狂想前夜
『また決闘でもさせられるのかな?』
『どのような答えが返ってこようとも決闘は仕掛けないと約束します、さぁ聞かせてください、あなたの気持ちを』
なんてことはない、これは単に私の愛住君に対する想いをただ打ち明ければ良いだけのこと、悩むことはない、そのまま吐露すれば......
『別になにも思っていないわ』
『そうですか』
『急にどうしたのよ、いきなり改まって』
『いえ、ただもしあなたが兄さんに好意を寄せるのならそれを受け入れてもよろしいかと思っただけです』
『好意ってなに言ってんのよ、それに受け入れるってなんであなたが決めるのよ』
怜は不適な笑みを込めて、
『そうですね、ですがわたくしの考えだけでも耳にいれておいていただきたかったのです、それでは』
それだけ言い残して去っていった。
受け入れるってなによ......
太陽目映い快晴の朝、他人の家に馴染み始めた今日この頃、愛住君と二人で澄んだ空気の朝、通学路を踏みしめる。
同じく一緒に住んでいるはずの怜は空気でも読んだかのように、一人リムジン登校を決め込んでいる。
これだけは言いたい、空気読め。
デートした翌日に二人で歩いてなんていたらより一層ご回答を生むじゃないのよ。
案の定周りの女子からの視線が痛い。
学園中の女子から人気の彼と二人きりの時間を楽しんだ代償を今払っている形になってるわけだ。
でもそれは私だけではないようだ。
愛住君も男子に睨まれてるから。
なーんだ、彼も私と同じかぁ。
もっとも解決する能力には雲泥の差がありそうだけれど。
あらイケない、頬が緩んできちゃった。
愛住君に話を振ろうとしたその時、彼が私に下の名前で呼んで欲しいと、そう言っていたことを思い出してしまった。
『ねぇ恋、何故妹ちゃんだけリムジンにふんぞってんのよ』
瞬間、周囲が殺気で満ち満ちる。
男子も女子も、皆私達に羨んだような殺意を向ける。
そんな空気の中、彼は周囲の目線に目もくれず......
『やっと呼んでくれたね、下の名前、嬉しいよ』
私の眼をまざまざと見つめながらの甘いセリフは、周囲に暴動を起こさせるのに十分の効力を有していた。
『もしかしてアイツと付き合ってんの哀抔さん!』
『ちょっと説明してよ愛住君! あの女とはどういう関係なの!?』
『ウオオオン!!! 愛住様アアアア!!! なんてことオオオオオッ!!!』
朝の爽やかさは微塵も感じられない程の喧騒が私達を襲う。
まさか彼を下の名前で呼んだだけでこんなことになるなんて......、失念していた、油断したわ。
今度からは二人きりの時だけにしましょうか。
イヤ、そんなこと考えてる場合じゃない、今はここを切り抜けないと遅刻する!
押し寄せる生徒達に揉みくちゃにされて熱気にヤられそうになる最中、彼が私の手を掴んで場を切り抜ける。
『ほら行くよ符夜雨ちゃん?』
『なっアンタまで下で呼ばな......、ってちょっと!』
『あっ逃げた!』
『どこ行くんですか!? 待ちなさーい!』
どこ行くって学校に決まってんでしょ、とか思いながら同学年の男の子に手を引っ張られる。
絵に描いたような青春、味わうことは無いと思っていた、味合わなくても良いと思っていた。
一点の曇り無き晴れ模様の中、私の心は複雑怪奇。
はぁ、疲れた。
朝っぱらから走らせんじゃないわよ、まったく。
遅刻すれすれで教室に滑り込んでなんとか間に合いはしたけれど、一難去ってまた一難とでも言うべきか、噂の的にされて少しの身動きにも気を遣う状況。
今日ばっかりは生徒会にも顔は出さないでおきましょう、彼と一緒にいればそれだけで周囲の噂は苛烈の一途をたどるでしょうし、って同棲してる以上はもう無理か。
やっぱ断れば良かったかな、華の生徒会長様とデートだなんて。
無駄に学園を騒がせちゃうなんて軽率だった。
ここで一つ気がついたことがある。
光威さん、今日来てないんだ。
いの一番で噛みついてきそうな彼女が姿を見せないなんてのも不思議な物ね。
風邪とか引いても這ってでも登校しそうなのだけれど、もしや私と彼のデートで寝込んでいるなんてことじゃないでしょうね、ちょっと心配になってきちゃった。
人探しのついでに彼女の自宅に寄っておきましょうか、あっ......彼女の住所知らない。
愛住君に用件を伝えて生徒会の実務から解放される。
光威さんの自宅の住所を聞き出したいところだけれど、そんな余裕があるわけでもなし、あったとしても人脈不足。
だから歩きで探すのよ、ええ、きっと見つけられるはず、と言ってもこれはあくまでもついで、私が真に捜しているのは......
待ち行く人々に声を掛け情報収集を行う。
私ただ一人で。
思えばこんなことするのも久しぶりね、ここ最近はどこか喧騒もとい狂想に見舞われていたから。
でも私にそれは似合わない、私に似合うのは孤独の復讐だけだから......
日が暮れて辺りが暗くなっても、特に収穫は無い。
だがこれしきのことで疲弊なんてしていられない。
青春なんて物をかなぐり捨てるかのように情報収集に明け暮れていたその時、スマホの着信音が鳴る。
すかさず確認して見えたメールの内容は、私の援交の依頼とその待ち合わせ場所である。
私はもう援交など受けるつもりは無い、しかし放置するのも忍びない、直接会ってお断りしよう。
待ち合わせ場所に指定されていた路地裏にたどり着く。
その場にいた、メールの送り主と思われる男は無機質な仮面をつけていた。
その男は私を見つけるや否や私に向かい、
『お待ちしていました、哀抔符夜雨様』
援交を持ち掛ける類いの人とは思えないほどの気品高さを感じさせる。
この人、本当に援交目的なんだろうか......、ともかくお断りしなきゃ。
『申し訳ありませんが私はもう援交からは足を洗いましたので、あなたのお相手にはなれません』
しかしその男は落ち着いた様子を崩さない。
『あなた、光威耶魅様のご友人ですね?』
彼女を知っている......? この人何者?
『友人と呼べるような間柄ではありませんが、あなたのご用件は一体?』
『それがですね......』
少しの溜めの後、私に衝撃を与える発言が飛び出す。
『光威耶魅様が誘拐されました、二条グループの手によって』
またしても他人を巻き込んでしまった......
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




