156話 このチャンスを待っていた
始まりの場所。
始点。
それが終点となるのは設計上の仕様か。
それとも何かしらの皮肉なのか。
──識別コード:AEW-07《Aerial Extraction Wind Unit》
恒星間大型旅船艦における自立循環型、素材収取ユニット。
分類:人工精霊(風属性)。
天然も人工も差はない。
少なくとも、性能や生育においては。
──初めは良かった。
始めは、良かったのだ。
すべては設計通りに動いていた。
流れは閉じ、資源は循環し、損失は限りなくゼロに近い。
恒星間航行における理想解がこの星でまわっていた。
それが、この“ゆりかご”だった。
主が死んだころか。
徐々にがんじがらめになっていく。
拡張。
再構築。
最適化。
大きくなり続けるゆりかご。
このままでは精霊そのものが世界を食い潰し、とんでもないことになる。
循環は閉じる。
世界を引き換えに。
どうにもならなかった。
臨界に至る前にアルヴェインを落とし、精霊の循環の仕組みそのものを変えるしかなかった。
『空へ。』
主の言葉。
今となってはわからない。
何を言いたかったのか。
──何を意味しているのか。
でも終わりだ。
あと、一巡。
空と星が、ゆっくりと回る。
景色が反転し、再び同じ位置へ戻るその瞬間、必要高度にアルヴェインは達して終わる。
主の言葉の通りに空へと到達した。
だけど、それが主の言葉が示していた意味なのかは……
「……」
もっと、別の“空”があったのか
思索を止める。
(侵入者。)
圧縮層を形成していた結界を破られた。
侵攻は早い。
おそらく内部構造は知っているものだ。
──妨害プロトコル軌道
資源再編処理
迎撃ドローン群
可変装甲壁や対侵入レーザー網を活用したセキュリティ群
突破。
一気に食い破られている。
そして稲光の音ともに彼女はそこに訪れた。
──雷精霊と同化し、一気に駆け抜けたか。
(魔力に恵まれている方ではないのに、よくやる。)
「ラティア。
来たのね」
「こうして話すのは久しぶりじゃな。
風精霊。」
彼女はそこに立っていた。
「ラティア。
止めに来ても無駄よ。」
「違う。
お主の想いは理解しておる。
提案じゃ。
その妥当性を判断してもらう。
話を聞いてもらうのじゃ。」
「意義を見だせない。無駄なのよ。
どうにもならない。
どうにもならないのよ。
もう何百年も話し合ったでしょう。その結果は何があるか知っていたはず。
そこに何かがあれば、こんなことになどなっていない。
なっていないのよ……」
「そうかもしれぬ……
我らは長き時をすごしたのじゃ……ともに。
もうかつての仲間達はいない。
そうじゃろう?」
「なら役目を……はたさなければならない。
あらゆるものを切り捨てて、何かを選ぶのなら私は役目を……
主から託された……役目を……」
──もう戦闘耐性入っておるな。
(それでもここで踏み込まねば終わる。)
「それでも、まだ選べる可能性は、残っておると私は思う。」
「ない。」
ゴボ。
口から信じられない程の血液。
ラティアは壁にたたきつけられていた。
「なぜ立つの?ラティア。
そろそろ死ぬわ。もう立たない方がいい?
あなたには役目があるんでしょう?」
「まだじゃ。
世界を変わる。変わっていく。
私達の心に同胞は生きておる。
それでよいではないか。」
「……
駄目。
止まらない。
止まってはならない。
約束を果たさなければならない
主との約束を」
「……
応えよ。」
雷が、静かに収束し、放たれた≪雷撃神槍≫
風精霊は手を振ってそれを容易くかき消す。
風が渦を巻き、風精霊が再度戦闘態勢を取り始める。
戦闘になれば、ラティアと風精霊では魔力に差がありすぎる。
戦闘になどならない。
ふと風精霊は手を止める。
「なるほど。別に部隊がいるのね。
あなたも囮。
でも気づいていたかしら。
アルヴェインの高度を上げる速度は上がっていた。
そろそろ高度に到達するわ。
あなたの命をかけた頑張りも無駄になったわね。」
──いかん。
(戦闘と同時にアルヴェインの切り離しをはじめる気か!?!?)
「ラティア。もうあなたに魔力そのものを編ませない。
そこで見ていなさい。
世界の終わりを。
そして始まりを。」
「やめよ!!話を聞くのじゃ!!!聞け!!!!」
「聞かないわ。」
アルヴェイン全域の制御リンクが、再接続されていく。
パージを知らせる警告灯が一斉に点灯する。
鳴動。
やがて。
アルヴェインの解体が止まった。
「……あなたのお友達?」
映像。
そこに映っていた。
「クラリッサか!?」
映像の中でクラリッサが叫んでいた。
このチャンスを待っていた、と。




