105話 ようやくたどり着く。長かった。
クラリッサ主装備:耐熱打撃具≪巨神護手≫
超高耐熱魔金属(ミスリル+竜鱗合金)
状態:魔術防御≪熱遮断エンチャント≫
セドリックが付与。
まずは圧縮空気の準備から始めた。
セドリックの風圧操作による、大気圧縮の開始。
最初は風の低い唸り。
次に空気の流速が音速を超えはじめ、パキパキという歪んだ高音。
最後は雷のような金属を擦るような音。
そこに空気が集まり、圧縮に圧縮を重ねて青白い光が形成され始める。
──プラズマ。
空気は、さらに悲鳴を上げるような高音を発しながら、密度の限界を超え、風の檻の先に青白い小さな恒星の核を出現させる。
それに向けて、クラリッサは拳を構える。
熱・衝撃・電への各種耐性を高めるエンチャントは、終えている。
圧縮された空気を全力で殴打。
すると魔力と混成した超高密度のプラズマ流束が射出され、その流束を、魔術により管状に整形。
空気を圧縮しながら前進することで、発光+衝撃波+直線的裁断効果を同時に再現し、空気圧・熱・光の混合で破壊力が生まれる。
ドォン!!
拳が触れた瞬間の、圧縮空気の解放。
青白いプラズマが一直線に射出された。
それは衝撃波とともに前方に噴射。
砂と岩を剥ぎ取りながら拡散し、同時に放射状に空気爆発をもたらす。
青白い発光が視界を洗う。
周囲に衝撃波リングが発生。
雷の槍が生まれた。
破壊力は、それはもはや圧縮空気の砲撃の規模ではない。
プラズマ化した砲弾を打ち出す、戦艦の主砲そのものだ。
プラズマ化したガスが、周囲を照射し、島の一部が完全に崩壊する。
岩が蒸発。
木々は影だけを残して消え、遅れて轟音が追いつく。
島を貫通して反対側の海岸線の崖が耐えきれず崩落し、大量の岩塊が海へ落ちた。
そしてクラリッサは、この世の終わりのような焦げた匂いと粉塵の中で悟った。
思わずセドリックの方を見る。
肩をすくめていた
──我が妹、流石にやりすぎ。
──ですよね!!!!
(これ、絶対にだめだ!!!
絶対に出力が高すぎる。
絶対に封印しよう!!!
圧倒的大崩壊!!!
まごうことなき惨状!!
やりすぎた……
完全に勢いだけでやりすぎた……
島ごと精霊を吹っ飛ばしたかもしんない……)
クラリッサは、ダラダラと冷や汗を垂らしていた。
「これ、やばいかも。
リーシャ生きてる?
これ……」
「クラリッサ……な、なんなんですか?今の?」
「ごめんセレスティア。
ホントはかめはめ波みたいにしたかったんだけど、それだと風の動きを抑え込めなかったの。
ベンチプレスに近い形にならざるを得なかった。
だからファイナルフラッシュで……」
「いえ、そうではなく……
島が……」
「そりゃそうよね!!
ノリで何とかなる気がしたけど、ダメなものは駄目よね!!
ごめんセレスティア!!だめかも!!
リーシャをぶっ殺しちゃったかも。」
「いえ。それは、大丈夫ですけど……
島も無事です。
あなたがうろたえている隙に、魔族逃げましたよ。」
空へ消えていく魔族の姿を捉える。
「あ、そ、そう。生きてるのね?
セーフね。マジでセーフ……マジで焦った……
島もあるわよね……
魔族はどうでもいいわ。
どうとでもなるから……焦った……地味にマジで終わったかと思った。」
高位魔族は退散した。
周りをみれば魔物の群れも、グランディール領兵が全て対処を終えていた。
嵐の後のような静寂が、島を覆っている。
クラリッサは遠くを見つめ、静かに言った。
「手ごたえはあった。
まあ、こんなものね。
急ぎましょう。」
「切り替え早すぎでは?
焼けた岩や、崩れた丘が、あなたには見えていないんですか?
クラリッサが破壊しているんですけど、これ。」
セレスティアのジト目。
「大きいことやるときは、多少の被害は出るもの。
大人数を救うためには、少数の死は致し方ない。」
「あなたが世界を軋ませているんですけどね。」
「細かいことは気にしない。
起きてしまったことは、もう戻らないし、それに高位魔族には、恨みがあるからね。
あースッキリした。」
「本当に、いい性格してますよね……
私は準備をします。ここからは別行動です。
最後の仕掛けですね。
精霊のことは、あなたにお願いしますね。」
「任せて。
私の愛の力をリーシャに届けてみせる。
マリアは、道案内をよろしく。」
「はい。お任せください。
おそらく水精霊の洞窟だと思います。
リーシャちゃんが精霊に飲まれたところだと思います。」
「よろしく。
セドリック兄上。
お願い致します。」
「任された。」
セドリックは、クラリッサとマリアを連れ、飛翔魔術を立ち上げる。
飛翔魔術。
魔力の光が渦を描き、三人を抱きかかえると、魔力の羽が広がり、彼らは天空へと舞い上がる。
島の風景が下へと遠ざかり、海と大地が一枚の絵のように広がる。
洞窟の入口は、岩肌に口を開けていた。
石の道を進み、
やがて空間は大きく開けた。
洞窟内は、天からの陽光。
その照らされた場所にリーシャ。
ヴェールのように、ゆらゆらと揺れる透明な壁に囲まれていた。
水に抱かれるように、膝を抱えて、静かに浮かんでいる。
まるで母の胎内のように。
(精霊へと体を作りかるためのゆりかごかな……)
光は水を通して屈折し、床や岩壁に青い波紋のような模様を映していた。
その側に、もう一つの存在がいる。
リーシャに立ちふさがるように。
水の精霊。
少女のような姿をした、青い髪を持つそれが言う。
「渡さない。
リーシャおねえちゃんは、私のものだ。」
「可愛い子ですね。」
「水精霊ね。
機嫌損ねると、世界が滅ぶわ。」
「え……」
「交渉は私がする。
話は通じると思う。
マリアは、セドリック兄上と待機。
だけど逃げられる準備だけはしといて。」
マリアは胸の前で両手を組んだ。
──心配だ。
(お嬢様って交渉もわりとパワープレイだ……)
クラリッサは一歩進み出ると言った。
「水精霊。
リーシャと話をさせて。」
「やだ。」
「お願いします。
友達なの。」
「……わかった。
でも、声は届かないと思うよ。
それに……」
精霊は、上を指差す。
高位魔族が黒い翼を広げ、
静かに空中から洞窟内に侵入してくる。
「羽虫。生きてたのね。とことん邪魔をするのね。バイキンマンみたい。」
「殺す。」




