155話 退路を断ってでも。
リソースを全ツッパしているので、戦線は拮抗していた。
押し込めないが押し返されもしない。
ラティアは通信魔術にて指示を重ねる。
「右翼もっと右に」
「ドワーフ、今じゃ」
「左翼さらに圧が上がる。半歩引いて受けよ!!決して崩れることは許さん!」
──弾幕が強まっておるな。
そして空を覆う影。
雲の彼方より現れるは、整然たる影の列。
乱れず、淀まず、ただ秩序のみを宿して降り来る。
IBISシリーズ.
だがそれは織り込み済みであった。
一気にプロメテウスブレイクの魔導侵食装置による逆ハッキングを仕掛けて無効化。
数多の機は空に迷い、あるいは互いを撃ち、あるいは沈黙して動作不良を起こして落下。
シトリーは、空を統べる。
空域支配の為の嵐核暴走の制御をしながら、転移魔術の並行行使。
前回の戦いとは魔術制御能力が明らかに違うことが見て取れる。
──だけど。
戦況を見て増援を見て、クラリッサは舌打ちする。
獣人の姫シュナ達の本命の侵入部隊が機能していない。
プロメテウスブレイクのビームが、戦線を薙ぐ。
「リーシャ。
無茶して!」
「お嬢様もですからね!!
回復魔術はありません!」
アビスドミニオンの結界。重力偏向を張り巡らせるマリア。
防御兼壁役。
ちらりとクラリッサは戦域外を見る。
アルヴェインの遥か上空にさらなる嵐。
──さすがね。戦線ごと潰しにきてる。
(序盤も序盤だけど、もう余力はない。
こっちで元気なのは竜王くらいか。だけど竜王だけいても意味がないから……)
作戦の最終目標は精霊と対話をすること。
竜王は対話は出来ない。
なんならちょろい枠だから寝返るかもしれん。
「予想より抵抗が激しい!!!!
ラティア行って!!!」
『じゃが、私が行っては、精霊との対話が失敗した時に……アルヴェインが降下を始めた時に対処する手段が……』
「そん時は仲良く心中すればいいでしょ!?!?
水精霊を死にかけまで酷使するから、あなたがミスっても世界は崩壊しない!!
いけると思うから行って!!!!」
『う、うむ。死ぬなよ。クラリッサ。』
ラティアの雷が、空を裂いた。
風が弾け、雲が円形に吹き飛ぶ。
ラティアは虚空に刻まれた道の中心を一直線に貫き、風を切り、アルヴェインへ。
「お嬢様。本当に大丈夫ですか?」
「なわけないでしょ。
ミスったら世界は終わりよ。」
ぺろっと舌べらを出していた。
「うわあ。てへぺろしている。」
「失敗しなきゃいいのよ。
そうすりゃ成功だからね。
さあ、踏ん張りどころね。」
自ら退路を断ち奮い立たせる。
周りをとんでもなく巻き込んでいるが。
ラティアがいなければ、第二プランは失われる。
とはいえ、ここでリスクを取らなければ、そもそもプロメテウスブレイクを自爆させる選択を取るしかなくなる。
すでに二つに一つなのだから。
「とにかくこいつらを全員ぶち殺す。
私らは私らで道を切り開く。
いいわね!!!」
短期決戦。
道は、はなからそれしかない。
──手は打った。全部。
(侵入部隊は止められ。上空は制圧されつつあり、持久は成立せず、切り札は既に切った)
「秒で息切れするのは目に見えてた。攻撃をうけた部隊は順次降下。
風精霊もわかってる。降下部隊に追撃はない。
振り落とせば終わり。」
「お嬢様。戦況が……
限界かと。」
「潮時ね。
そろそろ私らも行くしかないか……
もうまともに戦える戦力って、私らと竜王くらいしか残ってないし。」
「行くんですか!?
帰りましょーよ!!」
「こんな事もあろうかと手は考えておいたのよ!」
「どんな時を予想してたんですか!?」
「ふふん。一点突破よ。
私らの十八番。」
まずは準備だ。
「リーシャ。聞こえる?
プロメテウスブレイクは、手がロケットしてパンチするの。」
『はい?』
「手が飛ぶのよ!!
人はこれをロケッ⚪︎パンチという!!
これをマリアの重力偏向で保護。
私とマリアをこれに乗せてアルヴェインへ突っ込む!!!」
「……」
(手が飛ぶんだー。そしてそれに張り付いて突撃するんだー……)
へー
できるかなー。
そして彼女達は飛んでいた。
圧縮された質量が、解き放れた、その先端。
「お嬢様!!
ヘイト集めすぎたんじゃ!?!?
ものすごく弾幕が集まってるんですけど!!?」
光が、収束する。
まるで空そのものが、敵意を持ったかのように。
「風精霊ってオバハンよね!!
相当お冠みたいな!!
シワが増えてそう!!」
「そういうこと言うからですよ!!
絶対聞いてますよ!!!」
空が、唸り弾幕が、収束が一点へ。
殺意が凝縮されるように。
「ほら!!!」
「いや、流石にないでしょ!!!」
竜王のブレス。
シトリーや,セドリックの援護。
「みんな!!
後で最高の筋トレメニュー考案してあげる!!」
それを聞いたものは思った。
いらねえ。
言葉自体はリーシャの通信魔術により届いている。
「抜けた!!」
ロケットパンチが結界へと到達する。
アルヴェインを覆うは、風の壁。
マリアが重力大剣で斬撃を放つが、逆に重力偏向が風の理に侵され、削られていく。
連戦の消耗で底が見えている。
──まずい!!出力が!!
「あとは任せて!!
筋力でこじあける!!
むうん!!」
≪鬼神脚甲≫
≪ 《耐衝撃のブローチ》
及び各種エンチャントの全開放。
──腕がぶち折れるまで、出力しろ
──マッスルストライク!!
クラリッサの右ストレートによって風が割けて、二人を乗せたロケットパンチが内部へと突き抜ける。
「うっし、抜けた!!」
「お嬢様ってとうとう結界すら筋力でぶち壊すようになられたんですね!!」
「エンチャントすればね!!!」
放り出されるようにアルヴェインへ。
空中庭園アルヴェイン中枢──
彼女はそこにいた。
長き時の前から。
気が遠くなるほどの長い時を、そこに。




