125話 無機物モンスター種
「ラティアじゃ。
よろしくな。」
ハイエルフのラティアは、挨拶をした。
「クラリッサ。」
「リーシャです。
ラティアさん。ここってエルフの聖域だけど、私達も一緒に進んでいいの?
私達人族だけど。」
「精霊を連れておるしな。
……それに、道中の魔物は少々厄介じゃ。
手助けはありがたい。
道案内は必要じゃろ?」
「まーね。迷子になるのは御免だし。
リーシャ。クソガキの反応は?」
「まだ先みたい。」
「決まりね。」
地の底の割れ目のダンジョンを進んだ先。
苔むした石壁の奥。
リーシャが、ぴたりと足を止める。
声が、わずかに引きつっていた。
「……ねえ。あれ――」
視線の先。通路の向こう。
そこに立っていたのは、人の形をした、異様な何か。
金属の外殻。
関節ごとに走る鈍い光。
無機質な“目”が、こちらを捉えている。
クラリッサが、ぽつりと呟いた。
──ガンダムじゃん……
(……いや、違うか。
よく見たら全然違う。
どちらかといえば、機械を素材にしたもっと単純なゴーレムに近い。
つまり機械がモンスター化したもの。
メックウォーリアーって感じ。)
※結局機械。
ラティアが言う。
「古代機構に、精霊やあるいはそれに類するものが入り込んだものじゃ。
リビングアーマーを想像すればよい。
性能は段違いじゃがな。
気張れよ皆の者。
油断すれば死ぬぞ。」
それは、明らかに“異物”だった。
人の形をしている。
だが、人ではない。
黒い装甲。
だがその隙間から覗くのは、骨格のような金属フレーム。
関節は滑らかすぎるほどに可動し、逆に“生き物らしさ”を欠いている。
背には、過剰なまでの武装ユニット。
砲身とも、触角ともつかぬ構造物が、左右に突き出していた。
足は細く爪のように尖り、床を“掴む”ように立っている。
そして腕関節が稼働し、そこに取り付けられた銃口はクラリッサ達に向けられていた。
次の瞬間に空気が裂け、遅れて叩きつけるような衝撃音。
さっきまで立っていた石床が、爆ぜて“抉り飛ばされ、一直線に穿たれた溝に焼け焦げた断面。
石が溶けている。
「……なに、今の」
リーシャの声が震える。
リーシャの体を抱えて、クラリッサはすでに地を蹴っていた。
「リーシャは、絶対に魔法障壁を切らさないで!!!!
小さい石礫が見えない速さで飛んできてる!!!
威力は見ての通り、岩盤を破壊するほど!!
身体強化に全振りすれば見えるかもね!!!」
「こわっ!!!
ちなみに直撃すると!?!?」
一瞬の間とともに次の一撃が横の岩柱を掠め、岩柱の“上半分”がずるりと滑り落ちた。
断面は、砕けず、焼けて、削れて、抉り取られている。
「当たった部分が、そのまま“削除”される感じ。
防御とか関係ないわね!」
「無理無理無理無理!!」
「筋肉でいけるかな!?直撃してみていい!?」
「だから無理だって!!
あとなんでそんなテンション高いの!?!?」
「先ほどは遅れをとったが、この手の敵は私に任せろ。」
ラティアが手をかざす。
紫電が、彼女の指先から奔る。
飛来してきた弾丸が、ラティアの目前で軌道を歪めた。
ラティアの前で見えない壁があるかのように、弾丸は制止する。
弾丸の周囲に、細い雷が絡みつき、目に見えぬ磁場がその進行方向を“拘束”していた。
「雷律・反転。
返すぞ。」
雷を引きながら、弾丸が逆流し、直撃とともに紫電が弾ける。
機械はひるむ。
「ラティア。
それができて、なんでさっき澱核魔像に手こずるのよ。」
「相性の問題じゃな。
雷は土には効果が薄い。
私は、質量でのゴリ押しがどうしても苦手だからの。」
「対して、今回の相手は機械だから電気がよく通るってわけか。
まあ、筋肉の前には関係ない。
バックドロップでいいか。
拳痛めそうだし。」
クラリッサは、間を置かず踏み込む。
床が砕け、弾丸の軌道を縫うように、一直線。
一気に至近距離まで肉薄する。
機械が迎撃に腕を上げるが、その前にクラリッサは装甲ごとそのまま持ち上げ、重心を崩して地面へと激しく叩きつけた。
バックドロップにより、その機械モンスターは沈黙する。
「澱核魔像よりは、マシだけど、まだ軽いわね。
うっし。
とはいえガンガン行きましょう。」
「流れるような身体強化魔術。
まるで魔術が発動した瞬間がわからないほどの練度じゃ。」
「いや、そんなん発動してない。
魔術なんてトーチくらいしか使えないから。」
「なるほど……?
……は?」
ラティアは思った。
それって単なる筋力じゃん。
洞窟を彼女達は進む。
奥から這い出してきた機械の群れに、ラティアが静かに弓を引いた。
放たれた矢は、淡い光を帯びながら機械へと突き刺さり、雷の音とともに一気にショートさせる。
雷属性付与された弓矢だ。
機械に対して特攻
外殻を焼きながら“中”を壊す。
その隙を、リーシャが逃さない。
水が収束し、リーシャの水のレーザーが雨のように放たれ、機械の群れを貫き一掃する。
「少しは慣れたようじゃな。
見事な魔術制御じゃ。」
「はい。
今はいい子みたいで。」
「ふむ。
精霊の機嫌次第で能力が増減するのか。
面白いのう。」
クラリッサは思案する。
──なぜここに機械が。
(対処はできる。
だが問題は、なぜ機械なのか。
機械が魔力やらの影響で、機械がモンスター化する。
それ自体は、あり得る話だ
なら前提として、“元になる機械”が存在していたはず。)
──エルフ領よ?ここ
自然と精霊の支配する土地。
人工物とは、最も縁遠い場所。
(その中枢。空中庭園アルヴェルンの地下に、なぜ機械モンスターが?
魔物は、生息域の魔力によって発生する以上、生成させる魔物は、その地域の影響を強く受ける。
この周囲に、機械に由来する“何か”がある。
今、リーシャの精霊への感応で精霊のいる地点に向かっている。
なのに近づくにつれ、より多くの機械が立ちはだかる。
これは不自然じゃないだろうか。
精霊と機械?
これは同居する?)
足を止めずに、視線だけを巡らせる。
戦闘によって崩れた残骸。
散らばった破片。
そして、襲い来る個体数。
(……多すぎる。
生成されているの?
それとも……?)
広間に出た。
天井は高く、円形に開けた空間。
その中央で、翼を持つ機械が静かに稼働していた
赤いセンサーの光が揺れている。
「IBISシリーズ。
強敵じゃな。」
鳥の名が示す通り、それは空を飛ぶ。




