彼女の憂鬱な1日
※注意※
前話の裏話でモジョモ視点の話
でもぶっちゃけこっちがメインストーリー的な回です。
*12/16描写などを書き足したりしました。
ああ、暗い、ここは私みたいな状態の魂魄が本来いる場所じゃないのだろう。それを強く確信する。あの儀式は真言を全て問題なく唱え切ったのだから成功したと確信していた。けど実際はどうなんだろうか。やっぱり今の私は、この世界で不自然な存在なのだろうか。教会の連中も良く似たようなことを言ってるし……。とにかくここにはあまりいたくない。心がどんどん削れ、磨耗していく気がする。
気持ちはどんどん沈んでゆく。とその時、温かい力が流れ込んできた。これは前も一度だけ感じた。ここから私を連れ出してくれる優しい力。でもまだ、まだ足りない気がするの……。
世界の輪郭がじんわりとスッキリしてくる。私は膝を抱え込み丸くなっていた。
この視線の高さが嫌だ。前よりもずっと高くから世界を見るようになったせいで私が変わってしまったことを強く意識してしまう。テンションはとことん低い。生前の低血圧のように、上げたくてもあげられないテンションが苦しい。あの暗い世界の憂鬱さをこちら側までひきこんでいる気がする。
「おはよう。いい朝だな。」
そう元気よく声をかけられた。朝の雨が止んだ後なのかすごくいい天気だ。昼間はまたカラッと晴れてくれるだろう。
ヨースケは嬉しそうな顔をしていた。空元気に見えないので不思議だ、遭難しているというのに。
「……おはよう。あなたは元気でいいわね。」
憂鬱な気分のせいもあって、つい嫌味のような言い方になってしまった。別にそんな風に言うつもりはなかった。ヨースケが嫌な気分にならないといいけど……。しかし彼の方は全く気にしてないという風に会話を続ける。
「今日も色々な作業するけど、気になることがあったり、なんか気づいたことがあったら教えてくれ。」
「……うん。」
さっきは態度が悪かった気がしたので今度は素直に返事をしておいた。
ヨースケは不思議だ。やることなすこと意味がわからない。しかしそこには大なり小なり必ず目的があるように見える。しかも強い。魔力も体力も両方が強い。Lv16といっていたが、私の知っているLv20以上の奴よりスペックが高そうなのだ。もしかすると試練の祠の踏破者なのかもしれない。持っている武器や防具も下手をするとそこら辺の国宝級のものに思えるほどの性能をひめていそうだし。
彼が木を切り始めてだいたい1時間ぐらい経った頃一つだけやたら硬い木があったみたいだ。鑑定アイテムを使っていたので覗き込むと、なんと『紅檀』だった。森の紅玉と言われる。お父様が以前、いつか領地経営が軌道にのったら執務机をこれで作ったものにしたいと言っていたのを思い出した。貴族のステータスの1つらしい。つい「おおー。」つぶやきが漏れてしまった。ヨースケがこっちを見るのが恥ずかしい。なんか笑われている気がする。でもなんか優しい目つきのような気もする。少し恥ずかしかった。
そんなふうに感じていたら彼は突然、腰の後ろに吊るしてある形の変わっている小さな剣を握って変なポーズをとったかと思うと、
「『紫電一閃』、『起動』。」
どうもスキルを使ったようだ。
キンッと澄んだ音がして刀が鞘に戻っていた。「何をしたんだろ?」と思った瞬間根元近くで斜めに切られた紅檀の木が切断面からゆっくりずれてゆき地面に倒れた。「おおお、なんなのあれ、こわー。」と思ってヨースケの方を見ると何故か私以上に驚いていた。……なんで?
「いや、なんであんたがびっくりしてるの?自分のスキルでしょ。……確かにすごいけど。」
とっさにくちから、めちゃくちゃ呆れた声を出してしまった。しかも何故か悔しそうだ。なんなのよもう。男の子の思考はわからない……。しかしガキっぽいのでつい、
「やっぱり……年下ね。」
と言ってしまった彼は余計に悔しそうにしている。おや、なんか少し楽しくなってきたかも……。
その後彼はしばらくすると砂浜で貝を集め始めた。内陸育ちの私には海産物はよくわからないが彼の様子を見るとどうも食べれるらしい。鑑定石板を見て「よし、毒はないな。」とか言ってるしちょっと不安になる。お願いだから食あたりみたいなくだらないことで死なないでね。無駄に死んでほしくはないし、それに私はあそこに戻りたくないの……。
作ったスープらしきものをものすごい微妙な顔ですすっているので、つい聞いてしまう。
「それ、美味しいの?」
「まあまあだな。貝の身自体はとてもうまい。ただ砂を吐かせるのを忘れてたわ、たまに口の中がジョリジョリいうよ。」
知らない言葉だ。「砂を吐く」って何?わからないので聞いていいかどうか悩んでいるとそんな私の態度を察したのか意味を説明してくれた。
砂地に住んでいるから普段貝の中には少し砂が紛れ込んでいるらしい。本当は料理するために半日ぐらい前から海水だけ入れた桶に貝だけを入れとくと周りに砂がないから体の中のほとんどの砂を吐き出してくれるらしい。普段あんまり貝なんか料理しないから忘れていたとのことだ。
ヨースケは普段やらないと自分で言っているのにこういう時に役立つ知識を何故持っているのだろう。昼ごはんのかたずけをしているヨースケをみていると、ついポツリとこぼしてしまった……。
「私も、魔術ばかりだったからこんなことになっちゃんたんだなって思うの。」
彼はこっちを見ると黙って続きを待ってくれているようだった。言葉は止められない。
「私、今日も昨日も貴方がやってる事の意味が最初は全然わかんないの。でも時間が経つとその半分くらいは意味がわかる。いや、実際は半分も分かってないかもしれない。でも、あなたがやってる事に全部意味があるっていうのはわかる。」
なんか微妙そうな顔をさせてしまった気がする。彼はなんて言っていいかわからないのかもしれない。ゴメンねお話するのが下手で。ずっと引きこもってたから……、それも言い訳かな?話を本題にもどさなきゃ。
「私は、私に死霊魔術の才能があって、好きでそれだけやってたわ。地方領主の娘だったし、別にそれだけやっても生きていけて、誰も困らなかった。」
後悔してないのか、後悔したくないのかわからない。私があそこでこの術を使ったのは私が死霊術師だったからなのだろうか、それとも死霊術師だったからこそ指輪を求め、こんなところまで来てしまったのだろうか……。
「私は間違っていたのかもしれない……。」
そこまで言って言葉が続かない。何か伝えてみたいことや言葉にしてみたい事がもっとある気がする……。すごく悔しくて言葉にできない何かがここにあるのだ。
彼はしばらく何か真剣に考えているようだった。そしてゆっくりと
「あのなあ、少なくとも自殺したのは早計だったな。」
ウッと女の子にあるまじき反応で呻くいてしまった。否定できない事実だよね。後呪文を唱え出すのが1時間遅かったら私たちはきっと生きて出会っていた気がする。きっと生きて触れ合ってた気がするけど……。
彼は続ける。
「でもこの島で生きてくことが出来る出来ないと、今のお前の悩みは関係ないよ。そもそもサバイバルなんて状況を想定して訓練してないとどーしようもないとこあるしな。」
今の私の悩みはなんなのだろうか……。彼には、いや他の人が今の私の状況を見たらすぐにわかるのかもしれない。
「それに俺はほら、すげー田舎の人が少ないとこで育ったからさ。今までも生活の何もかもをある程度一人でやる必要があっただけだよ。今の生活はその延長みたいなものだし。その代わり俺は世間一般の常識に疎いしな。お前は俺なんかよりずっと領地経営について悔しいだろう?そうゆうことだよ。」
後半はなんか若干取り繕うような感じだったけど彼の目はその言葉自体は嘘ではないと言ってくれているようだった。そうだ、きっと私は……後悔しているのだろう。それも本当に色々な事に。
その後もヨースケはなんやかんや色々と作っていく。本職の大工顔負けだと思う。凄まじい魔力制御と土魔術に物を言わせてどんどんといろんなものを生み出していく。数も凄いが、何より質と構造がすごい。彼が魔道具の作り方を覚えたらと思うと少しゾッとする。正直この家は異質だ。見たことのない技術が多すぎる。
彼が蛇口と言っていたものもそうあの円形の石の筒をやたらそこらじゅうに張り巡らせていたと思ったら捻るだけで水が出てくる場所を作り出すなんて。確かに外国にはそんなものもあるって話は聞いたことがあった。でもあれは魔石を使っていたと聞くし……本当にこんな構造なのだろうか。しかも最初はまるでわからなかったが風呂を作っていた。まだ使えないと言っていたが。ごく当たり前のように「風呂に毎日風呂に入るぜ。」とか言っていた。普通は大きなタライみたいなものが庶民の風呂じゃないのだろうか……。温泉地にでも住んでない限り庶民がそんなことを考えるはずがない。彼の育ちはひょっとしたらかなりのいいのかもしれない。
最後に日が沈んだ後部屋で一心不乱に無限のメモ帳のページを切り刻み始めた時はやっぱり頭が残念な人だったか、と思ったら。残念なのは私の方だった。メモ帳のあんな使い方に気づかなかったしかも彼は今日得た知識の復習と保存も行っていたのだ。この勤勉さが強さの秘訣かもしれない……。
急に彼が「もう寝るわ……。」と言ったので私は焦った。
また指輪を外されてしまう……。でも外さなかったら二人きりでこの狭い部屋に一晩中一緒にいることになる。このむっつりと!貞操の危機である。あの野獣のような視線を思い出すと顔が火照ってくる。ダメだ思考がグチャグチャする。
「え、わたしもここで一緒に寝るの?」
混乱した挙句、自分でも意味不明なことを言ってしまった。彼は真顔で
「いや、幽霊って睡眠とるのか?」
と言ってくる。そんなの私が知るわけない。幽霊になって初めての夜だもん。
「さあ?しらないわ。でも言われてみると全く眠くないわね。」
なんとか取り繕ったつもりだったが実際はどうだったのか……。
「じゃあ問題ないじゃねーか。」
なんでそんなに冷静なのよこいつ。だんだん腹が立ってきた。同じ部屋で寝るのをいいことに色々と要求するに違いない。昔、妹の部屋で見つけた小説でそういう展開のやつがあった。あれは奴隷の首輪だったけど、命令に逆らえないという点では同じだ。ええと、あの小説のラストは……。ってそうじゃない。とにかく今のこの状況をなんとかしないと。
「嫌よ、暇じゃない。この部屋にずっとじっとしてろっていうの?」
すると彼は
「睡眠はしっかりとってないと精神衛生上良くないといわれてる。幽霊も精神体みたいなもんだし。取ろうと思えば取れるんじゃね。」
などとどこかずれた感想みたいな事を言ってきた。でも内容的には私を心配してくれているようだ……。
「それもそうね。試してみるわ。それはそうだけど、どこで寝るのよ」
向こうの会話の流れにのったら、会話がふりだしに戻っていた。違うでしょ!わたしい!
「そもそもリクエストがあるなら昼に言えよ。こう暗いと何もできん。明日それっぽい場所を作るから今日はその辺にでも浮かんどけ。」
そんなのわかってるわよ。言ったらなんやかんやいいながらたぶんなんとかしてくれることもね。
「嫌よ、結婚前の女性は、男と同じ部屋で寝たらいけないのよ。」
しかしこんな言葉じゃあ指輪を外されて終わりかしら。あそこにはもう戻りたくないのに。うー。
しかし彼は軽くため息をついたかと思うと
「1階で浮かびながら寝なさい。指輪の有効範囲だろ。」
あれ、指輪をはずす気はないの?なんで?まあそうと分かればなんかこのまま追い出されるのは無償に悔しいわね。
「あんたがベッドで寝るのに。」
「わかったよ。ベッドはお前が使え。」
ふふっ、私にそばにいて欲しいから指輪をはめときたいんでしょうどーせ。あんな獣みたいな目で私を見てたし。私はちゃんとわかって……。
「俺が1階で寝袋使って寝る。」
あ……れ?
彼は全く未練もなさそうに1階に降りていった。さっさと。振り返りもしない!
「ぐぬぬ。なんて素直じゃない奴。」
しばらくイライラは収まってくれなかった。眠くなる様子は一向にない。床をすり抜けて1階にこっそりと降りてみる。えらく気持ち良さそうな顔でヨースケはねていた。何かこの顔にイタズラできないかと私はそれをじっと観察しながら色々な手段を検討する。そうやって私の夜は更けていく……。
これで彼女のキャラクター性が少しでも伝わればいいが……。




