159話 リーナ
星が綺麗だった。
下に広がる球体の世界
上に広がる完全な黒。
その間にある薄すぎる空。
音はない。
クラリッサの呼吸音が一番大きいくらいだ。
振動も少ない。
星も瞬いていない。
鋭く、刺さるように。
瓦礫の上で、クラリッサは息をつく。
筋疲労はそこそこ。
(宇宙まできたけど、これなら普通に重り持ってトレーニングした方が早い。
トレーニングメニューにはいれなくていーや。)
油断はしないが、警戒は一段引き下げる。
──敵がこない。
(つまりラティアは成功した。
やったじゃない。
すごいわ。)
どうでもいいが重力が軽い。
セキュリティマシン達の宇宙適正が高いのか、動きがずっといい。
最初からここまで動きが良かったら死んでいた。
思いつつ、クラリッサはその中を歩く。
やがて。
『やー。
派手にやったねえ。』
声が聞こえた。
プロメテウスブレイクの外部端末から。
「誰?あなた。」
『リーナ。
正確には、リーナの模擬人格。』
クラリッサは止まった。
彼女は言った。
『案内するよクラリッサ。
君には世界の真実を見せるよ。
だって君、転生者だろ?』
声は陽気だった。
『いやー風精霊の成長には時間がかかるからねえ。
こうやって意識をaiに残しておいたんだよ。
と言っても本体じゃないけど。
本体はプロメテウスブレイク内にある。
大事にしてくれたまえ。』
「ねえ、そっちも気になるけど、
私が転生者ってどうして?」
『そりゃログを見たからだよ。
君は全てがイレギュラー。
君の今までの行動は、この世界の人間にはさすがに無理だ。』
──『リーナ』。
プロメテウスブレイクのログの中にあった。
最近見たから覚えてる。
精霊の永遠の主と呼ばれた、1万年前の人物。
『ふむ。
問題なく軌道エレベーターへの変容は、進めてくれているようだ。
さすがは風精霊。』
「結局誰なの?あなたって。」
『順番にいこうか。
その前にエルフの起源を説明してもいいかい?』
「そーね。
ツッコミどころが多すぎて、もはや手が足りてないけど。
さっさとエルフの森を復興させて、グランディール領に帰って、筋トレしたいんだけど。」
『急がばまわれだね。
1万年ほど前かな。
恒星間大型宇宙旅船アルヴェインは、この星へと降り立った。
エルフは、自立型素材収集ユニットである精霊の制御端末として、船で過ごしていた。
まあ、奴隷だね。
家畜ともいえる。
色々あってねえ。
船の従業員は、私も含めて全滅。
唯一残されたのがラティアと数人のエルフというわけだ。』
「……」
『転生者は何人かいたんだ。
私もその1人。
まあ、その模擬人格だけど。』
「……筋繊維を壊したら、全く新しい筋繊維が生まれるみたいなことかしら。」
「全然違う。
それ、転生と生まれたを掛けただけでしょ。」
バレてーら。
『好き勝手やってくれたみたいだね、クラリッサ。
トレザール領に加えて、今回のエルフ領。
いずれも世界は滅びのトリガーは引かれていた。
そもそも魔王は倒されている時点で世界はループに入る。
なぜ世界が続いているのか。』
「これから起こる事も把握しているみたいね。」
『まーね。
とある人物がエンディングを迎えると、この世界は停止し、ループする。
未来の知識は繰り返されてきた転生プロトコルによるもの。
世界が停止した際、未来の人格データを過去へ送り込む、失敗した未来を回避するためのシステム。
世界は幾度も滅んでいる。幾度もね。』
「……そのループの先は?」
『ない。
ないんだクラリッサ。
この世界は閉じている
未来はない。時間的な繋がりは失われ、その瞬間に世界は途切れる。何もない、終わりなんだ。』
「キーは、リーシャか……」
『然り。
彼女は君の知るワンレイディーファースト無印の世界における主人公だ。
ちなみに私の転生先はワンレイディーファースト2。
1の一万年前。
ちゃんとクリアしたよん。
主人公はラティアだった。
ジャンルは近未来で繰り広げられる乙女ゲーム。
少女が初めて世界と触れ合う瞬間を、“ファーストキス”を象徴として描く王道乙女ゲーム、その続編。
やはりそこはファーストキスが大事だね。』
「リーナと私じゃ、転生した時期が違うのかな。
私の前世では、2はなかったから、開発中とか……」
『かもね。
話を戻すよ。
タイムリープ型の転生プロトコルを使用して、未来の人格データを過去へ送り込んできた。
失敗した未来を、なかったことにする可能性のあるシステムだ。
ループの度に、記録情報を過去に送り続けた。
この世界は――ここ数年の間に何度も滅んできた。
何度もだ。
ある程度法則もつかめてる。
君にできることはおそらく、記録を過去に送ることだけだろう。』
クラリッサは、目を細める。
「エンディングの条件は?」
『リーシャが恋愛相手と添い遂げる。
あるいは誰とも添い遂げないままアルシェリオン魔術学校を卒業する。』
──つまり、今までと何も状況は変わらない。
使えないぞ。このAI。
むしろ悪化した。
今のままでは詰む。
どんなエンディングを迎えても。
『私は転生したけど。
なぜ転生したのか、どこから来たのかも、なぜここにいるのかもわからなかった。
クラリッサ。君もそうだろう。』
「――まーね。」
沈黙。
クラリッサは、ふっと息を吐く。
「……ホント迷子ね。
まあ、これで詳しいワンレイディファーストキスのフラグ条件を確認できるなら、それでいーわ。」
今できることといえば、今回のループの記録を過去に送るだけってわけか。
そして次のループで、私はいないのだろう。
──メインコンピュータエリア。
の扉の前。
壁と同じ素材で構成された、無骨な隔壁。
高さは三メートル以上。
横には操作パネルがり、簡素なインターフェースから数値入力する仕組みだ。
『さて、君が知りたかったことのいくつかはこの部屋にある。
全てのログデータはここに集まるから。』
「なんの?」
『教会のレベル上げの儀式によって送られてくる、あらゆる経験値のログだよ。
レベル上げシステムの創設者は私だ。
当然、参照権限も私にはある。
でも隔壁が開かないね。
ラティア達と合流しようか。』
バキ!!
「開いたわ。」
『……』




