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転生悪役令嬢の筋肉無双  作者: 無印のカレー
後編。海合宿収拾編

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106話 届いた声

魔族はボロボロだった。


その衣は、もはや衣の形を留めていなかった。


もともと布の少ない装束だったが、焼け焦げた布は裂け、ところどころが灰となって消えている。


戦いの痕跡が、その身に刻まれていた。


その身は無残に焼かれている。

黒い煙が、衣の端から細く立ちのぼっていた。


プラズマの奔流を受けながら生き延びたことは、賞賛に値する。


──ただ。衣類が……

もともと高位魔族って水着みたいな恰好してたのに……

どうしよう……目のやり場が……


クラリッサは、一瞬だけ視線を逸らした。



額に手を当て、クラリッサは集中し直す。


──あの肉体……筋肉はないわね。

鍛えないと……


多分魔術ばっかりやってきたのだろう。


軟弱な筋肉を見ると、ついついその改善プランについて考えてしまう。


「考え事とは舐められたものだな!!」

「は。しまった。考え込んでしまった。」


魔術の一撃。

まずい。

直撃する。


「おっと。」


セドリックがわりこんでくる。

魔術は壁に逸らされた




「兄上!!助かります!!」


「先ほど、魔族の能力は把握したからね。

あとはこの戦場の持つ荒々しさに身を任せれば、十分押し切れるだろう。」


「なるほど。なら大詰めですね。マリアもお願いね。」

「お任せください。」


マリアの一撃。

斬撃が空間を裁断する。


「くそが!!!!」


──高位魔族の戦闘方法は魔術。


(もう切り札はないと見ていい。

あったとしても十分処理できる。

任せていい。)



黒曜魔杖ノクス・ケイオスも、重力大剣アビスドミニオンのいずれも、魔族の所持していた戦術兵装だ。


重さと圧力で地面を凹ませ、魔族の動きを制限する。

そこに黒曜の刃が空間を切り裂き、空気の振動が鋭い衝撃波となって魔族を押し潰そうと空間を制圧する。


剣を振りながらマリアはちらりとクラリッサを見る。


──お嬢様。

──リーシャちゃんをお願いしますね!!


大詰めだ。




水精霊。

青い髪をたなびかせる少女が、宙に浮かぶ。


──精霊は、神格的存在。世界の神秘や聖性を象徴する。

──確か水を通して生命力を与え、死や腐敗を抑制するんだっけ。


(設定では確かそう。

リーシャのような重要人物や、世界に影響を与える存在を守る役割も担う。

リーシャを水の胎内のように包む幕は、この保護者性の現れ。)


──ただ完全に失敗してるのよ!!

──どうでもいいけど!!


(保護者しすぎて、世界の重要人物を魔力の奔流にぶち込んでどうすんのよ……)


「リーシャお姉ちゃんの意識は沈んだ。

もう声はとどかないと思うよ」


「状況説明どうも。涙がでるわ。近づいても?」


水精霊は、無言でそっと道を譲る。


リーシャは、水の胎内のごときそこに浮かんでいた。


「リーシャ。

まだ出会って間もないけど、私たちって、いろいろあったわよね。」


声に反応するように、結界が水の竜となってクラリッサを襲った。


「くっ……」


それを甘んじて受ける。


──多分距離に反応する感じかな。


(リーシャは精霊へと姿を変じようとしている。

蛹から蝶に帰るように。

これは、その蛹の防衛機能。

今は無視、無視。)



「逃げないと死んじゃうよ?人間。

リーシャお姉ちゃんは眠りの中にあるの。

眠りを妨げるものは、精霊の力が自動迎撃する。それは甘くない。

それにリーシャお姉ちゃんはもう、私の手からは離れている。

つまり、時間は限りなく少ない。」


「さっきから説明どうも。

だけどいいの?手をかして。リーシャおねえちゃん起きちゃうかもよ?」


「やれるだけ、やってみるといい。

無理なの。お別れする時間くらいはあってもいいから。」


言いながら、クラリッサは分析する。


──この水、魔術みたいなものか。


(破壊はできるけど、リーシャの魔力が続く限り無限生成。

そしてリーシャは、すでに自分以外のところから魔力を運用しているから

その魔力は無限と。)


水でありながら刃をもって、クラリッサの肌をえぐる。

前腕でガードしたが、血が地面を濡らした。


「リーシャ。

私、今だから言うけど、私ってずっと怖かったんだ。

あなたと出会ってから。ううん。出会う前から。

だってあなたの運命は、私をきっと殺すから。

どんな運命がくるんだろうって、本当に怖かった。

だけど。」


リーシャと出会ったからの毎日を思い出す。

そのイベントを。


「拍子抜けなのよ。


いきなり心停止するとか、

いきなり手がもげるとか、

そういうのを想像してた。


こんな程度なら、いくらきても跳ね返せる。

世界が沈む程度で破滅とか、笑わせるわ。」


踏み込んで拳を放ち、そして水の竜をその勢いで吹き飛ばす。


水は再度形をとり、クラリッサを締め上げた。

先ほどよりも強い。


「運命は越えられる。

越えてみせる。」


全身に力を入れる。振り払うように。

再度水流を吹き飛ばした。


クラリッサはリーシャの前に立ち、手を伸ばす。

水の胎盤に触れる。


暖かい。だけど、この暖かさに溺れ続ければ戻れなくなる。


「ザ・レイディーファーストキスの運命を克服できるなら、あとは私とあなたの話じゃない。

私たちの話。


また行きたいわね。リーシャ。

イチゴショートケーキを食べに。

私は水しかのまないけど……

あなたは戸惑うかもしれないけど。なんなのって」


クラリッサは思い出を一つずつ読み上げた。


「猪料理のソースだっておいしかった。

本当においしかったんだから!!

リーシャの家に遊びに言った事。

グランディール領で筋トレをしたこと。

夏合宿。

補講の掃除。


あなたは絶対言うわ

そんな小さなことって!!


でも少なくともそれが予想できるくらいには、あなたの事を,知っているつもり!!」


──それはくだらないことだ。


きっと10年後には覚えてない。

1年後にはかすかな記憶になっている。


(だけど。違うんだ。

筋トレ大好きだけど、その時に自分がいくら筋トレしたかなんて覚えていない。

だけど積み重なった筋繊維は、確かにそこにある。)


それがどんなに薄ぺらくたって

それしかないのなら、それを全力で行う。


伝えるときは、超伝えるのだ。

それがどんなにくだらなくてもだ。


やるか、やらないか。

伝えるか、伝えないか。

1か0かではない。

伝えるか、超伝えるかしかないのだ。

1と100しかないんだ。


なぜなら日課でのみ、筋肉は進化する。

そうであるなら、それは、クラリッサの愛の形そのもの。


毎日ダンベルを持ち上げる理由など、愛以外ない。

愛がなければ、だれが筋トレなんてするものか。


1を1やるのも、1を100やるのも同じようにつらいんだ。

だけどやるんだ。愛してるから


だからクラリッサは伝えにきた。

リーシャに。


リーシャのいる日々を。その毎日を。

だから自分はここにきたと。


大それた運命なんてものがなければ、そこにいるのはただの一人と一人なのだから。


毎日の積み重ねで絆が育まれる、単なる友達なのだから。


永遠と繰り返される筋トレのように、それは毎日ただ顔を合わせるだけの、関係だとしても。



「たたき起こすから。

後ついでに言うと、私が遭難して、あなたが救助きて、逆に水精霊に唆かされて遭難するとか、ミイラとりがミイラじゃない!!

とんだレスキューだから!!」


クラリッサは拳を構えた。


──初めから決めていた。


全部ぶっ飛ばす。


全部だ。



叩き起こす。

寝てたら目を覚まさせる。

壁はぶち壊す。


──それしかないし、これからもそうしていく。


(そして、そうしてきた。

食らいなさいリーシャ。

これは魔王戦線にて、魔王を殺した一撃。

眠たいまま、そんな優しさに抱かれたまま、受け止め切れるとは思わないことね!!!!)


──マッスルストライク。


「死にたくないなら起きなさい!!

リーシャ!!!

偉大な魔法使いになるんでしょう!!!」


それは,純然たる筋力をフル稼働させた単なる全身運動。


拳の衝撃は突き抜け、水の繭に罅が入る。


水が流れ出し、流れ出るリーシャをクラリッサは受け止める。





「ごほっ

ごほっ」


──救出には成功……生きてる!?

──呼吸も問題なし。


やがて。


「声が大きいよ……クラリッサさん……

全部、聞こえてるから……」


「反応しない方が悪いじゃない。」


ミッションコンプリートだ。





「クラリッサさん……そんな事を言いに来たんだ。

そんな当たり前のことを……すごく青臭い……

よくそれで起きると思ったね。」


「大事なことでしょ。リーシャ。


持てないものを、持ち上げるまでやるのが筋トレなんだから

だから伝わらないなら、それを伝わるまでくり返すんだ。

何度だって絶対に伝えてあげる


ずっ友だって。」


昭和。圧倒的に昭和。


「ずっ友……

うわ。青臭。」


ドクン


リーシャの体が震える。



──無理だよ。たとえ一時的に意識をとりもどしても、すぐに私と一緒になる──


水精霊の少女がそこに浮かんでいた。


クラリッサは、リーシャを抱えたまま不敵に笑う。


「クラリッサさん……逃げて……

私にこの力は扱えない。また……飲まれる

だめ……

■■■■──!!」



水の竜巻も、海象も、全てリーシャが精霊となるまでの繭みたいなものだ。


それらを突破し、リーシャの元に辿りついても無駄だ。

なぜなら、全ての原因は、リーシャが精霊を制御できないことに起因する。


その根本的な解決がなされていない。



リーシャの精霊化が始まる。


光と水の揺らぎが彼女の周囲に広がる。

その瞳は徐々に深く澄み、青と白の光が混ざり合い、まるで海そのものの魔力が彼女から湧き出していく。


クラリッサは頷く。


「セレスティア。お願い。」


声が合図のように。世界は光に包まれ


そして。




制御が、なった。



「あれ……?無事だ。」


「あたりまえでしょ。

私とイチゴのショートケーキ食べに行くんだから。

でも水でいいけどね。私」


そういって戸惑うリーシャのおでこを、


クラリッサは指先ではじいた。


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