馬車が門の前に止まったとき、フェリシアは庭にいた。


ヨハンが「伯爵家の馬車です」と知らせに来た。フェリシアは手袋を外して、屋敷に戻った。

応接室に通されていたのは、父と、継母と、カサンドラだった。


三人を見た瞬間、フェリシアは一瞬、足が止まった。全員が変わっていた。


父は更に老けていた。頬がこけ、目の下の影が濃い。継母は杖をついていた。足のしびれが悪化したのだろう。


そしてカサンドラは。

夜会では顔色が悪いながらも、まだあのたっぷりとした体つきを保っていた。でも今は、顔だけがげっそりと細くなっていた。頬骨が浮き、首が細い。

それなのに、腹部だけが変わらず膨らんでいた。


仕立て直したのだろうドレスが、腰から下腹にかけてまだ張り詰めていた。以前は谷間から続く豊かさだと思っていたものが、今は腹部のそれだけが残って、細くなった顔や首と不釣り合いに目立っていた。


カサンドラの目がフェリシアを捉えた。

その目に、夜会のときの棘はなかった。


疲れていた。ただ、疲れていた。


「フェリシア」


父が立ち上がった。


「その、いきなり押しかけて申し訳ない。ただ、領地の方がどうにも……」


「存じています」


フェリシアは静かに言った。


「作物の件も、お二人の体の件も」


父が、少し目を細めた。


「……知っていたのか」


「アルヴィン様からお聞きしました」


「そうか」父は頷いた。「それで、その……一度戻ってきてもらえれば、領地の土も、家の食事の管理も」


「お父様」


フェリシアは父を見た。

父は口を閉じた。


「私は今、公爵邸におります。ここが私の家です」


「……それは、わかっている。わかっているが」


「夜会でも申し上げました。庭の土を耕してください、と。固い土では何も育ちません」


「土を耕すだけでは、どうにも……」


「それから」


フェリシアは続けた。


「お二人の食事の管理ができる方を、きちんと雇ってください。専門の方が必ずいらっしゃいます。私がいなければできないことではありません」


継母が顔を上げた。

その目に、何か言いたいことがあるのは見えた。でも杖を握る手が、疲れていた。


「……フェリシア」


カサンドラが、低い声で言った。

全員が、カサンドラを見た。

カサンドラは俯いていた。


「私は……私は、あなたに」


言葉が続かなかった。


フェリシアはカサンドラを見た。

細くなった首。げっそりした頬。それでも落ちない腹部。疲れた目。


「カサンドラ様」


「なに」


「甘いものを、控えてください」


カサンドラが顔を上げた。


「……それだけ?」


「まず、それが一番大事です」


カサンドラは何も言わなかった。

しばらくして、小さく頷いた。


そのとき、応接室の扉が開いた。

ギルバートだった。


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