決戦の時 血痕の祝祭
『なんで、なんで愛住君がここにいるのよ!?』
『メイドさんに聞いたんだ、キミと妹が光威さんの救出に向かったって、それを知ってじっとしていられるわけないから』
メイドさんを責めたくもなったが、彼女が居なくとも結果は同じだろうと、そう思わされた、それが運命なのだと。
『だからってこんな死にに行くみたいな真似しないで頂戴!』
『それは僕のセリフだ! キミこそもっと自分を大切にしてよ!』
『ふざけないで! 私にはもう生きる理由なんて......』
『そんな哀しいこと! それなら僕が......』
私達の痴話喧嘩のようななにかは、一人の男によって中断される。
『なにイチャコラしてんだ!! オラァ!!』
二条からその言葉が出るとは皮肉なことだが、癇癪を引き起こした彼がなにをやらかすか不透明だ。
『とにかく光威さんを連れてこの場を去りなさい! あの男の相手は私がするわ!』
『そんなボロボロの状態で無茶だよ!』
『もうこれ以上、愛住君やメイドさん、執事さん、それに光威さんを巻き込みたくはないから』
『わたくしは良いのですか?』
伶の茶々入れを意に返さず、一同に懇願する。
『お願い、ここは私に任せて』
『......この館の中で待ってるから』
一同の足音が遠くなるのを感じる、あなたとの約束を果たせるのかを鑑みる。
保証など出来ない、私に出来るのは復讐のみ!
『随分お優しいモンだなぁ~、復讐鬼が聞いて呆れるぜぇ』
『何故光威さんを誘拐したのよ、関係無い人に手を出すなんてどういうつもり?』
『あ~ん? 意味ィ? なんで人さらうのに理由いんだよバカか?』
同情の出来る事情も、確固たる信条もそこには存在価値しない、私の復讐を鼻で笑うかのような態度だ、どこまでも他者を蔑ろにして......!!
『貴様ら愚民共は世界を回す為の歯車に過ぎん!!』
『だったらその回転に酔ってそのまま死にな!』
ナイフを改めて握る、それに呼応するように二条がニヤケづく。
『酔うのはテメーだ! このオレの手技によってなぁ!』
放たれた正拳突きを避けてナイフで斬りかかるも当てることは叶わない。
『ギャハハハハハハ!!! 今まで散々他人のモン奪ってきたが、ここまでオレを楽しませてくれたのはオメーが初めてだぜ!』
ただ他者の精神を食い破る彼の態度からは、そうなっても仕方ないと思わせるような哀しい過去は感じない、彼には被害者性など感じない、絶対的に加害者としての側面のみを有している。
世罪理を殺されても怒りの感情を欠片も見せていない、自分がさらった者を殺されるという、ある意味での被害者性を持ち合わせているはずなのに、それを意に介さず、加害の快楽に酔いしれている、天性の加害者。
被害者の側に立って、その経験を経て加害者の側に身を寄せた私を嘲笑うかのように、二条が拳を打ち放つ。
身体中に傷を負い、精神をもすり減らしながら攻撃を避ける私をニタニタとした視線が睨みを利かせる。
『フヘヘヘヘ、純真だった女が強大な傷を負って身を堕とし、身体を売って、精神をも悪魔に売り付ける、その様を拝むのは最高だなぁ!!』
眼を伏せたくなるようなゲスな趣味を吐き出され、私の身体は怒りと哀しみの焔によってさらに熱を帯びる。
ナイフを手に力を込める、初恋の人の無念と私が味わった苦痛を胸に、刃に殺意と怨念を宿す。
それを二条の身体に差し向ける、しかし簡単には当たらない、既に手負いとなり、死が見えてきたことで奴も必死なのだろう、それは私も同じだ!
二条の拳が顔にかすり、腕から流れる血液が散乱する、鮮やかなる真紅の色彩を持つ血、しかし何故だろう、その紅に対し微塵を魅力を感じないのは。
なんてのは単なる戯れ言、所詮は嫌いな奴が出した物だから嫌う、特に深い意味も違いもあるわけではない、道徳も倫理も欠けた相手の出した物は無条件で嫌悪する、ただそれだけのシンプルなお話。
難しく考えることもない、紅い血を出しているからと、同じ人間であることを見せつけられているからと、その事象によって自分の思想と行動を歪めてはいけない、私が今まで生きながら得てきたのは復讐を果たす為、それ以外に私の存在する意義など無い!
ナイフの刃が二条の手のひらに突き刺さる。
しかしそれは罠に過ぎなかったようだ。
私の腹部に蹴りが入る、走らされた衝撃によって隙を生じらせることになる。
『ギャハハハハハ!! 引っ掛かりやがったなぁボケぇ!!』
その勢いのまま頭を残された方の拳で執拗に殴られる。
やられっぱなしじゃいられない、その想いが私の身体に力を与える。
手で受け止められたナイフを引き抜き、すかさず二条の身体にナイフを突き刺す。
獰猛なる獣の如き叫びを上げながら暴れ狂う二条。
トチ狂いながら放たれた蹴りが私を吹き飛ばす、転がされ横たわる、それはアイツもまた同じ。
既にアイツは満身創痍、これがトドメよ!!
倒れながらも拳銃を構え、あまり聞きたくはないような音を響かせる。
二条の身体が血を吹き出し、そのままの体勢でつっぷする、だが嫌な音は一回ではなく、焼け焦げたような音も聞こえる。
風穴でも開けられたような感覚。
それを感じた瞬間、私の身体からも血が吹き出る。
二条が隠し持っていた凶弾によって。
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




