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反省会

いつもお読みいただき有難うございます。

ヨースケは少し余裕ができたおかげでゴブリン闘士(ファイター)の動きを少しずつだが覚え始めた。

そして覚えた分だけ、攻撃をかわしたり、叩き落したりするのがその分楽になり、さらに心に余裕が生まれより相手の動きを理解できるという好循環が起こり始めた。


実にいい傾向だ。


余裕が出てくると現金なもので、こちらからも相手の(フォーム)を真似てストレートやフックを打ち込んでみたりもした。スッテプも真似てみるがこっちは上手くいかないのですぐやめた。自分のリズムを刻むことは思った以上に練習が必要そうだった。


もう戦い始めてから30分は打ち合っている。しかし相手はあの左ストレート以降、技能(スキル)を使用してくれない。こちらの防御が高すぎる事がばれたからかもしれない。機会を伺っている様に感じる。


ヨースケにとっても、それはそれで拳闘術の基本の動きを覚えて行けるので、助かるといえば助かる。

感覚的にはフックより、ストレートの方が技として使い易そうだったので、相手の攻撃の合間に猿真似だがストレートを放つ。段々鋭く繰り出せる様にはなっている気がする。


体重移動などが重要そうだと感じたので、相手の殴ってくる時のステップは特によくみることにする。すると間合いを取る事が更に少しだけ楽になった。


闘い方というものを学んでいる気がする。


モジョモの奴が、今のステータスなら技能(スキル)と武器を駆使すれば一国の軍隊とやり合える何て感じのことを言っていたが、今思えばとんだ過大評価だろう。

ヨースケは対人戦闘の経験が皆無だ。ゴブリンなどよりも強く狡猾な兵士など山ほどいるだろう。レベル差やステータス差を覆すような技能(スキル)もきっと山ほどあるはずだ。

ヨースケでも、技能で寝込みを襲う、自分の持つ耐性以上の麻痺毒使うなど高レベルの技能保持者を無力化する方法はすぐに複数は思いつける。



この祠での戦闘は最悪の場合、魔弓や魔術あるいは忍者刀を用いた下級刀剣術の上位スキルで相手を瞬殺できるから、今後もいい修行場所になるはずだ。ヨースケは戦闘経験をもっと積むことの必要性を大いに感じていた。



バチィッンと音がして相手がふっ飛んだ。だが威力を上手く殺したようで、少し面食らった顔はされたが、別にそこまでダメージは受けていないようである。

さっきのはどうやらストレートパンチの技能(スキル)が成功したようだった。SPが減った感覚がある。

繰り出せたこと自体は偶然だったが、これで下級拳闘術の技能(スキル)が発現している可能性は大きくなった。


しかし「次はフックだ。」と色気を出したのが良くなかったのだろう。

ストレートより遠回りの軌道で相手に迫るその攻撃は、あっさりと相手にかわされ、懐に潜り込まれた。

危機感知の技能(スキル)が反応する。とっさに首を後ろにそらすが。相手の攻撃がヨースケの顎先を掠めた。アッパーカットだった。

中途半端に避けた事で逆に最悪の当たり方をしてしまった。

ヨースケの脳と世界が揺れる。咄嗟にまだ自由だった左手で相手の身体を突き飛ばして距離をとる。なんとか立っているが足は言うことを聞かない。


やはり以前予想したように急所攻撃はレベル差やステータス差を覆す要素が含まれているようだった。


一旦距離が取れた相手も、チャンスとばかりに再び突っ込んでくる。目潰しなどの回復不能な技を受けたら不味いと咄嗟に顔をガードしたのが悪手だった。

左足首のあたりに強い衝撃が走る。

ヨースケは思ってもいなかった場所に予想外の攻撃を受けたせいでバランスを崩して地面に転がる。


ここでまさかのローキックだった。


つまり相手はガードで視界の狭くなったこっちを視覚を利用して、強烈な足技を打ち込んで来たのだ。そのままこちらのマウントを取ろうと踊りかかってくる。


「ちょっと!大丈夫なの!」


モジョモの大声が響いた。

相手はその声に反応してこっちから距離をとる。相変わらず素晴らしい状況判断だ。

ヨースケは相手から目を離さないように起き上がりつつ今までは相手が一足飛びに離れていた距離に、二歩の動作がかかっていたことを見逃さなかった。決闘補正が消失したのだろう。


相手は敵が2人に増えた事にやや動揺しているようだ。こちらの様子を伺いながら刻んでいるステップのリズムが以前より悪い気がする。

まだ少し揺れる視界の中、ヨースケはほとんど癖のように相手を鑑定した。



ゴブリン闘士(ファイター)〈格闘家〉

Lv(位階):5

種族:ゴブリン族

状態:普通

HP(生命総量):48/50

MP(魔力総量):5/5

SP(体力総量):30/60

ATK(最大筋量):50(武器補正含)

DEF(物理耐性):70(鎧補正含)

MATK(最大魔術行使力):5

MDEF(魔術耐性):20(鎧補正含)

AGI:(敏捷性):80

技能:

身体操作(Lv4)、下級拳闘術(Lv3)、気配察知(Lv3)、決闘補正(Lv1)

詳細情報:

ゴブリンの魔物の一種で、拳闘術を得意とする。元々の強さはそれほどでも無い個体が多いが、1対1の戦闘が得意であり、1対1で戦う時にはの技能補正がかかって強化される為、かなりの強敵となる。



やはり補正が消えていた。SPの減り具合をみるにどうやら先ほどの蹴り技はSPを用いた技だったようだ。

完全に予想外の攻撃だった。

そして自分の間抜け具合にも腹がたつ。

技能(スキル)はステータスに表記されていなくても使われる可能性があることは、自分が身を以て証明していた。それなのに敵の魔物については鑑定ステータスに表記されている技以外は使って来ないと決めつけてしまっていた。

そもそも下級拳闘術の技能(スキル)を持っているからと言っても、相手がボクサーというわけではない。拳闘の技が得意なだけで、戦闘にルールなどない。何でもありなのだ。

相手がボクシングの技ばかり使っていた事から、ひょっとしたら相手もそう誘導する様に闘っていたのかもしれない。しかし蹴りを使って来る可能性を、頭の中から完全に排除していたのは、言い訳の出来ない最悪レベルのミスだ。

いつでも相手を殺せるからと言って甘く見過ぎである。状況が違えば大怪我どころではすまなかった可能性もある。

ヨースケは自身の戦闘に対する考えの甘さを痛感していた。

このままステータスと武器の力で無双を続けても必ずどこかで大きな失敗をしてしまう気がする。

とにかく今日は相手に完敗だった。少し色々と考え直さないといけないのかもしれない。


ゴブリン闘士(ファイター)も急に増えた相手にどうしていいか迷っている様だった。モジョモが俺とは別の位置にいる事も大きいだろう。どちらかお攻撃すれば挟み討ちされると判断したのか受けに回るつもりの様だ。

インターバルが取れたおかげで次第に視界がはっきりしてきた。しかし同時に色々と考えたいことが増えていき頭の中が思考でごちゃごちゃしてきた。

これだと悠長に相手を観察することなんかは無理だろう。もうこの戦闘はさっさと終わらせることにする。


「あーくそっ!今回は俺の負けだわ、でも次回は勝つ!」


つい、そう負け惜しみの言葉が口から出る。そのまま忍者刀に手を伸ばし、『紫電一閃(シデンイッセン)』で相手を真っ二つに切り裂いた。

ただの斬撃でも良かったのだが、せっかくなので技能(スキル)を意識して動作のみで放ってみたら見事に成功してくれた。実は『真言(システム・ワード)』無しでは、『紫電一閃(シデンイッセン)』は初めての成功だった。それだけでヨースケは少し溜飲が下がる。


ゴブリン闘士(ファイター)は何が起きたかわからないという顔のまま霧散した。

床に魔石と鉢金が落ちる音がする。あの腰蓑でなくてよかったと少しだけ思った。


ヨースケが苦々しい顔で戦闘の余韻に浸っていると。


「いや、あんたあっさり勝ってるでしょ?バカなの?」


という空気を読まない言葉と共にモジョモがこちらにやってきた。


「そういう意味じゃねえんだよ。こっちは相手から技能(スキル)を学ぶことが目的だったんだぞ。やりたい事が出来なかった時点でこっちの負けなんだよ。」


「いや、あんだけボコボコにされてなんであんたが上から目線なのよ。」


「ぐっ。」


実に痛いところをついてくる。

こちらの図星をつけたことでモジョモは満足そうな笑みを浮かべると、


「まあ、なんにしても無事でよかったわ。今回はちょっとマズそうだったからつい飛び出しちゃったけど、あれで良かったの?」


「そうだな、正直助かったよ。あそこで割って入ってくれなかったら、さすがに死ぬことはなかったとしても、大怪我してたかもしれな。色々と予想外な攻撃を受けて混乱してたし。」


「もうやめたら、こんなこと。他のスキルで代用できそうじゃない。目的と手段を取り違えてない?」


まあヨースケにも、そう言われても仕方ないことをやっている自覚はあるが、


「いや、俺の目的はただこの島を出ることじゃなくてその先に世界中を旅するってものがある。

でもこんな調子じゃあ、そんなことは絶対に無理だ。

それにこういう戦闘経験は巨大海蛇(シーサーペント)と戦う時も必ず役に立つはずだ。無駄とか無意味ってことはない。

だからこの修行は続行する。もちろん今までと同じ様なやり方は変えていくつもりだ。今回はちょっと危なかったしな。正直相手をなめすぎてたわ。」


「このままだと大怪我しそうだしね。」


「一言余計だ……、と言いたいところだ今の俺じゃ否定できないのが悔しいな。とにかく反省会をしよう。スキルがあっても俺は戦うことが下手みたいだし。」


「まあ確かに今日なんてステータスで遥かに劣った相手にボコボコにされてるものね。そう考えると、かなりカッコ悪いわね。」


「……だからそれをどうするか話し合おうって言ってるのになんで茶化すんだよ。」


「というか単純に格闘に向いてないんじゃない。」


ざっくり言い過ぎな上になんの解決策も提案せず、ただdisる。これがワザとではないところにモジョモのコミュニケーション力の低さがうかがえる。さすが元引きこもり。喧嘩を売ってるとしか思えない。ヨースケはせめて自分は建設的な意見を出そうと考える。


「色々とごちゃごちゃ考えすぎて1つ1つの動作に無駄と遅れが生じてる気がする。

戦闘前のブリーフィングを独りで、しかも頭の中で終わらせてたのもーよくない。

今後は色々とお前に相談してから戦うのもいいかもしれないな。」


「待ってよ、私戦闘のアドバイスなんか出来ないわよ。そもそもごちゃごちゃ考えすぎって言うならそんなに考えなくてもいいんじゃない。あれこれ同時にやろうとするからダメなんじゃないの?つまり頭でっかちってやつね。」


いちいちドヤ顔で言ってくるのはむかつくが実際もっともなアドバイスである。


「うーん、じゃあ今後は、何かをするときには注意すべきメインの目標をちゃんと立ててから行動する。予想外のことが起こったら戦闘なら相手は即座に殺す。あとはもっといろいろな細かい行動の指標を立てといたほうがいいかもしれないな。」


「いや、すでにごちゃごちゃしてるでしょ。そんなに相手のスキル見たいだけならもっとシンプルに、守る。かわす。死なない程度に殴る。の三択でいいのよ。持久力はあるんだし。私は隠れてればいいし。」


モジョモからまさか、脳筋プレイを推奨されるとは思わなかった。


「流石にそれは単純すぎないか?さすがに緊急時の対応だけでも2人で話し合って、細かい部分は決めとくべきだと思うんだが……。」


その後ヨースケとモジョモは30分ほどあーだこーだと話し合った。

会話の中、所々に挟まれるモジョモのアドバイスという名の皮を被った唯のダメ出しは、始めの方はそれでもまだわりとアドバイスの体を保っていた。しかしそれはそのうちだんだんと実生活における小言に成り代わり、それに気付いたヨースケによってぐだぐだな感じで反省会は打ち切られることになった。


ちなみにそんなぐだぐだな反省会の閉会の言葉は「そろそろ昼飯の時間だな……。いい加減地上に戻るか。」だったという。


終わりが本当にぐだぐだになってしまった。


*この話も後で所々書き足しそうです。しかし今は更新優先でいきたいと思っています。これからもレベルダウナーをよろしくお願いします。

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