1835話 ドラちゃんへの加護付与
朝の冷気は一瞬で吹き飛んだ。
肌を刺すような熱が、視界ごと押し寄せてくる。
「タカシー! 遊ぼう!!」
豪快すぎる声が、炎の向こうから響いた。
次の瞬間、俺はその“巨大な炎”の正体を理解する。
「ドラちゃんか!! 待て! その炎を鎮めろ!!」
炎の奔流の中心で楽しそうに羽ばたいていたのは、ドラちゃんだった。
竜の姿のまま、朝っぱらから全力で突っ込んできている。
悪意はない。
ないのだが、ないからこそたちが悪い。
「えっと? よくわかんない!!」
「よくわからんまま突っ込んでくるな! 火力が高すぎる!!」
叫びながら、俺は紅葉の前へ半歩出た。
剣を構える。
斬るためじゃない。
鎮めるためだ。
暴れ狂う火勢の流れを見極め、どこに刃を通せば熱だけを散らせるか、一瞬で組み立てる。
「火矢愁――轟!」
踏み込みと同時に剣閃が走る。
火魔法と水魔法を絶妙に噛み合わせ、燃え盛る力を押し殺すのではなく、なだめて落とすイメージで編んだ剣技だ。
俺の刃が火流を横切った瞬間、暴れていた炎は波打つように揺れ、その勢いをみるみる失っていった。
「おおー!」
ドラちゃんが空中でくるりと回って歓声を上げる。
感心している場合じゃない。
「ダメじゃないか、ドラちゃん。ちゃんと力を制御しないと」
「うーん、むずかしい!」
「なんとか頑張ってくれ。竜種と違って、俺たち人族は貧弱なんだ。このままだと、いずれ悪い事故が起きるかもしれん」
「むう……事故はだめ……」
素直に落ち込むあたり、悪い子ではない。
むしろ、かなりいい子だ。
規模感が全部おかしいだけで。
「なるほど、その者が“新戦力”ですか」
隣で熱風に髪を揺らしながら、紅葉が静かに言った。
驚きはあるようだが、さすがに取り乱してはいない。
こういうときの胆力は、本当に頼もしい。
「少しだけ事情を耳にしましたが、竜種なのですよね。確かに、頼りになりそうです」
「えへへー! それだけじゃないよっ!」
ぽん、と炎が弾け、ドラちゃんが人化する。
いつもの美少女の姿になった彼女は、胸を張ってえっへんと笑った。
「私、タカシのおかげですっごく強くなれたんだから!! 昨日の夜、“なかよし”して――」
「ごほん!!」
だが、時すでに遅し。
俺の咳払いより早く、紅葉の視線がすっとこちらへ向いた。
いつも穏やかなその目が、今は妙に澄んでいる。
澄みすぎていて怖い。
「……なかよし? 一晩で強くなったと? 高志様、彼女は竜種のはずですが、もしや――」
「火竜――轟!!」
俺は反射的に剣を振った。
話題を断ち切るように放った新技は、火竜の突進をそのまま斬撃へ変えたような技だった。
燃え上がる龍の顎が前方へ食らいつくように空気を裂き、庭の隅に置かれていた訓練用の岩をまとめて粉砕する。
轟音。
火花。
砕けた石片が、ぱらぱらと雨のように落ちた。
「……ほう」
紅葉が静かに感心する。
なんとか誤魔化せたか。
そう思った直後、彼女はきっちり本題へ戻ってきた。
「見事な剣技です。しかし、話はまだ終わっておりませんよね?」
「いや、今は新技の試し打ちで忙しくてだな」
「高志様」
声は柔らかいのに、逃げ道がなかった。
俺は内心で頭を抱える。
……俺のストライクゾーンが広いのは、ミリオンズの中では周知の事実だ。
相手が竜種だろうと関係ない。
だが、紅葉にそういう節操の無さが露見するのは、なんとなく恥ずかしい。
俺は大和連邦に来てから、割と硬派な侍で通っていたはずなのだ。
多分。
おそらく。
できればそうであってほしい。
とはいえ、事実は事実である。
ドラちゃんに加護を付与できたのは本当だ。
以前は加護(小)に留まっていたのが、今はきっちり通常の加護になっている。
母親であるフレイムドラゴンとの再会、そして正気を取り戻す一件での手伝いが、彼女の“忠義度”を押し上げたのだろう。
そして最後の一押しが、昨日の“なかよし”だった。
やはり、肉体を用いたコミュニケーションというものは素晴らしい。
それだけは確かだ。
通常の加護を付与したことで、ドラちゃんのステータス詳細も確認できるようになっている。
昨日の今日なので、まだみんなと共有はしていないが、ざっとこんな感じのステータスだ。
レベル**、ドラゴヴィフィア=フレイムハート
種族:火竜
身分:ペット
役割:番人
職業:竜
ランク:――
二つ名:――
ギルド貢献値:――
HP:***
MP:***
腕力:***
脚力:***
体力:***
器用:***
魔力:***
武器:――
防具:――
残りスキルポイント***
スキル
火炎ブレス術レベル4
飛行術レベル4
重力制御術レベル3
変化術レベル3
称号:
タカシの加護を受けし者
前まではあった文字化けの表記がなくなっている。
加護付与スキルを担当する、例の”権限者”が仕事をしたのだろう。
要するに、バグ修正だ。
”***”で誤魔化されている欄が目立つが、まあ文字化けが消えただけでも評価してやろうではないか。
「……高志様」
ステータス云々で現実逃避していた俺は、紅葉の声で引き戻された。
さて、どう乗り切ったものか……。




