ほのぼの特訓
『キャバクラのどこが悪いってんのよ』
『逆に何故通ると思った!?』
『なんたって私副会長だから』
『とんだ権力主義者だ......』
『それでどうするの? この特訓、受ける? それともやめる?』
位を決したような表情を見せる大神君からは、ある種鬼気迫る物を感じた。
彼にとっても、現状の女性への耐性の不足は是が非でも解消したい問題なのでしょう。
『ああ、受けて立つ』
まるで少年漫画の主人公みたいね。
『それじゃあいくわよ! 絵園さん、大神君の隣に座んなさい!』
『こうですか?』
大神君とは一人分ほど距離を空けて座る絵園さん。
『遠慮なんてしなくて良いのよ、私のようにね!』
至近距離に詰め寄って肩を寄せる。
『これは近すぎないか......?』
『ほら絵園さん、あなたも一緒にやりなさい』
『はっはいっ!』
私と同じように身を寄せる絵園さん。
『どう? 平気?』
『これくらい大丈夫だ』
身体を震わせながら良く言うわよ......
軽いハーレムを築きあげる彼に嫉妬の炎を滾らせる者がいる。
『ちょっと! 俺は混ぜて欲しいっスよ!』
常時発情してんのね上谷君、流石に合コン仕切ってるだけのことはあるわね。
『アンタは特訓する意味は無いのだからそこでおとなしく見てなさい』
『そんな! 酷いっス!』
『いやでも一人だけ仲間外れなんて悪いですし、ここにいるみんなでやりましょうよ』
絵園さんてば、お優しいのだから。
『しょうがないわね、今いる四人で特訓しましょう』
だけれど上谷君は女性じゃないのだから、大神に触れさせても仕方ないし、上谷君自身、女性への耐性があることは確認済みだし......
『それじゃオレはエッそんと相手しまっス! フヨちゃんは特訓の方を頑張ってくださいっス!』
『ちょっとそれサボりじゃないのよ!』
『さぁさぁエッソん、俺と優雅なる一時へと洒落込みましょうや』
『はっはい......』
上谷君が飄々とエッソんこと絵園さんの肩を取り持って私達から逃れる。
私は私でやるしかないのね。
『仕方ないわ、大神君のお相手は私一人でするわ、良いわね?』
『元よりそのつもりだが』
驚いた。
『恥ずかしいこと言わないで頂戴』
『それで結局なにをやらされるんだ』
そうね、そもそも何故女性に苦手意識を持っているのか、それを知らないのよね。
『無理強いするつもりはない、それを念頭に聞いて欲しいのだけれど、なにがきっかけで女性耐性を失くしているのか、あなたの人生経験を知ることで耐性付与のヒントを得られるかもしれないわ』
歯の浮くようなセリフを吐いていた時の可愛らしくもあったとぼけたような顔から曇った表情へと変貌する。
『念を押すようだけれど、強制はしないから、話すかどうかを決めるのはあなたよ』
暫しの沈黙が続き、上谷君のハシャギ声がウザったらしくなってきたその時、決意を胸に抱くような表情をした大神君が、私の眼をまざまざと見つめながら決断を表明する。
『言い出しっぺなんだから後で投げ出すなよ』
『私を誰だと思っているのかしら』
身体に帯びる微量の熱は私に困惑の感情を引き出す。
大神君の態度に私の中の乙女心が引きずり出されかかっている? イヤ、そんなはずはない。
『どうしたんだ? 怖い顔をして』
『なんでもないわ、さぁ始めましょ』
『よろしく頼む』
『女性に慣れる為にはあらゆるタイプの娘と絡んでもらいたいところだけれど、それでまた気絶したら大変だから、ひとまずは私と話してもらうわ』
『結局それなのか』
『なによ文句あんの?』
『文句なんてまさか、嬉しいのさ、哀抔が俺を想ってくれて』
侮っていた。
コイツ、タラシの才能に目覚めたか。
愛住君にも匹敵しかねない囁き、女性への耐性を除去しても大丈夫なのだろうか......
イヤ、そんなこともいってられない。
信じるのよ、大神君も、私自身も!
『言うの忘れていたけれどね、副会長と呼びなさい』
『ああすまんすまん』
可愛らしい男だと思っていたが、それだけではないようね、油断は禁物だわ。
『気を取り直すわ、あなたは普段女性とはどのように関わっているの?』
『あまり距離が近くなりすぎないように心掛けているぞ』
どちらの意味かは......、両方かな。
『その在り方も尊重したいけれど、その結果が耐性不足を招いているように思えるわ』
『もっとグイグイ行けと?』
『極端な方へ走ることもないわ、ただいつまでも距離をおいていたらいつまでも慣れないでしょうし』
『そうか、ならば......』
向かい合って座っていた彼が私の隣に席を移す、それも間隔も空けずに。
『どうしたのよこんな近くに......』
『哀抔が距離を詰めろと言ったからそうしたんだ』
『だから副会長と呼びなさいよ......』
もうなんなのよ、大神君も愛住君も、時折様子がおかしくなっちゃって、実は上谷君がマトモに思えてきちゃった。
『どうした? 続けないのか?』
こんなのいくらなんでも近すぎる。
『極端なことはするなって言ったでしょ? もう少し離れなさい』
それでも離れてはくれない。
『近づけと言ったかと思えば今度は離れろなんて、勝手なんだな副会長は』
なっんで今副会長呼びすんのよ、変な気分になるでしょ!?
ああもう惑わされちゃダメよ符夜雨! 私はもうナニモノにも振り回されないんだから!
生徒会メンバーによる特訓という名の談話によって発生したほのぼのとした雰囲気は一つの球体によって破壊される。
生徒会室の窓ガラスに野球のボールが直撃し、身を竦めさせんばかりの音と共にガラスが粉々になって飛び散って行く。
上谷君と絵園さんが悲鳴を上げる中、大神君は私を庇うようにして抱擁していた。
『大丈夫か哀抔』
『ええ、なんともないわ』
ちょっとカッコいいかも、なんて油断はろくな結果を残さない。
私の胸に固い感触と欲情を誘う快楽が伴う。
しまった、大神君に抱き寄せられた時に当たっちゃったのね。
というかこの距離の近さで平気なのかしら?
『大神君こそ大丈夫なの?』
『大丈夫とは?』
『だってほら......』
みっ接した私達の身体に気づいた彼は途端に動揺の表情を見せる。
『なっ!? これはその......、すまん近すぎたな』
胸の奥が熱く滾る。
可愛らしく照れて見せる彼の初心な表情、それは私を突き動かすのに十分なエネルギーとなった。
『うっ! どうした!? 哀抔!』
気づけば私は彼を押し倒していた。
『アンタが悪いのよ、アンタが......』
この物はフィクションです。
犯罪行為を推奨、肯定する物ではありません。




