中年としかヤったことないよ
鏡の前に立って洋服を自分の身体にあてがう。
しっくりとは来ず、別の洋服をあてがいまた悩み......
デートに着ていく服なんて私知らない......
ってなにマジになってんのよ私ったら。
あんな女ったらしの言うことに振り回されてちゃダメよ、なんと言われようと断るのよ。
お昼下がりの屋上、鬱々とした曇り空は私の心の内を表しているみたいである。
『どうしたのです哀抔さん、タメ息なんてついていらして』
言えない。
愛住君にデートのお誘いがきちゃった、なんて彼に惚れてる光威さんには。
『なんでもないわ、息を吐いただけよ』
『隠そうとしても無駄ですよ』
『まさかとは思うけど私のお悩み相談に乗ってやるためにお昼に誘ったわけじゃないでしょうね』
そうでした、見たいな顔してんじゃないわよ。
『そうでした』
そのまま言ったし。
『一つご相談があるんでした』
絶賛悩み中の私にそれですか、あーヤダヤダめんどくさい、なんて言わないわよ。
『あらなによ、悩みなんてなさそうなのに』
『なんですって! いえそれは置いておきますわ、愛住さんの妹ちゃんとお友達になれたのは良いのですけれど、いまいち繋がりのフックが見当たらなくって、もうどうしたら......』
確かにアンタら二人、正直気が合うようには見えない。
『遊びにでも行けば?』
『それは雑すぎやしませんか!?』
『凝らせば良いってモンでもないでしょうよ、それに知り合って時間が経っていないのだからシンプルな取り組みの方がちょうど良いのよ』
実際のとこどうなのかは知らずに言っちゃってるけど大丈夫かしら。
『そっそうですか......』
よし釣れた。
『わかりました、そこまで言うなら信じましたから』
『言っとくけど、どこに行くかくらいはあなたが決めなさいよ』
『最初からそのつもりですから!』
捨て台詞だけ残してさっさと帰ってっちゃった。
結局デートに行くべきかどうか、その答えは出せていない。
光威さんが屋上から去っていたのとほぼ同時に造作に張り巡らされたお天気の曇が散っていき、澄んだ青々とした空が顔を覗かせる。
『はぁぁ、アンタは良いね、悩みとか無さそうで』
日照り出てすぐ肌をひりつかせる、満面の笑みにも似た、太陽添えた青空に皮肉をこめて。
『決して消せない傷も無さそうで......』
私を照らすお天気は、私の心情とは反比例、まるで世界が、その全体が、私とは正反対の周波数で回っているみたい、私はそこから弾かれて、ただひとり......
そんな溢れ者を知りもせず、ただただ無邪気に、そして狂喜的に回り踊っている。
結局着ていく洋服も決められないままデートの日が来てしまった。
休日にも関わらず私は制服を身に纏っている。
悩んだまま答えも出せていないのに。
悩める私に発破でもかけるように部屋のドアが小気味良く、かるい叩かれた音がする。
『哀抔さん、起きてる?』
『なによ朝っぱらから』
イタズラっぽい彼の囁くような声にも、あくまでぶっきらぼうに対応しなきゃ。
『デートの約束、忘れてたりしてないか心配で』
『別に行くなんて言ってないわよ』
『へぇ?』
強引にドアが開けられ、愛住君と御開帳。
『しっかり制服着てるのに?』
『うるさいわね、私だってたまにはそういう日もあるわよ』
『ふぅん? それじゃ行こっか』
行くか行かないか、その答えを出せていなかったはずなのに、私の足が愛住君と並ぶように、勝手に動きだす。
『そうだちょっと着替えてくるよ、待っててね』
私の胸の高鳴りを余所に、自分の部屋に戻って行っちゃう彼、そんな彼を部屋の前で寂しく待つ私。
愛住君のお遊びなんかに付き合ってやることもないのに、私なにしてんだろ。
仄かな熱さと、キューっと締め付けるような切なさが混じったような。
こんな感情、援交の時には味わえなかったな、なんて言うんだろ。
あっ出てきた。
『ゴメン待った?』
『ええ待たされました、少しだけ』
カジュアルな私服姿から見慣れ始めた制服の姿へ。
『何故わざわざ着替えたの?』
『アレ? 制服デートがしたいんじゃなかったの?』
『そんなんじゃないわ、ただ今まで制服を求める人とばかり関わってきてたから......』
クスクスと微笑む彼は、妙にウザったらしく小悪魔的。
『なに笑ってんのよ』
『同年代とはデートしたこと無いんだ?』
『私年上好きだから、文句ある?』
『いいや? ただ恋愛事で辛酸を舐めてきた、なんて雰囲気を出してる割りには初心だなって思って』
『誰が初心なのよ誰が! ほらちゃちゃっと行くわよ!』
『なんだかんだ乗り気じゃん』
そういえば知らなかった、彼ってどれほどの経験を積んできたのだろうって。
恋愛促進とか言って生徒会での相談に精を出しているのだから、きっと女の子なんて取っ替え引っ替えなのでしょう。
童貞だってとっくの昔に卒業しているに違いない。
気のせいか、どこか心が締め付けられる感覚がした。
愛住君と二人きりでの外出自体は今まで多少はしてきたつもりだけれど、やっぱり平日とはまた違った雰囲気を帯びていた。
学園の女子に黄色い声援を浴びるような、創られた偶像ではなく、最初からそう在ったように、サディスティックに蠱惑的な。
そんな情緒を私ただ一人に直球にぶつけ行く。
学園中に人気の彼が私にだけ本性を見せつける。
ちょっと優越、感じちゃうな。
二人共にいつも見る制服なのに、普段とは違っている。
私達が触れ回る街中もまた同じように。
誰も彼もがはしゃぐ中、少年が一人私達の前に立ちはだかり、一言。
『あなたが哀抔符夜雨さんですか?』
『あなたは? 何故私の名前を......?』
『ヒミツ、握ってるので』
なんでよりによってこの日に......
この物語はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




