憶えているのはDATEorDEATH?
曲がりなりにも、今日は楽しい日になりそうだと、そう思っていた、なのに......
ヒミツを握っている。
電話越しにも聞いた文言が、直接、声の加工も無しに、素顔を晒けだした状態で放たれる。
とにかく愛住君を巻き込むわけにはいかない、これは私の問題なのだから。
だが私の思慮を余所に愛住君が前に出向いた。
『キミって確か......』
『知り合いなの? この子と』
『うん、僕の父さんの友達の息子さんなんだ』
回りくどいわねそれ......
『ところでヒミツってなに?』
結局私の危機に変わり無しか。
『ヒミツはそりゃあ、恋兄ちゃんのさ! その人なに? 彼女?』
どうやら私の心配事は杞憂だったようね......
『そっそんなんじゃないよ!』
『そんなのより、何故私の名前を知っているのよ』
『ああ、それは恋兄ちゃんに聞いててさ、気になってたんだ』
ガキのイタズラにマジになってたってわけね、ホントバカみたい。
『ねぇ愛住君、早く行きましょうよ』
『ゴメンゴメン、そろそろ失礼するよ』
『うん、デート頑張って!』
子供の送りの声が聞こえなくなる頃にまたしてもイタズラっぽい彼が顔を見せる、さっき子供と話してた時には普段通りだったのに。
『僕の手引っ張るなんて、もしかして妬かせちゃった?』
『もううっさい! ほら私をエスコートして見せなさいよ!』
『ハイハイ』
雑踏賑わう街の中に、私達も溶け込む。
各々が日常の中にある幸せに身をやつし、街を煌びやかに彩っている。
今だけは私も......
それからはひたすらに愛住君に身を任せていた。
カフェでお茶したり、お互い洋服を選びあったり。
端から見れば仲睦まじいカップルに写ることでしょう。
こんなこと、もう憧れてなんていなかったのに、味わうことなんてないはずだったのに。
気づけば笑みがこぼれて仕方ない。
『哀抔さんさ、気になってることがあるんだけど、いつまで苗字呼びなのかな?』
私の手を引く愛住君が、発情でもしたかのように唐突に。
『なによ急に』
『だって怜も苗字愛住だからややこしいなって』
『そっちは下の名前で呼んでるわ、差別化なら出来ているわよ』
私に触れる彼の手の温度が上昇するのを感じる。
『だったらそれ、逆に出来ない?』
なにこれ? 自分の妹に嫉妬でもしてるの? サドな面ばかり見せつけていたけれど、案外可愛らしいところもあるじゃないの。
『私に構うのやめたら考えてアゲル』
『それは......、しばらくは無理かな』
『それならお預けね、残念』
『残念なんだ、どこかで期待してたり?』
『そうじゃないわよ、アンタよ残念なのは』
他愛の無い戯れをしている内に付いた先は、映画館。
せっかくのデートなのだから、もっと彼と対面していたいのだけれど、まぁ良いわ、彼の好きにさせましょう。
『なにを見るの? サメ映画?』
『恋愛物だよ』
うん......、まぁでしょうねって感じ。
『ポップコーンとか食べる?』
『遠慮するわ......』
暗いのを良いことに途中で抜け出してやろうかしら......
広い部屋の中で、流される広告を眺めながら映画本編が始まるのをひたすらに待つ、隣の愛住君と一緒に。
広告の時間結構長いわね......、帰りたくなってきた。
『ねぇ愛住君はこの映画見たことある?』
『あるよ、二回ほど』
『同じの二回見るとか暇なの?』
『みんなやってるよそれくらい』
『シャブ売ってんの?』
『なんなんだよさっきから、というか質問の意図はなに?』
『いやね? 既に見ているのならネタバレしたくてウズウズしてるんじゃないかって思ってね』
『結末だけ聞いて帰ろうってつもりなら無駄だからね』
『あらお見通しだったんだ』
『途中で帰してなんてあげないから』
はーメンドクサ......。
なーんて戯れている内に始まっちゃった。
どうせ私の嫌いなジャンル、期待はしないわ。
映画館の巨大なスクリーンに映し出されるのは、高校を舞台とした学園ラブコメ。
主人公の女の子が、様々な個性ついでに様々な髪色を持った男の子達と、時に恋に悩み、時に苦難に立ち向かいながら運命の相手を見つけ出す、といったお話ってポスターに書いてあった。
始まってから一時間が経っても面白みは感じられない。
もっとも、嫌いなジャンルを見る以上は私にも楽しむ心構えなんてものが整っているわけもなく......
昔の私なら、どう思ったのだろうと、流れる映画に目もくれずにifを妄想する。
恋に、愛に夢を見ていたあの頃の私だったらきっとこの映画にも夢中になって、その世界に、物語に体感という体験をし、トリップしていたことだろう。
だがもう無理。
もう、そんな私ではいられないから......
エンドロールを眺める私の心の状態は大降りの雨とでも言いましょうか、それだけ沈んだ物だった。
そんな私の精神状態とは対照的に室内に明かりが灯る。
『面白くなかった?』
そして観賞の感想を訪ねられる。
私が恋愛物嫌いであることは承知のはずなのだけれど、彼の表情は妙に寂しそうだった。
『嫌いなジャンルだから楽しくなかったってだけよ、あなたが気にすることではないわ』
私の慰めも無駄ではなかったようで、彼の表情に晴れやかさが浮かび上がる。
『次のデートはキミの好きな物を見ようか』
次ね......、まぁ考えてアゲても良いかもね。
デートを終えてからの夜、自室にて今日を振り返る。
デートか......
あんな経験をしてから、私には夢想するだけの余裕を失ってしまっていた。
恋や愛を、現実空想に関わらず、私はそれを拒絶してきた。
そんな私が同い年の異性と......、なんて。
なんだかんだ、楽しかったはず、だけど過去の記憶によって彩られた宵闇の色は決して拭うことは出来ない。
『もっと早く逢いたかったな......』
気恥ずかしいセリフが漏れ出たその時、コンコンとノックが打たれる。
『いますか符夜雨さん』
あら妹ちゃん。
『なにかよう?』
『兄さんとのデートはいかがでしたか?』
『なにが目的なのよ、それを聞いて』
冷やかしを疑ってぶっきらぼうに決め込んで見たのだけれど、回答のほどは思わぬ方向へ。
『一つ伺います、あなたは兄さんのこと、どう思っていますか?』
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




