恋愛の犠牲者
私の身体が紅く染め上げられている。
手も足も、胸も弾丸を刻まれている。
立つ力も動く力も最低限しか残っていない。
復讐は達成した。
これで私は生きることに執着することもなくなった。
愛住君と生活する資格を失った。
私を待ってるとこ悪いけど、いまさら顔向けなんて出来ないから、だから何も言わずに彼の元を消え去らなければ、そうしなきゃいけないのに......
とうとう身体から自立する力が抜け、倒れ行く私の身体に暖かい感触が伝わる。
私を慈しむような心地の良い肌触り、それに付随する震えた声。
『なに黙って行こうとしてるの』
傷だらけの私を抱擁する愛住君が囁く、いつものイタズラ臭い雰囲気はそこにはなく、感じられたのは、私の身に起きた惨劇を呪うかのような優しさだけ。
『私のことなんか忘れなさいよ......』
人に優しくされるのに慣れてないから、こんな反応しか出来ない、それに私はあなたに惜しんで貰うだけの価値も無いし......
『こんな時くらい素直な所見せてよ』
今まで距離の遠い人間関係ばかり築いてきた、恋愛感情を嫌うようになってからも、幻想抱いていた頃も同じ、それは私が本当は臆病だから、ただ自分を強く見せて、他者を寄せ付けないことで平静を保っていた。
私が設定した領域に籠って、仮初めの安らぎを使って生きながら得ていた、その領域に踏み込んだ人がいた。
ほっとけば良い物をわざわざ首を突っ込んで、見なくても良い物を見て、ホントなんなの......
『あなただけ先に行きなさいよ』
『駄目だ、二人で一緒に帰るよ』
『帰るって、家族でもないのになに言ってるのよ』
『そっか、なら僕と家族になってくれる?』
こんな時にも恥ずかしいこと言って、でも今はそれが心に沁みる、彼みたいな知り合い、私にはいなかったから。
『バカ言わないで頂戴、私みたいな薄汚れた女と運命的を共同してもロクなことにならないわ』
『なんかとか薄汚れたとか、そんなに自分を腐すようなことばかり言わないで、キミは自分が思っているような人じゃないから』
『またそんなこと言って......』
どこまでも甘いセリフ吐いて、ウンザリね......
『私さ、あなたのことが嫌いだった、いつも恋愛話を振り撒くあなたが、私に恋を説くあなたが、いくら恋愛の存在その物を否定しても、ひたすら私に構ってくるあなたが、でもいつの間にか生徒会のみんなと共にする時間が居心地良くなってきて、あなたのことも嫌いではなくなっていた、散々痛い目見てきてホント今更ね......』
身体から力という力が血液と共に抜け落ちる、その感覚は自分の命がもう長くはないのだと悟らせた。
『今更なんて言わないで、まだこれから......』
『私みたいな人殺しに未来なんて無いから』
『今まで辛い目にあってきたのなら少しは幸せになる権利だって......』
視界が霞みがかる、愛住君の顔も見えにくくなる、お別れの前にせめてこれだけは......
『私にも恋に落ちた人はいるわ、でもその人は姉に先を越され、挙げ句の果てに自殺したのよ、二条の結婚式乱入によって、その出来事がトラウマとなって私の心に深い傷として刻まれた、以来恋愛への幻想は消え失せて、残ったのは復讐心だけだった、結局恋なんてしても幸せになんてなれないのよ、少なくとも私は』
『キミが過去に負った傷は僕には計り知れない、忘れろだなんて簡単に言うつもりは無いよ、でもだからってそんな諦めたようなこと言わないで、傷の痛みが苦しいのなら少しは僕を頼ってよ......』
普段明るく振る舞っている彼の切ない表情が霞む視界の中ボヤけながらも私を刺すように目に写る。
目元を涙で濡らした彼の感情に呼応するように、血がさらに滲み、身体が現世への別れを告げ行く。
精神にも身体にも激痛が走る、彼にあんな表情をさせてしまった罪悪感に駆られる、やっぱり私は彼と関わるべきじゃない、彼の呪縛になんてなってはいけない。
私の存在を愛住君の中に遺すわけにはいかない、私に引きずられないようにしなければ......
『ねぇ愛住君、もっと身体を寄せなさいよ』
『こんな時になにを......』
『お願い、心身共に痛んで辛いから』
愛住君の身体が私を覆うようにして抱き寄せる、その温もりはまさに天国にも昇る感覚を覚えさせた。
『私は恋愛なんて物は好きにはなれない、でもあなたを悪く思う気にもなれないの、もう少し出会うのが早かったら、あなたのこと好きになれたかもね......』
視界が黒ずみ、耳も遠くなる、愛住君が叫んでいる気がするけれど、もはやそれを判別出来ない。
『ホント、もっと早く私の前に現れなさいよ、それなら私もあなたに恋出来たのに......』
私の名前を呼ぶ声が強まっている気がする、しかし認識は不能。
『恋......、好きよ......』
あの人の次にね......
『哀抔さん! どうしたんだよ目を開けてよ......、返事をして!』
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




