彼女の怨敵
あと少しで一番初めの話に追いつきます。
最近モジョモさんが全然残念な感じじゃ無いけど
そろそろどんどんまた残念になっていくはずです!
ヨースケはすぐに『情報開示』をして、技能欄の下級狩猟術の項目を引っ張り出す。
下級狩猟術
Lv1:忍び足
Lv2:索敵、望遠
Lv3:投擲補助
Lv4:魔獣飼育
Lv5:射撃補助
Lv6:罠作成
Lv7:無音移動
Lv8:潜伏
Lv9:隠密行動
Lv10:狙撃
今回確認する技能スキルは『Lv6:罠作成』だ。
Lv6:罠作成
今まで自身が陥ったことのある罠をMPとSPを捧げる事で作成する。MPとSPの他に素材も必要とする。作成できる罠は、より上位の罠を経験していた場合その下位互換に当たる罠が作成可能な場合もある。その真言は『罠よ再び』である。
作成可能項目:
通常落とし穴(巨大・大・中・小)
位階減少の罠《永続型》(強・中・小)
位階減少の罠《消失型》(強・中・小)
これだ!なぜか落とし穴があるが。ひょっとしたら倉庫を作った時にそれが巨大な落とし穴として認識されたのかもしれない。そもそも構造が単純だし、デフォで使えるのかもしれないが。まあそれはどうでもいい、今回は当然これだ。
位階減少の罠《永続型》(強)
必要素材:
中級吸魔以上の吸魔種が落とす装備系アイテム、魔力を馴染ませた土、地脈に接続された土地。下級魔法陣術Lv8以上の技能が必須。
やっぱりそうだ。中級吸魔の指輪はあのレベルダウンの罠を鑑定した時、その鑑定結果の作成素材欄にあったんだ。この中級吸魔の指輪を使えば、地脈の噴出口の側という安全な位置にあの凶悪トラップが作れる!これであの罠が踏み放題だぜ。
となりでモジョモが「まーたはじまった。」みたいな呆れた顔をしている。すぐその顔色をかえてやるぜ、と気付いたことを教えると溜息をつかれた。何故だ!
「諦めてなかったのね……。」
モジョモは凄い呆れ顏だ。
「当然だろう、これで俺自身を大幅に鍛えていけることが確定したんだから。何よりGPが稼げるのが嬉しい。あれは祭壇で使えばほとんどなんでも可能みたいだからな。単純にステータスが上がるより嬉しいさ。」
そう言ってやると。
「まだ何も成功してもないのに……。」
とこちらのテンションを下げに来る。
「でも成功すれば島の外に出られる可能性がかなりでかくなる。」
もう俺の中では明日やることは決まっていた。もちろんレベルダウンの罠をなんとかして作り出すことだ。そうと決まればと明日の準備のためにすぐに砂浜へ向かい、また砂を集めてから魔術でさらに細かく砕き、余っていた魔石を20個ほどすり潰し、魔力をなじませた土の触媒を少し多めに作って壺に入れた。これで明日になればすぐに魔法陣を作りに行けるはずだ。明日のためにもさっさと寝ようと思う。
ちなみに採ってきた竹もどきで籠を作ることはすっかり忘れていた。
気がつけば7日目の朝である。異世界言語の自動的な翻訳の意味の中に単語が単純な1対1対応ではなくちゃんと複数の意味が含まれている場合、日記の日付が7日単位で、かつ何月という意味での「月」がこっちでも夜空の月を表しているのなら。月を基準にした太陰暦に近い暦が一般に使用されていると予測できる。この星が惑星なら、月や地球の大きさ、また大気組成などは俺のよく知る地球にかなり近いのかもしれない。そのうち、古代ギリシャ人のごとく穴を掘ってその側面に映る影の深さで地球の大きさや直径を推測したりまた万有引力の計算式からこの星の重力定数や重力加速度なんかを概算してみるのもいいかもしれない。
魔力をなじませた土を入れたツボを体の抱えて地脈の噴出口を目指す。上手くいくかどうかかなり気になっているせいか心なしかその歩調は早い。そのおかげか1時間もしないうちに目的地に着いた。
モジョモが魔法陣を描いた場所を見つけた。周りと少し違って禿げているが、すでにポツポツと草が生え始めていた。1週間で結構草が再生しているので、地脈はひょっとしたらクラル草の成長速度にも影響を与えているのかもしれない。
壺の中の土の2/3にほどをそこにこんもりとさせ、中級吸魔の指輪を真ん中に置く。壺は急に倒れたりしたら困るので少し離れた位置に置く。両腕をかざして準備万端である。さあ、行くぞ。
「『罠作成』、『起動』」
そして『位階減少の罠《永続型》(強)』を強く意識する。するとぐんぐんとMPとSPが吸い取られ始める。あれ?思ったより強く吸い取られていくぞ、と、止まらん!?
「バカ!さっさと指輪を外しなさい!」
急に慌て出した俺を見て、モジョモがその意味を悟り叫ぶ。しかし、
「無理!『起動』で技能実行したから、発動そのものが止められないのかも!発動には左手も右手もかざしてないとダメだったみたいで動かせい!」
マジでやばい。ゆっくりとはいえこのまま吸い取られ続けると本当に枯渇するぞ。もう既に100は越えた気がする。
「あんたこれで死んだら笑い話どころじゃないわよ。」
おお、目がマジだ。怒ってらっしゃる。まあ、彼女にとっても死活問題だしな。しかしまだ吸い取られ続けている。本格的にまずい状況だ。
「いやちっとも笑えないよ!」
とりあえずテンパったせいもあり俺も言い返す。正直、なめてたわ。かなり上級の罠っぽいって分かってたのに。またやらかしてしまった。
「私も笑えないわよ!なんで指輪外してしなかったのこのばか!」
ごもっともです。でもね、俺だって言いたいことはある。
「だって外そうとしたら凄い怯えた顔して嫌がるじゃん!そんなん気軽に外せんわ。」
と、俺が叫んだところで力の流出は止まった。タイミング悪う。MPもSPもだいたい200ずつぐらい使ったみたいだ。しかし焦ったわー、マジで焦ったわー。
モジョモの方はこっちを睨んで黙っている。なんか怒りたいのに怒れないみたいな顔をしている。まあとりあえず怒ってるのは確定だわ。最後、変なタイミングで力の流出が止まったせいで、こっちが八つ当たりした感じになってしまったし。彼女がまだ黙っているので。
「……とりあえず、なんかすまん。心配かけたわ。」
ただ「次から気をつける。」という言葉は今言うと白々しすぎる気がしたので飲み込んだ。またそのうちなにかやらかしてしまいそうだしな……。
「……まあいいわ。別に今のであなたが死んでても、私はぜったいに罪悪感なんて感じなかったし!」
とソッポを向かれてしまった。ああ、完全に怒ってるわ。けど今回ばかりは何も言い返せない。完全に調子に乗っていた俺のミスだ。
とりあえずMPを少しでも回復させるためにそこいらに生えているクラル草をもしゃもしゃと食べる。牛になった気分だが少しずつ魔力が回復しているのがわかるのでやめられない。
そんな風に草を食べながら出来上がった罠の方をみる。地下6階層で見たような罠がそのまま存在していた。鑑定石板でもちゃんと『位階減少の罠《永続型》(強)』と出る。成功だ。ついモジョモの方を嬉しそうに振り向き
「おっしゃ!レベルダウンの理論が上手くいくか確認するぞ!」
と言うと、「……もう好きにすれば。」と呆れた顔をされた。急いで前回の祠へ行き、簡易倉庫から素材回収用のリヤカーを引っ張り出して試練の祠へ挑む。
岩で作られているせいか、リアカーの車輪がかなり大きくガラガラと音を立てる。本来無闇に魔物を引き寄せるようなことは、あまりよろしくない事なのだが、その音を感知しているのか周りの魔物の気配がいっせいにこっちに向かってきた。さっさとレベルを上げたいので無双できる今の状況だとむしろ有難い。
弓を構え迎撃準備する。ぶっちゃけ音鳴らしまくってどんどん魔物を呼んだ方が効率いいんじゃないのか?とも思ったが、最近何かと調子に乗っては失敗しているので少し心を諌める。あまり調子に乗らないようにしよう。
通路の先から最初のスライムが見えた。素材回収が楽になるように可能な限り引きつけてから射つ。相変わらず余裕の一撃だ。そのまま間を置いてどんどんスライムがやってくる。やや離れた位置で、「やれー。やれー。」と俺を応援する声が聞こえる。まあモジョモはレベル上げ厳禁にしてるから他にすることがないんだろう。索敵範囲も俺より狭いしな。今の状況だと本当に応援ぐらいしかする事ないよな。まあぶっちゃけその応援の必要性はまったくないけど。しかもその実態もスライムを相手にしている時は若干私怨混じりに茶化されてる感じがして完全に邪魔なんだよなあ。ニート街道まっしぐらだ。いや、触媒の土作りには活躍してくれた。極たまに有用な魔術知識を提供してくれる。あれ?完全にニート的存在みたいに思ったけどモジョモのやつ意外と役に立ってないか?
13匹目のスライムを消滅させたところで周囲の魔物の気配はなくなった。素材を色ごとにリヤカーに並べてある壺に分ける。粘液が12匹分4種類、青いスライムゼリーが一つだった。もちろん魔石も回収した。
再びガラガラとリヤカーを押して、階段の方へ進む。階段近くで再びスライムと遭遇したのを皮切りに、音に反応して集まってきたスライム達と連続戦闘が始まった。今度は16匹5種類の粘液と、3つのスライムゼリーだった。ゼリーの色は青・赤・黄と信号機の三色である。
リヤカーは階段移動で苦労した。2階層で1階層の焼き増しのような行動を行う。3階層にたどり着く手前、この階層でのスライム討伐数が28匹目に達したときレベルが上がった。
これでこの『成長の腕輪』を付けたとき、だいたいどのくらいの魔物を倒せば位階が上がるか把握できた。
「よし!レベルが上がった。さっさと魔法陣のところに戻ろう!」
嬉々として道を引き返す俺に、モジョモは「なんでそんなに嬉しそうなのよ。」と完全に呆れ果てているようだ。最近呆れられてばかりな気がする。いいの!男ってのはそういうとこがあるの!とは言わない。流石に倒したばかりなので帰り道にでるスライムは2匹だけだった。祠を出て素材を倉庫に置き、罠の方へ向かう。気持ちがはやり、駆け足気味になっていたが罠まで200m程の所で立ち止まらざるを得なくなった。罠の近くで動かない魔物の気配が感知されたせいだ。
気配的にも何時もの感じているものと似ているしスライムだとは思うのだが、いつもより魔力感知が少し大きめに捉えている感じがする。いちいち相手にするのも嫌なので気配遮断を使わずに近づいたのだが罠までの距離が50mを切っても、その気配はいっこう動こうとしない。
30mまで近づいて目視すると、やっぱりスライムだった。いつも見るものより3まわりほど大きい個体だ。サッカーボールよりは確実に大きい。こっちを気にせずに一心不乱に何かしている。
いつもと様子が違うので変に攻撃して刺激するのもまずいかもしれない。そもそも地上のスライムと一度敵対してしまえば、他の個体に寝込みを襲われるようになった。みたいな展開が待ってる可能性も考えられるのだから、しっかり状況を見極めようと思う。もちろん向こうが攻撃してきたら反撃は当然だ。気配を消し弓を構え、観察を続行する。しばらくするとゴソゴソといった感じでやたらと震えていたスライムがその動きを止め、少し膨らんだかと思うと、ぷひー。と何か体の奥から空気の塊を吐き出していた。何あれ?ゲップ?
「なあ、あれなにしてるか分かるか?」
気配を消したままモジョモに聞いてみる。
「どうでもいいわ、さっさと殺しましょう。」
こいつに聞いたのは間違いだったわ。まあ気持ちはわからんでもないが……。
「いや、もっと慎重に動くから。今はまだあいつに攻撃するのは禁止だぞ。」
そう釘をさす。とスライムがペイっと何か吐き出した。あれは……壺?魔力を馴染ませた土が入ってた壺か!そういや後でどうせ戻ってくると思って置きっぱだったわ。スライムはやたらと名残惜しそうに、体の一部を伸ばして壺をツンツンとつついている。触手持ちか。しかしその行動を見ているとただの食いしん坊にしか見えない。
すぐに攻撃してくるようにも見えなかったので気配を再び現してみる。するとスライムの動きが止まった。さすがに気がついたようだ。そのまま弓を構えて近づくがまるで動く気配がない。15mほど近づいたところでスライムは再び体の一部を伸ばし始めた。俺の方ではなく、壺の方へ。そして壺をツンツンとつついたあと自身を指して再びツンツンとつつく。
「ひょっとしてお前?もっと食いたいのか?」
と駄目元で聞くと、プルプルと小刻みに揺れた。マジかよ……、コミニケーションが成り立ってやがる。こいつ見た目に反して賢そうだな。
「どう思う?」
弓は構えたままモジョモに確認する。
「殺しましょう。」
あかんわコイツ。話にならん。後ろにいるせいでモジョモの表情は確認できないが、きっと殺人鬼みたいな顔をしてるんじゃないだろうか。まあ怒りで我を失いかけなのは確実だろう。さて困ったぞ。どうしたものか、とりあえず害はなさそうだが……。モジョモは斜め後ろで「さあ!さあ!」とか言っているがこの際無視だ。………そうだ!
「俺、あいつに『魔獣飼育』ためしてみようと思うんだけど……。悪い奴じゃなさそうだしさ。」
と思いついた事をモジョモに言ってみた瞬間、
「却下、却下、大却下よ!」
喪女魔女さんの火山が大噴火した。しかし大却下ってなんやねん。まあ言いたいことはなんとなく分かる。スライムも突然のモジョモの反応にビクッとしたがこっちを観察でもしているのか、その場からは動かない。モジョモは俺の前に回り込んで言ってきた。
「命令を解除して!あなたが殺れないなら私が殺るわ。」
とスライムに向かって威嚇を始めた。スライムとはいえ魔物なわけだから一概に俺の不利益になっているとは言えないからかもしれない。制約は発動していないようである。しかしダメだこりゃ、目が血走ってやがる。こういう時の女性は大体説得不可能なんだよな。しかもこの類の解決法っていったん時間を置いて冷静になってから話し合うしかないんだよな。そう一度思ってしまうとなんかすごくめんどくさくなってきた。今みたいな良いタイミングで今後『魔獣飼育』をためせる保証はないしな。少し恨まれそうだが仕方ないか。
そして俺はそれが鬼畜のごとき所業だと理解していたが、モジョモに確認も取らずサッと指輪を外した。スライムを威嚇していたモジョモが消える。さあ、これで心置き無く『魔獣飼育』が試せるぞ!
いつもお読みいただきありがとうございます。




