126話 アイビス
広間に出た。
天井は高く、円形に開けている。
地下の洞窟とは思えないほど広大な空間。
その中央で、人の形をして翼を持つ機械が、静かに稼働する。
胸部に収められた複合砲門が、ゆっくりと開き、滑らかな外殻の内側には、無数の杭状ユニットが並び、獲物を測るように震える。
金属の羽根が、滑らかに展開し、翼から赤い光が裂けるように広がり、空間そのものが焼け焦げたかのように歪む。
空気を叩く衝撃。
巻き上がる風圧。
そして、空気を焼く音と匂い。
「ね、ねえ……なんか、飛んだんだけど。」
「そうね。優雅ね。
慣性制御や姿勢制御が卓越してるんでしょうね。
離陸が、宙を歩くように滑らかだわ。」
「解説してる場合じゃ……!?」
リーシャが、わずかに後ずさる。
「優雅ではないの。
展開した推進装置が高出力でエネルギーを噴射し、浮力を生み出している。
うるさいじゃろ。逆に」
「ラティアさんも!?」
空気が裂ける音。
金属の腹の奥から叩き出されたような重低音。
さらにその上に、甲高い擦過音が重なり非常に煩い。
空気が焼かれ、削られ、悲鳴を上げている。
宙に浮かぶ翼を持つ金属の人型が、こちらを見下ろすようにさらに高度を取る。
赤い光が、収束した。
「来るぞ。」
ラティアの声と同時。
赤い粒が、ひとつ。
空中に、静かに灯る。
音が遅れて追いついた。
「リーシャ。抱えるから!
ビームね!!」
「何が起きたの!?!?」
「ビームよ!!」
「いや、全然見えないんだけど!?!?」
リーシャが叫ぶ。
すでに光線が地面をなぞり、大地を切り裂いていた。
「と。曲がるのね。」
「そうじゃな。誘導性能がそこまで高くないのが、幸いかの!」
ラティアは身体強化魔術を用いて、慣れた様子に誘導レーザーを躱す。
「く、クラリッサさん!?なにこれ!?
無茶苦茶光ってるのが追ってくるんだけど!!」
「目標の動きに合わせて、軌道を変化させてるのよ!!
おそらく魔力か、何かしらのサインに反応してる!
何をサインにしてるか、それを確かめる時間はない!!」
「数が……っ!」
十。
二十。
いや、それ以上。
いつの間にか、浮遊砲台端末オービットが散開し、それぞれが“発射口”となっている。
「くそッ!
曲がるなって!!」
急降下してくるもの
大地すれすれを滑るもの。
時間差で一本が、遅れて角度を変えた。
大地に触れる寸前で、跳ねるように反転し再び、追尾。
遅れていたエネルギーが一気に解放され、爆発となって炸裂する。
遅延起爆式の光弾頭。
空間に刺さり、時間差で世界を裂く誘導兵器。
爆光の中でIBISシリーズは、ただ静かに浮かんでいた。
煙の晴れた先、一行の姿はない。
すでに岩陰に隠れていた。
「っぶな……
死ぬかと思った。
リーシャの魔法障壁がないと腕の一本は持ってかれてたかも。」
「いや、そうなったら死んでたんじゃないかなあ……」
──一つ一つのオービットが、独立して思考しているかのように、最適な侵入角を選び取る。
──肝心の目標は、空中に浮遊。
(そして、初手で派手に誘導式の光学レーザーの掃射。
これ、パーティーがパーティなら手も足も出ずに沈む!)
「なんで見失ってるのかな?あいつ。」
「チャフね。
ラティアが撹乱してる。
この手の敵に慣れてるのは伊達じゃないわね。
さすがババア」
「怒られるよ、それ。
チャフって?」
「一般的だと金属の粉。
実際は不明だけど、用途は同じのはず。」
チャフを一通り巻いたラティアが2人が潜む物陰に合流する。
「だから誰がババアじゃ。
センサーを“騙す”ための餌を撒いた。
彼奴の攻撃はただの光ではない。オービットが観測し、軌道を補正する。
とはいえ撹乱は長くは持たん。
粒子の動き、密度、熱……時間が経てば全て分析され、見破られるからのう」
「……絶対殺すマシンじゃん。」
「ガーディアンじゃ。
そりゃそうじゃろ。侵入者は殺してなんぼじゃ。」
「合理的ね。
設計者と気があいそう。」
「私は、絶対友達になりたくない。」
「まあいいか。倒しましょうか。」
クラリッサは足元に目を向けると言った。
「むうん!!!!
うっし。命中。」
「今おぬし……
何をした?」
「いや投石だけど?
サイズ的には投げる岩かな。投岩?、」
「……」




