130話 世界魔術論文大会にて
広大な講堂。
段状に連なる席には、各種族の魔術師達が並ぶ。
その最前列。
エルフ。
ハイエルフ。
ドワーフ
獣人
人族
視線が集まる。
測るような目。
値踏みする目。
──知った顔がいるな。
──さすがに幻覚魔術を使用しているとはいえ、気づかれたか。
観客席にいる魔族連中だ。
その表情に軽い驚きが見える。
(まあ、驚くだろうな。
まさか追放された魔王軍四天王がこんなところで、人族代表論文の替え玉発表をしているとは誰も思うまい。)
自分が逆の立場でも、全く同じ反応をするに違いない。
「人族代表シトリー。」
そしてシトリーはそれを言った。
壇上で毅然と。
「本来、人族代表はクラリッサ・グランディールがこの場に立つ予定だった。
だが、腹痛で倒れた。
よって代わりに私が発表する。
原稿もここにあるからな。」
場は少しざわつく。
マリアは舞台袖でそれを聞いていて思った。
(腹痛……
理由はそれでいいんだ。)
強く思う。
理由が雑だ。
本来の出場者がいない。
それで場が荒れる事は十分に想定できた。
まずは仮病の言い訳でそれを抑える。
流れるようにシトリーは論文の説明をはじめる。
──大事なのは出場者ではない。論文そのものだ。
それが人族代表足るものであれば、問題は一切ない。
まず実物を用意した。
計算機。
シトリーは指を軽く振ると、空間に魔力が走り、展開。
淡い光の板が幾重にも重なり、立体的な構造を描き出す。
プロジェクターと同様の投影魔法。
空中に計算機の内部構造まで透過された“装置”が浮かび上がる。
流れるような超高等魔術の行使。
それだけで、各種族はシトリーの魔術制御力を感じ取る。
シトリーは一歩、前を向く。
名乗りは短く、余計な演出はいらない。
「論文『魔術におけるパソコン進化への可能性。』」
ざわり、と会場が揺れた。
「計算機の構造は、単純だ。
これが機械の制御装置のコアになる。」
空中の像が変形し、中核部分が強調される。
CPUの画像。
幾何学的な魔術式が、層状に並ぶ。
「これがいわゆる演算核──いわゆる装置に刻まれたコアとなる積層型魔法陣に相当する。
便宜上CPUと呼称する。
魔術式を積層し、条件分岐と反復処理を組み込む。
要は“判断できる魔術”だ。」
シトリーは指を鳴らした。
数値が、空中に並ぶ。
「計算を成立させるため、入力した数値から計算結果を出すためには並列魔術が必要だ。
あらゆる計算をこれで算出することができる
必要な並列魔術数は、およそ1000。
だが、重要なのは総数ではない。
1、接触したら発光する”程度の反応
10、温度が高ければ冷却、、低ければ加熱
100、反復処理と蓄積。一定回数ごとに動作し、時間、回数、順序──“手順”を扱える。
1000、簡易演算機。複数の条件を組み合わせ、処理する。
計算機は、この1000の魔術を刻んだ回路となる。」
それぞれの数字に応じた画像が、空中に描き出されていた。
「構造上、そして制作技術上、回路内の魔術総数はすでに1000にとどまらない。
つまりパソコン進化の可能性は、これを10000.100000との伸ばしていく中で、その機能の拡張と同義だ。
なお、計算の証明は資料があるので提出してある。
確認してほしい。」
ざわめきが、理解へと変わっていた。
それはやがてすぐに評価へと。
「次にこの機能の進化の可能性を説明する。
これがこの論文の主旨となる。
計算機をさらに発展させる。
つまり魔術制御演算における魔術の在り方にせまるものだ。」
クラリッサの論文は、シトリーの手により脱線し始めた。
「まずは概念図を示す。
回路数は1万。
おそらくだが、近々実装されモデルに近いものだ。
1万もの魔術回路を扱えば、異なる役割を重ねるように、一つの総体と成していく形になる。
演算核。
記憶領域。
入出力制御などだな。」
空中の投影が、さらに変質する。
そして会場の空気がさらに変わる。
半ば凍りついていた。
映像が切り替わる。
爆発。
崩壊。
崩れ落ちる構造物。
先の戦争でよくみられていた光景。
まだ心の傷が言えていない者も多い。
「魔族に伝わる大規模魔術を、計算式として算出することも可能だ。
都市規模の魔術式は、当然幾重にも重なる演算層が必要になる。
皮肉だが、その魔法陣は、この回路の概念図によく似ている。
終焉降下
地殻断裂
黒炎飽和
嵐核暴走
などだな。そこから
想定被害。
死者数。
資源損失。
などを使用前に全て導き出す事ができるだろう。」
一瞬、間があった。
「死体の再利用効率。
つまり、アンデッド化による戦力転用も計算に落とせる。
いかに効率的にカタストロフィーまでつなげるか、事前に計算できるわけだ。
これは今までの魔族の全世界への進行を根底から覆すものになるだろう。」
シトリーは続けた。
ぶっちゃけ知的好奇心に従って、考察していたら、なんかはっちゃけていた。
結界の無効化。
魔術回路の上書き。
外部干渉による制御奪取。
魔術体系の無効化。
領域魔術の奪取。
防衛結界の内側からの崩壊。
淡々と。
本当に、ただの“可能性の列挙”として。
時間をかければ間違いなくそれらを達成できるだろう見込みのあるものを次々とあげていく。
なんなら現時点でもそれらのいくつかは、実現が可能だった。
破壊効率の最大化。
世界崩壊まで待ったなし。
その一点において、シトリーの危険性は魔王を遥かに超えるものとしてとらえなおされようとしていた。
それはもはや発表ではなく、単なる魔族による全生命殲滅作戦のブリーフィングだった。
「──以上だ。」
シトリーは、そこでようやく言葉を切った。
静寂。
誰も、拍手をしない。
誰も、評価を下さない。
ただ全員が、理解していた。
(こいつ、絶対人族じゃねーだろ!!!!!)
「……質問は?」
最前列。
椅子が、重く軋み。ドワーフの長老が、ゆっくりと立ち上がる。
「あるに決まっておる。
視点があまりに魔族過ぎる。
見覚えのある顔だと思ったら貴様か。
魔族四天王シトリー」
シトリーは思った。
そして首をかしげた。
「え!?なぜばれた!?」
マリアは思った。
たりめーだよ!!!!!




