レベルダウン
*12/16加筆修正しました。
ヨースケは、まず1番近くの気配の方向へ向かうことにした。好都合なことに、丁度魔物の気配は1つだけだ。自身の気配を消し弓を構え進む。
しばらくそうして進んでいると通路の先にスライムが見えた。地上で見たものとはだいぶ雰囲気が違うがスライムにしかみえない。こちらにはまだ気付いていないようである。
洞窟の凸凹な壁面の陰に身を潜め観察する。外で見たやつと少し違う感じがする。弓を構える。距離はだいたい20m。おそらく『狙撃』のスキルを使えば簡単に当てられるだろう。最初は使わずに訓練のつもりで狙ってみたがどうも当たる気がしない。斜め後ろで早くしろ的な動きでバタバタと手を動かしている女がひたすらうざい。気づかれたらどーするよ。今回はなぜか音がしてない。一応、気配遮断か何かのスキルを使っているのかもしれない。
決めた。『狙撃』を使うことにする。俺は弓の専門的な訓練を受けたことがない。多分この距離ならMP1の矢とSP1の狙撃で当てられる。ならそうすべきだ。節約して怪我をしても意味はない。むしろガンガン使って正しい射撃感覚を養ってから練習した方が、アテもなく練習するよりいいだろう。
小声でシステムワードを唱え弓を打つ当たった瞬間スライムは弾け飛び、謎の粘液と、魔石が残った。やべえ、スライムの粘液の回収方法なんて考えてなかったわ……。
「残念、魔石だけとって先進みましょう。粘液も使えないことはないけど、今は運べないし。」
日本人のモッタイナイ精神と違いモジョモは以外とドライだった。魔石を拾う鑑定しようとしたら、後でいいでしょそんなのと言われた。彼女はどうも自前の魔力感知を使ってスライムが多い方に行こうとしている。だってなんかやたらと嬉しそうに「じぇのさ〜い。」とかいってるもん。なに?こっちの世界にもやっぱ似た言葉が存在するんかね。異世界言語Lv1を少し恨む。もうちょっと穏便な言葉に訳して欲しかった。しかしモジョモの無意味に可愛い声はこの状況だとやけにムカつく。
「おい、下の階層に行くのはそっちの方なのか?」
「えっ知らないけど、ここ私が入った入り口と違うし。でも魔石欲しいでしょう?」
「下の階層の方が魔石の質がいいんだろ。さっさと下への階段を探す感じでいいんじゃね?お前の話だと俺の実力は5層も楽に突破できる感じじゃないのか?」
「まあそうね、私の戦ったボスでもさっきの弓の3発ぐらいで死ぬわね。」
弱っ、いやこの武器が強すぎるのか?忍者刀なら一撃で死ぬか?いや物理耐性ありそうだし切るときはなんか適当に魔力付与しよう。
「じゃあわざわざ多い方に行かなくてよくね?」
「それとこれとは話が別だわ。」
もういいです。仕方ない、
「わかったわかった。だが前に進みすぎるな。それに地図描きながら行くから、もうちょっとゆっくり動け。あと、ちゃんと気配消せ。」
そう言うとしぶしぶ俺のそばに戻ってくるが、いちいち小さい声で、「細かい男は嫌われるわよ。」とかいってきてうざい。我慢だ、慣れろ俺。と言いつつ気配の近くまで行く。しかし、「あれ?慣れたら益々酷くなるんじゃ……。」という考えに至り、俺はそこで考えるのをやめた。
それりも新たに感知した目の前の集団だ。スライムが5匹もいる。なかなかカラフルな集団でそいつらの色分けは無色3、赤1、青1である。大きさも野球ボールより少し大きいぐらいだ。再び物陰から様子を伺う。「スライムに……、ビビりすぎ……。」とか後ろでメッチャ笑いをこらえている彼女は油断した挙句、自分の身に何が起こったかもう忘れているのかもしれない。鳥頭め……。
まあ、そんな奴はほっといて、前々から考えていた方法を試してみることにした。MPを5、SPを5使って5発の散弾をイメージし『狙撃』5つの軌道をイメージ視界に現れた5つのターゲッティングポインターの全てがすぐにその5匹に収束する。距離のせいか相手が動いていないせいか、とにかく今の状況で速いことはいいことだ。指を離すと、その直後に5匹のスライムは吹き飛んだ。もはや作業だな。
モジョモはというと後ろでちょっとびっくりしていた。のでとりあえず、バカにし返すようにフッと嗤っといてやった。「お前みたいに何も考えなしで突っ込んだりしないんだぜ。」という雰囲気を醸し出しといた。どこか「むきー。」という感じで再びジタバタしてくれたのでだいぶ溜飲が下がった。そしてそれ以降は本当に作業になった。
反応がある方に歩く。
地図を描く。
スライムを見つける。
弓を打つ。
魔石を拾う。
次の反応を探す。
これしかしてない。ドロップは粘液ばかりだったが一度コンニャクみたいなやつが出た。赤いスライムだったから赤いこんにゃくだ。これは持って帰れそうだったがリュックに入れたらつぶれるので諦める。一応鑑定しようとしてみると。
「レッドスライムゼリーよ。ダンジョン産のスライムが落とす素材のうち2番目に出やすいやつね、今後ここに何度も潜りがあるならアホみたいに手に入るから今はさっさと進んだほうがいいわ。」
と珍しくまともなアドバイスがあった。ここは素直に従っとこう。別にヘソを曲げられるのを恐れてるんじゃないぜ。
とりあえずこの洞穴の側にも倉庫を作ろうと決めた。甕を大量に用意して、種類ごとに分類、後はリヤカーか手押し車で大量に壺を積んで一気に素材集めするか。そんなことを考えていると下へと続く階段を見つけた。
「なあ?どの位倒したら俺って次のレベルに上がると思う?」
階段を下りながらモジョモに尋ねると?
「はあ?そんなの今まで貯めてる待機魂魄の量に依存するに決まってるじゃない。まあLv16でしょ?上がったばかりだったら1万匹ぐらいじゃない?」
毎日潜って1日100匹殺しても100日単位かよ?スライムの粘液風呂が作れそうだ。いや、入る気も作る気もないけど。
「それに成長の質ってそれぞれ違うから、同じ位階の人でも次の位階への必要待機魂魄量には個人差があるし、あんたはステータスも高いからもっといるんじゃない?」
まじか?
「あれ、じゃあお前のレベルあげたほうがよくね?」
「……そうね。そういえばわたしLv1だったわ。とりあえず次から私が戦うわ、あなたは遠くでそれをながめてなさい。」
そういうことに決まった。地下2階層へ降りる。さすがに今回はスライムが1匹の反応のところへ向かっている。ヘタレめ。とは思わない。Lv1だしね。いつでも助けが入れられるように離れた場所で弓を構えて待機する。モジョモが「間違えて私を撃たないでよ。」と言ってきたので「ちゃんとスキル使うから心配すんな。」と言ったら。安心したような顔をしてスライムにフヨフヨと近づいっていった。気配消しているとはいえ無防備じゃね?
彼女とスライムの距離が3mぐらいのところでスライムが気づいた。ピョンと飛び跳ねるが少し上空に避難したモジョモにはまるで届かない。モジョモは手のひらから黒い霧のようなものを出しそれがスライムにまとわりついていく。その後スライムはピョンピョン跳ねていたがモジョモは再び天井近くへ逃げくるくるとスライムの周りを回る。ハタから見ていると実にシュールすぎる奴らである。まあまたヘソ曲げそうだからそんな指摘はわざわざしないけど。しばらくするとモジョモになんとか攻撃しようとしていたスライムは、その力がだんだん弱まり最後は霧散していった。
あれが呪い攻撃か?しかしなんと卑怯な戦い方。気付かれずに陰から狙撃する俺とはまた違った卑怯攻撃だ。いや敵の前で煽り続けている彼女の方がはるかに外道だ!と思ったが、どーよ!という感じのドヤ顔に正直に指摘するのも面倒い。いいよ、俺ら仲良く卑怯コンビで……。
その後さっきの戦いで完全に調子に乗ったモジョモは複数匹のスライムの群れに突っ込んでは同じようなことを繰り返す。随分とご機嫌だ。こっちはスライムなんかよりも目の前で跳ね回り揺れ動くお尻と胸がちょっと調子に乗りすぎているようで、非常に心臓に悪かった。スライムを狩ることに夢中なモジョモは俺の視線には気付いていないようで安心した。
3階層への階段の目の前、多分21匹目のスライムだったと思う。倒した瞬間ちょっと指輪を熱く感じた。モジョモの方も「おおお。」と何かにうちふるえている。位階が上がったようだ、しかし指輪が暑く感じるなんて……と思い。心配になって指輪を鑑定石板をかけてみると。
死の指輪+1
使用条件:最大MP−60(常時)
品質:並状態:呪(解呪により破壊される呪い)
耐久値:45/50
効果:死霊の召喚
素材:中級吸魔の指輪、知的生命体の魂魄
詳細情報:
死霊術師の怨念が込められた呪いの指輪。装着者のMPを一定量強制的に吸い上げ、死霊と成り果てた術者を召喚し使役する事ができる。指輪の呪いを解呪すると指輪は壊れる。指輪は自由に脱着可能だが、装着時のMPが一定量以下の場合枯渇状態が持続し死に至る。死を冠するその名の由来はこの性質からだけでなく、封印された死霊を使役に失敗する事が原因である。命令と内容その数の制限の程度は指輪により事なるが、装着者が指輪に奪われている魔力と死霊の位階に相関することが多い。作成方法は中級吸魔の指輪に対して、魂魄定着の儀式を行う事で生み出せる。術式と込められる魔力さえ正しければ、後は儀式の執行人と、生贄とされる生命体の意思が伴っている事が重要。生贄に使用される生命体の魂魄が完全な状態である程儀式の成功率は上がるが、それに伴って必要となる吸魔の指輪の質も高くなる。
うーむ。あかん。吸い取るMPが上がるのはいい。しかし替わりに耐久値が減っている。これは絶対に減らしちゃあかんやつや。喜んでるモジョモに水をさすのも悪い気がするが、指輪が壊れるよりずっといい。
「モジョモ。お前のレベル上げのための戦闘行為を禁ずる。」
「なっ、なんでよー!」
制約が課されたのが分かったのだろう。こっちの方に食ってかかってきた。黙って鑑定石板を見せる。すぐに現状を理解したのか、
「そ、そんな……。消費MPが多少増えたぐらいで何けち臭いこと言ってんのよ!」
と切れた。
「……。」
ずっこけそうになった。理解してなかったようだ。俺が真面目な顔で、
「その下だアホ。耐久値が大幅に減ってる。」
「あ、本当だ……。」
マジで気付いてなかったよコイツ。
「お前に死なれても困るしな、どうしても戦わなけりゃならん状況はあるかもしれない。だから一応全面的には禁止しない。お前は戦うな。代わりに俺が戦う。お前だって家族にもう一回会いたいだろ。無理すんなよ。」
と言ってやったら、「し、しかたないわね……。」とやけに素直に言うことを聞いた。
うむ、さすがに今回は素直だったか。まあ誰しも死にたくはないしな。なんかやたら小さな声で「家族に、あいさつ……んて……。」と何かモジョモが呟いていたが、何時ものなんかアレだろう。ほっとくことにする。
3階層に降りるとスライムっぽい気配に加えて、なんか違う気配が混じり始めた。その違う気配が一体の場所へ向かってくる。後ろからはやたら機嫌の良さそうなモジョモが「へっへー。」とニヤニヤしながらついてくる。可愛いけどキモいという凄い表現しずらい表情をしていた。どうせロクなことを考えてないんだろうと思い、いつものように無視することを決めた時、視界に緑の不細工な小人が見えた。
ゴブリン……って、イメージのまんまやな。まあ実際は違う呼ばれ方してそうだが、異世界言語Lv1的翻訳だとまさにゴブリンになるのだろう。もはや自動化した動きで頭を撃ち抜く。小さな牙と魔石になった。
次の反応に向かおうとしてすぐそばに更に下に続く階段があった。そして俺は今日の目標を6階層まで行くことに决めた。このペースで行けば夕方前には地上に戻れそうだからだ。さっさと降りると心持ちゴブリンの反応が増えた気がする。とりあえずゴブリン2体とスライム1体の集団の反応が一番近かったため、そこへ向かうことにする。もちろん地図はずっと描いている。今回はゴブリンの心臓と首を狙ってみた。スライムは真ん中に当たればいいや的な狙いだが。
結果、3匹揃って即死した。ここももはや完全に作業である。モジョモは後ろで欠伸していた。結局、死霊ってのは眠くなるのか聞きながら次の反応に向かうと「気分。」と答えられ、それこそすごい微妙な気分になった。
いやお前いつも気分で行動してるじゃん。
結局、幽霊が夜になったら本当に眠くなるのかは謎のままだった。いやモジョモはどうも典型的な幽霊とは何か違うみたいだし。だってここ2日もこいつは、夜になるとグースカ寝ていたが、普通に考えて死霊って夜行性のはずだろ?まあどうでもいいことだ。彼女は彼女だろう。そんな作業のように5匹目のゴブリンを倒したら下への階段を見つけた。俺は自分の今日の運の良さをかみしめながら、さっさと降りる。
降りてすぐに分かった。一つだけ周りに比べて明らかに大きな反応がある。あれが階層の主か。元気なうちにさっさと向かうことにする。
物陰から見ると、階段の前にいる魔物が見えた。距離はだいたい20mぐらいだ。スキルを使っていると意外と気づかれない。なんとその階層の主は、グリーンスライムリーダーではなく少し大きなゴブリンだった。鉄の胸当てを着け、ナイフを持っている。あからさまにモジョモが少しホッとしている感じだった。下手をすればここに連れてきたのは失敗だったかもしれない。
「あれは、ゴブリンリーダーかゴブリンレンジャーだと思う。多分余裕よ。」
そういわれた。モジョモは俺の顔色で何か分かったのかもしれない。「大丈夫よ。」と軽く言ってくる。気を遣わせてしまった。
謝るのも悪い気がして無言で弓を構えた。前にモジョモが倒すに3発ぐらい的な発言をしていたので、MPを3加えて頭を狙って射った。頭が粉々に吹き飛び「や・り・す・ぎ。」と言われた。だって初めてなんだもの……。いや、よく考えてみればヘッドショットは急所攻撃だ。あの程度の相手ならMP1でもいいだろう。
鉄の胸当てと、今までの中で一番大きい魔石が残った。と、言ってもピンポン球より少し大きいぐらいだが。他のものと同じようにゴツゴツして鈍く輝く鉄のような感じだ。胸当ては持って帰ることにした。鉄の部分、鎧の皮の部分、くくる紐の部分。防具というよりは素材として使えそうである。鉄もある意味石みたいなものだから土魔術を頑張れば鏃が作れるかもしれない。
しかし、慣れてきたとはいえ、3層から5層突破までがえらい早かった。ぶっちゃけ1層にいた時間の1/3位だ。この様子だと6層も余裕だなと思い特に警戒せずにスタスタと6層へ降りた。
また知らない種類の気配が増えている。それも2つだ。ただ大して強そうじゃない。ぶっちゃけMP1アンドSP1攻撃で処理できるだろう。とりあえず知らない気配が1体でいる場所を探してそこへ向かおうと一歩踏み出した時に、それは起こった。
床が鈍い青色に輝く。
魔法陣だ。「いったいなんの?」と思った瞬間、急速に力が抜けて行く。なぜか足が動かない。これはヤバイ。
俺たちは油断しきっていた。理由はいろいろあるが、そんなことは関係ない。ここは彼女も未踏の地だったのだ油断すべきではなかった。何度も後悔をするくせに俺は何度も失敗する。彼女が叫ぶ。
「指輪を外して!このままだと、あなたが死んじゃうっ!」
あんなに嫌がってたのに?という思考が俺の行動を遅れさせた。指輪を外す前に、力の抜けた足から倒れ込んでしまった。外せなかった指輪の名前を思い出す。
『死の指輪』
その名の由来は……。
さあ、いよいよチートを発見しそうだ。
粗筋で若干ばれてるけど。




