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雑草と呼ばれた令嬢は、氷の公爵の庭を咲かせる  作者: もちもちほっぺ


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17/20

最後の助言

しばらくして、人の流れが変わった。

気がつくと、フェリシアの前に父が立っていた。


ギルバートはすぐ隣にいたが、今は別の来客と短い会話をしていた。アルヴィンも少し離れたところにいる。


父と二人に、なった。


「フェリシア」


父の声は、低かった。

フェリシアは父を見た。


「……元気そうだな」


「はい」


「……公爵邸では、大事にしてもらっているか」


「はい」


父はフェリシアのドレスを見た。ブローチを見た。それからまた、フェリシアの顔を見た。


何か言いたいことがあるのは、わかった。言おうとして、詰まっているのも。


「フェリシア、その……領地の方が、少し」


「存じています」


「……使者を送ったのだが、受け取っていたか」


「はい。お断りしました」


父が、一瞬、目を細めた。


「戻れとは言わない。ただ、何か……お前に、できることがあれば」


フェリシアは少しの間、父を見ていた。

使者を送る前に、一度でも連絡をくれていたら。嵐の日に、馬車の一台でも出してくれていたら。書斎で、顔を上げてくれていたら。

でも今、それを言っても仕方がないことも、わかっていた。


「お父様」


「なんだ」


「庭の土を、よく耕してください。固い土では何も育ちません」


「……庭の土を?」


「それだけが、私からお伝えできることです」


父はフェリシアを見た。


それ以上の意味があることは、父にも伝わったかもしれない。伝わらなかったかもしれない。


「……そうか」


父は頷いた。


フェリシアも頷いた。

そこへ、ギルバートが戻ってきた。


父の顔を見て、ギルバートは静かにフェリシアの隣に立った。

ただ立っただけだが、それだけで父の背筋がわずかに伸びた。


「……ウィンストン公爵。娘をよろしくお願いします」


父は頭を下げた。

ギルバートは少しの間、父を見た。


「……フェリシアは、俺が守る」


それだけ言った。

父はもう一度頭を下げ、人混みの中に戻っていった。

フェリシアはその背中を見ていた。


小さく見えた。ルミナリス家の屋敷で書類を見ていた父より、ずっと小さく見えた。


「……大丈夫か」


ギルバートが低い声で言った。


「はい」


「……本当に?」


珍しい聞き方だった。フェリシアはギルバートを見た。


「……悲しくないのか、と思って」


フェリシアは少し考えた。

悲しくないか。


悲しくない、とは言えなかった。でも、胸が張り裂けるほどでもなかった。それよりも、何か遠くのものを見ているような、静かな気持ちだった。


「……少しは、悲しいです」


フェリシアは正直に言った。


「でも、今は」


ギルバートを見た。


「今の方が、ずっと良いので」


ギルバートは何も言わなかった。

視線を逸らして、人混みの向こうを見た。耳が赤くなっていた。

それからギルバートはフェリシアの手を取り、指を絡めた。


今夜二度目だったが、今度は先ほどより、少しだけ強かった。

フェリシアは繋がれた手を見た。

それから前を向いた。


会場の明かりが、ドレスの深い緑を照らしている。胸元のブローチが、柔らかく光っていた。





帰りの馬車の中、二人は並んで座っていた。

窓の外に、夜の街が流れていく。


ギルバートは腕を組んで目を閉じていた。眠っているのか、そうでないのか、わからなかった。

フェリシアは窓の外を見ながら、今夜のことを思い返した。


カサンドラの顔。父の背中。アルヴィンの言葉。ギルバートの手。


「……フェリシア」


目を閉じたまま、ギルバートが言った。


「はい」


「……疲れたか」


「少し」


「……そうか」


沈黙が続いた。

馬車が揺れた。フェリシアの肩が、ギルバートの腕に触れた。フェリシアが身を引こうとすると、ギルバートが小さく言った。


「……そのままでいい」


フェリシアは動くのをやめた。

窓の外に、星が出ていた。


「……来年の式では」


ギルバートが、また口を開いた。


「はい」


「……スノードロップを、たくさん植えるつもりだ」


「はい」


「……白い花が、一番似合うと思って」


フェリシアは窓の外を見たまま、微笑んだ。


「楽しみにしています」


ギルバートは答えなかった。


でも、腕を組んでいた手が、そっと解けた。

馬車が揺れるたびに、フェリシアの肩とギルバートの腕が触れた。

二人はそのまま、公爵邸に帰り着くまで、並んで座っていた。


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