神とゴミは紙一重
ラムネ瓶を持った女子高生とは、何と爽やかなイメージだろう。
しかし、今眼の前にいるそれは、とても爽やかとは言える代物ではない。
手足を震わせ、苦悶の表情を浮かべている、オマケにラムネ瓶は飲み口の部分を手にして鈍器のような持ち方。
記号だけは立派ですが、それだけでは意味はないのですね、参考になりました。
『どきなさい』
『イヤです!』
大見得切ってくれていますが、身体中が震えていますね、まぁフラついているわたくしも似たような物ですが。
『わたくしを阻むつもりならば容赦する気になどなりませんが』
『あなたを通せばリーダーが命の危機に晒される、それは神をも危機に晒すことになる、そんなのほっとけない!』
言ってることだけは立派ですけどね......
『あの男に固執する理由、わたくしにはわかりかねますが』
『あの人は、神は、わたしに生きる意味を与えてくださったのよ!』
『与えてくださったなどと宗教染みた物言いですね』
『宗教なんかじゃないわ! あなたも神と向き合えばその素晴らしさがわかるはず!』
なんかだのとのたまっているが、彼女の異様に澄んだあの瞳は、まさしく宗教に取り憑かれた者の眼だ。
『あのような下劣な男を神を持て囃し盲信する、なんと哀れなことか、愚かと言ってもいい』
『神はスクールカースト最上位なのよ!』
『そんな物は社会に出ればなにも意味を無し得ません、まさか一生留年でもするおつもりなのですか?』
『大勢の女子からモテているのよ! その上で誰とも付き合っていないのよ!』
『誰か一人を選べないだけでしょう、答えを出せるだけの度胸が無いだけです』
『神は努力家でもあるの! 常日頃から努力することの尊さを説き、それを否定する者へは愛のある御言葉をくださるのよ!』
『努力を語りたがる者のやることなどたかが知れている、そんな者の言葉に愛などありはしない』
『神は博識なのよ! ブランド物だってすぐ名前が出てくるんだから!』
『上辺しか見ていない証拠ですね、努力した結果がそれとはなんとも悲しくなりますね』
『大胆な行動だって厭わないのよ!』
『聞いていますよ、海崎健太の部屋の窓を割って侵入したそうですね、それはただの犯罪です、なにも誉められることではありません』
『困っている人を放っておいたりしないのよ!』
『確か不良生徒と殴り合いの喧嘩に明け暮れ、毎回相手に殺すぞなどと脅迫をしているのでしたね、犯罪自慢もいい加減にしなさい』
『神は下々の民にも心優しいのよ! 慈しむ精神を有し、相互理解を深める広い器まで持っているのよ!』
『下々の民と称す時点で相互理解をするつもりが無いのは明白、自分はやらずに他人にだけ強制するとは大した考え方だ』
『文武両道でもあるの! 野球部でだってエースだったのよ!』
『喧嘩を初めとした素行不良により退部に追いやられていると聞いています、実力はあっても人間が出来ていないのなら仕方ありませんね』
『話術だって優れてるんだから! 詐欺師並みに!』
『普段から下品な内容ばかり話していると聞いています、それも捻りの無い直球な物を、なにが話術ですか』
『容姿端麗でもあるんですよ! 周りの女子達も同様に』
『あの没個性的な見た目でですか? センス無いですね』
『神のお父様だって素晴らしいのですよ!』
『小説家の否老夢でしたか、編集者に暴行を働き、土下座までさせてクビ切られたあの愚物のどこが素晴らしいのです?』
『何故彼の崇高さがわからないのです!?』
『何故って崇高じゃないからですよ』
その一言は便所コオロギの信者である彼女の感情を引き出すのには十分だったようだ。
『うるさい!! 人類たるならば皆万歳座凶様に跪かなければならないのよ! 何故それがわからないの!?』
コイツは一体便所コオロギに何をされたのかと、邪推でもしてしまうところだ、ともかくこのような女の考えは否定しなければならない。
『本来的には誰に忠誠を誓うかなど強制されて行う行動ではない、まして愚行にしか走らないチンピラ風情になど!!!』
両手に携えたナイフを構える。
獲物を相手に容赦などは一切含まれないことを警告し、それを伝えられた彼女がラムネ瓶を強く握りしめ、わたくしに向かって突撃する、その様は愚直と言っても良い。
軽いスピンを自身の身体にかけて彼女の攻撃を避ける、それと同時に彼女がつっぷして倒れる。
『安心しなさい、峰打ちですので』
ナイフを持ちながらの回転、殺傷力を持つのも当然。
『殺しはしないのですか』
かろうじて意識を繋がれた彼女がわたくしに問いかける。
『殺人を行えば様々な物がのし掛かる、それは重圧や自責の念となって身体を、精神を蝕んでいく、そうなるだけの価値を感じなかったというだけのことです』
『格好つけすぎ......、ですよ......』
血を流したことで気を失ったようだ、これで先に進める。
『精々そこで頭を冷やしてなさい、そしてあなたの中に君臨する神とやらを振り払いなさい』
無念の表情で倒れる彼女に一言だけ添えて符夜雨さんの後を追う、ズキりと痛む血の滲む頭を押さえながら。
『このような痛み、符夜雨さんが心に受けた物に比べれば......、あまり早まりすぎないでください、わたくしも助太刀しますから......』
『まったく最低ね私は、結局他人を巻き込んだりして!』
独り言が思わず漏れ出る、それは焦りから来る焦燥感からか、それとも復讐の咎人でありながら人との繋がりを絶たなかったことへの自責の念か。
がむしゃらに突き進んだ先に出た広間、そこにいたのは......
『あら! 符夜雨! 元気してた?』
私からすべてを奪った者の片割れが、世罪理|が子供を迎えに来た母親のような佇まいで待ち構えていた。
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




