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1836話 なかよし

「紅葉、説明すると長くなるんだ。いろいろと込み入った事情もあって――」


 どう言い繕うべきか。

 俺が言葉を探しているその絶妙に間の悪い瞬間を見計らったように、当のドラちゃんがぱっと顔を上げた。

 そして、鈴を転がしたような明るい声を響かせる。


「えっとねえ!」


 空気を読むという概念を、たぶんこの子はまだ知らない。

 悪びれる様子はまるでなかった。

 むしろ自分が説明役を買って出ることに使命感すら覚えていそうな顔で、ドラちゃんは胸を張る。


「昨日、タカシがいっぱい優しくしてくれてね! そしたら体の中がぽかぽかーってなって、力がぐんぐん巡る感じになったの! それで朝起きたら、前よりずっと炎を出せるようになってた!」


「……なるほど」


 紅葉の瞳は穏やかだ。

 口元も一応はいつもの柔らかな形を保っている。

 なのに、なぜだろう。

 その静けさの奥に、下手なことを言えば即座に切り込まれるような薄い刃の気配を感じる。


「親睦を深めることで、高志様による加護が深化した――ということですね?」


「そ、そういうことだ」


 俺はできるだけ真顔で答えた。

 嘘ではない。

 決して嘘ではない。

 ただ、説明をかなり省略しているだけだ。


「でもねでもね!」


 俺の苦しい肯定など気にも留めず、ドラちゃんがさらにずいっと身を乗り出した。

 きらきらした目が、次の爆弾を投下する気満々で輝いている。


「タカシ、すっごく頼もしかったよ! ぎゅーってしてくれて、いっぱい撫でてくれて、それから――」


「その辺にしておけ!!」


 さすがに俺も止めた。

 紅葉の頬がぴくりと引きつる。

 笑顔だ。

 笑顔なのに、なぜか背筋に冷たいものが走る。


「……高志様は、ずいぶんとお忙しい夜を過ごされたのですね」


「誤解を招く言い方はやめろ」


「誤解でしょうか?」


「誤解であってくれ」


 紅葉は少しだけ唇を尖らせたが、やがて小さく息をついて気持ちを切り替えたようだった。

 こういうところが本当に大人だ。

 いや、内心はわからんが。


「ともあれ、戦力が増したのは喜ばしいことです。ドラちゃんさん、とお呼びすればよろしいですか?」


「ううん! ドラちゃんでいいよ!」


「わかりました、ドラちゃん。私は紅葉と申します。高志様の“盾”として、お側に仕えております」


「おおー! じゃあ仲間だね!!」


 ドラちゃんはぱっと顔を輝かせた。

 その無邪気さに、紅葉もさすがに毒気を抜かれたらしい。

 ふっと表情を和らげる。


「ええ。仲間です。ですが、先ほどのような突撃は控えてくださいね。城が燃えてしまいますから」


「はっ!」


 ドラちゃんは両手で口を押さえた。

 そして、大げさなくらいに目を見開く。

 自分がしでかしたことを、今ようやく現実として飲み込んだらしい。


「ご、ごめんなさい! 私、タカシに遊んでほしくて、つい!!」


「遊びに命をかけさせるな」


「でも、タカシも楽しそうだったよ?」


「どこをどう見たらそうなる」


「だって、うきうきで技とか出してたし!」


「それは止めるためだ!」


 俺がツッコむと、ドラちゃんはけらけら笑った。

 紅葉まで、こらえきれないように小さく笑う。

 その笑い声を聞いて、俺はほんの少し肩の力が抜けるのを感じた。


「タカシ!」


 ドラちゃんが俺の袖をちょいちょいと引いた。

 その仕草には遠慮がなく、甘えることへのためらいもない。

 子どもが気に入った相手にまっすぐ懐くような、そんな無防備さがある。


「もっと遊ぼう! 今度はちゃんと火を弱くするから!」


「遊んでいる暇はない。……だが、鍛錬なら大丈夫だ」


「じゃあ鍛錬する!」


「いいだろう。……紅葉、お前も付き合ってくれるか。制御の感覚を見るには、複数人で囲んだほうが安全だ」


「もちろんです」


 紅葉はすぐに頷いた。

 その表情に、もう先ほどのわだかまりはほとんど見えない。

 完全に消えたわけではないだろうが、少なくとも今は仲間として立ってくれている。


 まずは一歩前進……だな。

 この調子なら、ミティやアイリス、流華や桔梗も含め、全員でうまくやっていく道も見えてくるだろう。

 簡単ではない。

 だが、無理だとも思わなかった。


「では高志様。鬼ごっこ――いえ、足腰の鍛錬から行いますか? それとも、的あてを?」


「そうだな。俺としては的あても捨てがたいが、ドラちゃんの課題を考えると足腰を鍛えるのが良さそうだ。まずは安全に移動する、というところが重要だからな」


「うんうん! 私、すっごくがんばる!!」


 そう言って、ドラちゃんは元気よく両手を挙げた。

 その無邪気な動作に、俺と紅葉の視線が自然と向く。

 次の瞬間、口からぼっ、と小さな火が噴いた。


「うわっ」


「きゃっ」


「あ」


 三人で固まる。

 そして一拍置いて、俺は盛大にため息をついた。


「……先は長そうだな」


「はい。でも、退屈はしなさそうです」


 紅葉がくすりと笑う。

 ドラちゃんも「えへへ……」と頭をかいた。

 騒がしい。

 本当に騒がしい朝だ。

 だが、不思議と悪くない。


「よし、行くぞドラちゃん。ちゃんと鍛錬しよう」


「おーっ!!」


「私も参ります、高志様」


 中庭に、再び熱と声が満ちていく。

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