158話 精霊の永遠の主
マリアは落ちていた。
──魔力が尽きてる!!
《重力偏向》が……!!
ふわりと、風に受け止められていた。
「マリア……クラリッサは。
我が妹は……」
「セドリック様……
お嬢様は行ってしまわれました。」
空へと
アルヴェインがさらに小さく。
──お嬢様……
なんか世界の命運がかかっていても、かかっていなくても騒がしいというか、変わらないというか。
(なら、きっと大丈夫なのだろう。)
手を伸ばしても届かないところに行ってしまった。
そしてきっとその運命に従うのだろう。
筋肉の導きに従い、騒がしいままに。
アルヴェインのアストラドライブが起動した。
低く唸る音。
空間そのものが、押し上げられるような感覚。
「――うまく、いった。」
制御は、クラリッサにある。
(プロメテウスブレイクにはAIが詰まれていた。
それもびっくりするような性能の奴が。
それでコードを組んだ。
外部端末で直結。
プロメテウスブレイクの魔導侵食装置で、親機(アルヴェインの中枢システム)へのハッキング。
リーシャの通信魔術の応用で、水精霊の魔力を用いている。
一度侵入してしまえば、このハッキングの対処は精霊同士の格の問題で容易にはできない。
つまり一度入ってしまえばやりたい放題だ。)
──とはいえ。
とはいえだ。
I B I Sシリーズの爆発でクラリッサは外壁へと追いやられ、しがみついていた。
このまま宇宙へと飛び出したら死ぬ。
流石に。
加速度がgを生み出してクラリッサを縛る。
そして
見上げるように眼下をみる。
破れた外壁の向こうにそれは見えている。
星の姿を見せ始めたその光景を。
筋肉で宇宙に到達するわ。これ。
──風精霊視点。
──く。相当システムを食い破られてる!!
(これは……)
「やられた。制御が効かない。
あなたのお仲間?」
「まあの。
全くあやつめ。ようやったな。
私の動きも計算の上か。腹正しい。うまく使われたの……」
ラティアは、壁を背にして腰をつく。
──負傷が大きい。
風精霊め……殺す気で魔術を放ちおって……
動くことができる時間はもう……
戦闘はもう無理じゃ……
回復魔術を全振りしてなんとか話すだけのリソースを確保できている。
下手をすれば死ぬ。
風精霊はぶつぶつ言っている。
「航行はオートパイロット……
プロテクトを解除は……エラー
魔力の浸食は不可能……
コード解析……専門家か何かなの?本格的すぎる……!
なんてこと……介入できない……
行き先は……3万6000km上空。安定点……!?
でも無駄よ……
そこでアルヴェインは解体する……!
そこへ行けば、どちらにせよ、解体する……!」
「構わぬ。
風精霊。話を聞いてくれぬか。これが最後じゃ。
ダメなら好きにして構わん
もうぐだぐだ言わぬ。誓おう。
どのみち何も出来ぬ……
それにお主なら、私と話しながら奪われた制御権の対処もできるはずじゃ。
アルヴェインの航行システムの制御を奪い返すまででよい。」
「……」
沈黙は是。
「ほれ。受け取れ。
外部端末じゃ。
プロメテウスブレイクの。」
「……」
「お主ら精霊は、特定の段階に達した時、世界を作り変える性質を持つ。
空とは答えを意味していた。
精霊の永遠の主たるリーナが言っていた、紛れもないその言葉の。
その意味を示すものじゃ。」
「……これは……」
「答えはあった。
リーナの言葉、空へとは比喩でもなんでもない。
そして文字通りの意味じゃった。
答えは用意されていたのじゃ……
それがそうじゃ。
それをクラリッサに思いつきで言い当てられたのは、ひどく業腹じゃがな。」
安定点を使用した、軌道エレベーターによる精霊巡回システム。
閉じた世界の中で飽和するならば、より大きな循環を用意する。
クラリッサが提示した解決策と同様の循環プログラムが、プロメテウスブレイク内に隠されていた。
クラリッサの提示した答えは、まさに精霊変異に対する答えそのものだった。
風精霊は、思い出していた。
永遠の主。
その姿を。
彼女が1万年ほど前に記録上の存在になってから久しい。
けれど、確かにそのプランには当時と全く同じ温もりがあった。
めちゃくちゃで
振り回されて
だけどほっとけなくて。
主の言葉聞こえる。
『空に行くんだ。にへへ。』
やがて。
彼女は頷いた。
抱きしめるように。
戦いの終わりを、それは意味した。
「無理しすぎよ。ラティア。」
「お主がやったのじゃがな。」
ラティアは風精霊に治癒されていた。
「プロメテウスブレイクは、精霊飽和問題の為に残された繋ぐ為の装置じゃった。
ハッキング能力 の元は制御用インターフェース
魔導侵食 の元は精霊系接続
AI の元は“巨大システム制御補助
それが1万年前からのリーナからの現代へのメッセージ。
リーナは、答えに辿り着いておった
1万年前。
この星に来た時、私やお主はまだ生まれたばかりじゃった。
みんな死んだがの。
知っているものは我ら以外、いなくなってしまった。
気付かぬわけじゃ。
我らがそれから目を背けていておったのじゃから。」
「耳が痛い話ね。
アルヴェインの航行を安定させるわ……
最後のピースは私。
正確には、精霊変異を起こせるほどの力と、人工精霊であるが故にシステムに対して強い権限を持つ私……
当時はまだまだ力が足りなかった。
無茶苦茶なのよ……
馬鹿みたいに……
一万年も経っちゃったのよ……?」
「同感じゃ。」
アルヴェインは、なおも上昇している。
骨に響くような加速と重力が、クラリッサを身体を押しつける。
クラリッサに隙はない。
こんな事もあろうと、アイテムを持ってきており、それは肉であった。
アンダーカロリーは、カタボリックの直接的な原因の一つ。
つまりお肉を食べればあらゆることは基本的にはなんとかなる
そういうものだ。
ポケットから取り出した肉を迷いなく齧り、荒々しく租借する。
そして草ばっかり食べてるラティアに,渡された青汁。
──エリクシルだっけ。
飲めば栄養バランスも完璧。
まだ舞える。
周りを見る。
投げられる物体はない。
今敵に来られたら非常にまずい。
タフな戦いになりそうだ。
重力が逆に軽くなり始めたそこで、クラリッサは油断なく構えていた。
やがてアルヴェルンは到達し、上昇は止まる。
安定点へと入った。




