152話 全てぶち抜け
森の奥深く。
地表からわずかに浮いたその空間、その中心に竜王がいた。
ラティアが一歩前に出る。
「――解除」
そしてその男は、ゆっくりと顔を上げ、目が開く。
黄金。
濁りのない、意志の光。
彼はその目でリーシャを見る。
少女の体で世界の運命の一端を担うその華奢な体と、不安げな瞳を。
一瞬の静止とともに、そして彼は姿を変えた。
100m級のドラゴンへ。
翼が、空間を裂き、黒鱗が光を反射して軌跡を描く。
突入部隊。
空中庭園アルヴェインへ向かう突入部隊は、ひとつの軍ではなく寄せ集め。
だが同時にそれだけがエルフの森で今動けるすべてでもあった。
そもそも戦える者自体がほぼいない。
必然的にメンバーは限られる。
彼らは、おそるおそる竜王の背に乗る。
やがてクラリッサ達の番になる。
「でっかいわね……」
「待てクラリッサ。
お主、どうしてここまで。」
呼び止めたのはラティアだ。
「ラティア。
何よ今更。」
「なぜそこまでするのじゃ。
お主のおかげでアルヴェインはなんとかなるじゃろう。正直に言えば、すでにアルヴェインはうまいこと規模がけずれておる。
問題なく爆発処理できるはずじゃ。
もう良い。
お主は十分にようやってくれた。
あとは我らエルフに任せてくれれば良い。」
「それってエルフとラティアの命が引き換えでしょ。」
「うむ。
お主らは離れればよい。
我らに任せて、お主たちは逃げよ。
もともとアルヴェインは我らエルフの問題じゃからな。」
「意味ないのよそれじゃ。
言っとけど、私、ハイエルフマッチョ化計画を諦めたわけじゃないから。」
「は?」
ラティアは固まった。
なにそれ。
「今回の件でラティアやエルフとの関係性ができたから、アルシェリオン王国における筋トレ普及計画を前倒しにできる。
マッチョ大会は教義とぶつかることが目に見えてる。
そのための打開策の手段として、ラティアも獣人もドワーフも、エルフの森もアルヴェインも絶対に守る!!
守ってみせる!!!!そんで巻き込んでやる!!!」
ラティアは静止しつつも思案する。
「お主、まさか……
精霊とか
人助けとか……
そういうのは……」
「そんなクソみたいな理由で人が動くと思うな!!!!
絶対に精霊を手なずけて、エルフも手中にしてやる!!!!
アルシェリオン王国における聖女セレスティアの影響力はあまりに大きい!!
正面からじゃ無理なのよ!!
他種族連合でマッチョにおける普遍的価値を作り、同調圧力でアルシェリオン王国におけるマッチョへの教義をひっくり返すしかない!!
絶対世界筋トレ大会を開いてやるんだ!!!!
こんな所で足踏みしてられるか!!!!
言っとくけど、エルフに死んでる暇なんかないから!!!
そんなに滅びたいなら。筋トレ大会の後にして!!!」
「ま、まさかお主最初から……」
「当たり前でしょ!!!
なんで下心もないのに、命をかけないとならないのよ!!!!
来るべき世界筋トレ大会の為に絶対にエルフの森は助ける!!
絶対に滅ぼさせたりなんかしない!!!
なぜなら早く世界筋トレ大会を開かなければ、私の筋トレの時間が無くなってしまうのだから!!!!
なんで恐ろしい……
人生はあまりに短い!!!!
誰一人殺させない!!!
エルフも!!
ラティアも!!
各国の人達も!!!
ここにいる奴ら誰一人よ!!!!
止まってる暇なんてない!!!」
「あはははは」
ラティアは笑っていた。
肩を震わせて。
「な、なによ。
どうしたのよ。」
「なんでもないのじゃ。
……抑えようとしても、止まらぬな。
そうじゃな。
確かにその通りじゃ。
エルフの森を救うぞクラリッサ。
全部総取りじゃ。
一切とりこぼさぬ。」
「今更何言ってんのよ!!!
当たり前でしょ!!!
こっちは最初からそのつもりよ!!」
クラリッサは息まいて竜の背に乗っていく。
ラティアはそれを見届ける。
──これが、クラリッサ・グランディールか。
理も、秩序も、覚悟すらも踏み越えて、それでもなおすべてを掴みに行く者。
筋肉に従って。
竜が、空を裂き、高度が上げていく。
風が叩きつける程強く、足場が揺れる。
鱗に掴まなければ、落ちる。
「いい。
作戦を説明する。」
遠く。
そして近くアルヴェインが見えている。
歪んだ気流の中に浮かぶ、異様な影。空を覆う程に大きい。
「現在のアルヴェインは高度7.5km。。
制限時間はおそらく明日のこの時間まで。
つまり今から24時間以内にアルヴェインに到着し、なんとか風精霊とコンタクトを取る。
できなかった時点で、作戦は降下するアルヴェイン爆破計画に移行。
速攻でラティアを同行させているプロメテウスブレイクに搭乗させて、自爆特攻させる。
その際自爆の衝撃で、降下するアルヴェインごとエルフの森を含めて周辺一帯は全滅。
世界崩壊は免れるけど、この場にいる全員は間違いなく死ぬ。
文字通り崖っぷち。
一歩でも下がれば死ぬ。
失敗しても死ぬ。
目標達成が一秒でも遅れても死ぬ。
絶対生き残れない事を保証できる。
問題のアルヴェインは風精霊の支配下にある。
完全にハッキングが進み、風精霊によってシステムはおそらく完全に掌握。
精霊の抵抗は想像を絶すると思う。
風精霊は、今や子を守る母親の気持ちでその警戒度は最大。
大してこちらの戦力は搾りかすみたいなもの。
人数も。
質も。
さあ、絶対絶命よ。
面白くなってきたわね。」
聞いている者は全員思っていた。
なんも面白くねえよ。
クラリッサは笑う。
ベンチプレスの記録に挑戦します。
そのノリで。
だけど。
だからこそ。
全部ぶち抜くわ。
第一陣。
クラリッサ及び。セドリックグランディール
第二陣
竜王及び、ラティアを筆頭とする各種族の混成部隊
第三陣
リーシャがギリギリで稼働させたプロメテウスブレイク。
だがプロメテウスブレイクは移動と、自爆用のエネルギーしか用意できていない。
よって戦力は望めない。




