ゴメンなんて......
煌びやかな装飾が施された広間に一人で立つ世罪理。
『嬉しい! 今回は来てくれたんだ!』
嫌でも思い浮かぶ結婚式の惨劇、あの出来事が、私から恋愛の幻想を打ち砕いた、復讐の芽が私の血を吸って成長を遂げた、遂にここまで来たんだ。
『ええ、逃げていてもなにも意味が無いって気づいたから』
相手が反社だろうと姉だろうと関係無い。私はそっと拳銃を握りしめる。初恋の人の元婚約者に照準を合わせる。
『悲しいわ、可愛い妹に銃口を向けられるなんて』
『アンタに本当の哀しみって奴を思い知らせてやるわ』
積年の憎悪を弾に込める。眼の前にいる女に死の鉄槌を与える為に......
『そう、まったくしょうがないんだから』
子供を叱りつける親のような、慈しむような仕草を姉が見せる、だがそれと同時に不気味に光る刃を取り出す、投げるのにちょうど良さそうなナイフ、その刃が投擲される、それに対し脊髄反射で発砲、試合開始の合図のように、破裂音が鳴り響く。
私の放った弾丸が投げナイフを砕き落とす、間髪入れず世罪理が突撃、蹴りを繰り出す、それを避け、すかさずナイフで線を切る、しかし握り手の部分を腕で制止され受け止められる。
『何故あの男についていったのよ、何故あの人を捨てて行方を眩ましたのよ!』
その問いにすぐには答えず、身体に鈍い衝撃が走り、距離を引き剥がされる、アイツの蹴りによって。
『まさかそれを聞くためにここまで来たの? 健気な所は変わんないわね~』
まともに取り合う様子も無い、でも問いたださなきゃ気が済まない。
『答えなさい!』
タメ息を交えながら姉が口を開く。
『......飽きたのよ』
身体中が一気に熱く燃え滾る。魂も肉体もヤツを惨たらしく殺せと情熱を奮わせる。
蹴飛ばされ転がされた身体を起き上がらせる、不思議と痛みなど走りはせず、感じるのは地獄の焔の如き怒りのみ、その情念をナイフに込めてアイツに叩きつける、だがまたしても腕を掴まれる。
『アンタみたいな奴と同じ血が通ってるだなんて、反吐が出るわ』
『あのさ、怒ってるとこわるいけどあなた勘違いしてるわね』
『なんですって?』
『飽きたってのはあの人じゃなくて、符夜雨、あなたになのよ』
虚を突かれた感覚に襲われる、しかし脱力などはせず、より一層怒りがこみ上げる。
『なによそれ、私に飽きたってどういうこと!?』
『そもそもアタシ、あの人に惚れてなんていなかったのよね、ただ符夜雨があの人に気があるのは察しがついていたから、ちょうど良いやってね』
『なにそれ、私が悪いって言いたいの!?』
『そうよ、アンタが彼を殺したの』
すべての始まり、その根源は私にある、思いもよらぬ事実、復讐だけを考えてきた私の人生は一体なんだったのか、間抜けなんて物じゃない。
『隙ありねッ!』
腹部に蹴りを入れられ身体から立つ力を抜き出される。
『だってしょうがないじゃない? 符夜雨ったらイジりがいあるんだもの、最高だったわ、あの人と付き合ってるって言った時のあなたの反応、でも案外すぐに立ち直っちゃったからもう良いかなって、だから二条さんについていったってワケ、なんせ彼は最強だから』
耳に障る音を奏でる、絶対悪たる親族に確固たる殺意と怨念を宿した弾丸が世罪理の頬にかすり紅い血の化粧を施す。
『立ち直った? バカを言うな、地獄を見たあの時から私は壊れたままなのよ!』
『そんな物持ってたなんて、悪い子』
己の血を指で取って舐める余裕な態度を見せる世罪理に再度発砲、それは外し距離を詰めんとアイツが私に向かって走り出す。
それに対し変わらず拳銃を構え、迎撃体勢を取る、だがアイツは高く飛び上がり私に蹴りかかる。
とっさに飛び込みそれを回避、飛び蹴りの衝撃によって辺りに土煙が散漫とする、狙ってか偶然か、それは目眩ましとなって私の視界を妨害する。
狙いを定めあぐねている内に土煙の中からアイツが姿を現しそのままの勢いで突撃してくる。
すかさずナイフを手に待ち構える、それに対し私の手を狙って殴りかかる、そこを突きナイフを投擲、怯んだ隙に破裂音を奏で世罪理の腹部から紅い血が祝杯のように吹き上げる。
余裕を感じさせるような明るい声色から一転、野生動物の雄叫びが如くの叫び声を上げる、それに物怖じせずアイツの四股に弾丸を撃ち込む。
より一層強まる悲鳴、それと同時に無惨に倒れるアイツにマウントを取る。
『待ってよ符夜雨、話を聞いてよ、そうすればきっと気が変わるわ......』
アタシの方が上、そう言いたげな態度は一変、怯えた姿を見せる、強大な敵だった姉は、今は私に見下ろされる哀れな小動物でしかない。
拳銃を仕舞いナイフを手に取る、力強く握りしめ、獲物を狩る。
『アタシを殺してもあの人は喜ばないわよ!! アタシはアンタに人殺しになんてなって欲し......』
ドクドクとうるさかった鼓動音が鳴り止む、跨いでいた身体が熱を引き、喚き懇願していた姉の心臓に刃を入れて、真紅の血液を吹き出させる。
まずは一人、復讐を成した、遂に私は人を殺したんだ。
愛住君と、生徒会との今までの日々がふと頭に過る。
疎ましくも楽しかった日々が、私を責め立てるように襲いかかる、不思議と姉との思い出は浮かんでこない、ただ一つ確かなのは、私の眼から涙が流れているということだけ。
『お別れすらも、言える立場じゃないわよね......』
『イヤイヤ遂にヤっちまったな符夜雨ちゃんよぉ!!』
拙い拍手と共に軽薄な声が耳に入る、その音に視線を移すと、その場にいる人が一人ではないことに気づく。
『お友達を助けに来た、なーんて健気な娘じゃなったよなぁ!!』
ぐったりとして気を失っている光威さんをお姫様抱っこした復讐対象が現れた、アンタも世罪理と同じように殺してやるわ。
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




