はいてない彼女
オチがわかる題名は果たして変えた方がいいのか悪いのか。
「え、何だって?」
こっちの言っている意味がまったくわからない、みたいな顔で、その女幽霊は問い返してきた。いやむしろこれはどっちかというと『聞いた言葉の意味を理解したくない。』の方かもしれない。その間抜けズラを見ていると……本当に理解してない気もしてきたが……。
とにかくセリフ回しから何から、いちいち人の気に障るやつである。ひょっとしてこいつは人をイライラさせる天才というやつではないのだろうか。よし、こいつには現実というものを教えてやろう。
「だからあんたが魂魄付与の儀式で自殺してから、まだ3時間ぽっちしかたってないの。まだその日の夕方にもなってないの。でゅーゆーあんだすたん?」
「のーお。」
なぜか正しいコミュニケーションが成立していた。いや、彼女はただ頭を抱えて唸っているだけだが……。いかに異世界言語Lv1とはいえ、さっきのふざけた言い回しを正確に自動翻訳しているとは思えない。
女幽霊はそうこうしていたかと思うと突然、
「あー、そうか!ここは魂の世界か何かなのね。いやだなー、精霊様もお人が悪い。しかし、死してなお上位存在に認められる私、溢れ出る才能がおそろしい……。」
フフッ、と唇を釣り上げて笑うその仕草は、美人なだけにずいぶんと様になっていた。まあそれ以上に突き抜けてムカつくわけだが……。まあね、俺もお前の存在を恐ろしく感じるのは否定出来ないよ。多分お前が思っているのとは真逆の意味だけどな。
「で、私は何をすればいいのでしょうか。世界の危機に立ち向かえばいいのでしょうか。」
確かに、世界というものは感覚が認識した情報を脳が処理する事によって作り上げている。自己とか自意識というものは、ある意味「世界」そのものであると表現する事ができるだろう。そういった意味では、彼女の頭の中身は危機的状況かもしれない。
良かったな!自己を救う旅に出かけれれるぞ。随分と哲学的な冒険になりそうだけどね!まあ、十中八九もう手遅れだと思うが……。うまく言った。なんて思ってないぞ俺は。
こちらがそんなアホなこと連想しているとはつゆ知らず、その女幽霊はわくわくと何かを期待するような様子で待っている。まあその期待はこれから俺がぶち壊すのだが……。
「あのな、俺はお前の日記を読んで、そしてこの指輪をはめた、ただの遭難者だ。」
そう言って左手の指にはめた指輪をみせる。
「え、マジで……。」
ちょっと殊勝な態度になってきたので真面目に相手をしてやることにする。
「マジだ……。俺もついさっきここに流れ着いてな。平野部で人影が見えたから声をかけようとしたらそいつがいきなり目の前で黒い影に飲み込まれてな。死んじまったんだ……。もちろんそいつってのはお前のことだぞ。その後そばにあった日記を読んでだいたいの事情は察したよ。」
転移してきたことはややこしくなるだけだから、とりあえず別の漂流者という体でいくことにした。
「え、あの時の人。気のせいじゃなかったんだ。」
ああ、そうだよ。ひどい死に方だったよ、とは流石に返せない。
「でもでも、あなたも遭難者なんでしょ?食料も生きる術もなく、もうただ死を待つだけの存在なんでしょ?」
厳しい話だが、現実をありのままに伝えるしかない。真実はいつも残酷だ。
「残念な話だがな……。俺は下級とはいえ水魔術も火魔術も使える。食料も今の時点では後三日分は確実にあるし、肉や海産物なんかを確保するめども立ってる。塩なんかもすぐに海水から作れるだろう。今心配しているのは野菜類だな。葉物からでないと取れない栄養素もあるからな。ただし、まあ少なくとも2日・3日で死ぬようなことはまずない状況だな。」
ゆっくりと、はっきりと言ってやる。
今知るか
後で知るなら
今でせう。
という歌があるように、知るべきことはさっさと知った方がいい。ま、その歌は今俺が作ったんだが。
「え……、ひょとして私、助かってたの?」
「流石にそこは断言出来ないな。今俺が遭難しているのは紛れもない事実だ。俺だって、この後すぐに死ぬかもしれない。たらればの話なんて意味ないぞ。」
実際さっき俺瀕死の状態だったからな。とは言えない。まあ正直、彼女が儀式なんかしなかったらちゃんと助かってたと思うけどね。俺も無意味に見捨てる気はないし。
「でも、私が儀式行わなかったら、お腹好かせてたら御飯ぐらい分けてくれたでしょ。」
なんでこの子はそんな事実を今更確認しようとしてるの?そんなこと知ってもいいことないよー。まあこっちは聞かれたら答えるしかないけど。
「まあそれくらいなら……。さすがにずっと寄生されたらほっぽり出しただろうけど……。」
そう答えてやると彼女はもうどうしようも無い何かに耐えるような感じで、
「そ、そんな……。」
と、悲痛な声を絞り出していた。ずーんと沈んでる感じの雰囲気をまといだす。いや実際の所はそれでもフワフワと浮かんでいるのだが。まあ実際運が悪いよな、お互い。運命がもう少し上手くかみ合えば、生きて出会えただろうし……。
彼女はそのままうずくまるような姿勢をとってフヨフヨと俺のそばを漂い始めた……。俺の子ぐらいの高さでまるまってゆっくりと時計回りに俺を中心にして漂い始める。そしていかにも幽霊らしく、オロロン、オロロンと嘆いている。さらに何かブツブツ言っている様なので耳をすましてみると、
「今なら人が呪い殺せそうだわ……。」
とか言っているのでドキッとした。彼女に命令していなかったことを思い出す。相変わらず迂闊すぎだろ俺。いや、こいつがぶっ飛びすぎてるのが問題だったんだ。まあ言い訳にもならない。そっと指輪を意識しながら、
「いっとくけど、俺に対して害をなすような行為は禁止するからな。」
と言うと指輪と俺の魔力が少し反応したように感じる。彼女はこっちの方を意外なものを見たという顔をしながら。
「へえ、あなた今、私を縛ったわね。」
どこか、感心するように言ってきた。ちょっとした警戒心も感じられる。つーかおまえテンションの上げ下げの幅、半端なくないか?
「よく考えてみれば分かることだったわ。今の私を現世に呼び出してピンピンしてるってことは、あなた中々の術者ね。その鎧みたいなのも普通は手に入れられらないような魔法銀製のようだし。さっきは魔術も二属性使えるみたいなこと言ってたし。それで……、死霊魔術についてはどこで知ったのかしら?」
さて困ったぞ。なぜか急に彼女のこちらにへの態度が変わった。この指輪の使用者が幽霊を命令で縛れることを知っているのは何か変なのか?一応予想してみると、命令によって何かさせられる事を恐れている。とかか?うーむわからん。まあ正直に答えても問題ないだろ、さっきの命令は有効だったみたいだし。
「いや、これってそういう指輪じゃないの?封じ込められた幽霊に魔力を奪われる代わりに使役できるんでしょ?」
「私はそれをどこで知ったかが知りたいんだけど。この類の指輪は効力が誤解される事が多く、呪われた品物扱いされるから真実を知っている術者はかなり少数なの。あなたは別に死霊術者ってわけじゃないでしょう?私と同じ船に乗ってたって事は私を追いかけてきた協会の手先かしら?一体私にどんな命令をするつもりなの?どうせ街中で無理やりにでも私を暴れさせて教会の威光でも上げるつもりなんでしょ!この卑怯者!」
と彼女は悔しそうな顔で睨みつけてくる。俺の方は完全にぽかーんである。
「あの、俺は別の船に乗ってたと思いマス。」
なんかカタコトになってしまった。って言うかなんで俺が卑怯者扱いされないといけないだ!こっちからも言い返してやるぞ。
「ふざけんんな。第一これはまごう事なき呪われた指輪でしょ。解呪無効みたいな呪いかかってますよね!」
「え、嘘。……あ、本当とだ。儀式の前に気付かなかった……。死霊術師、失格だわ……。じゃなくて!じゃあ何者だっていうのよ!」
逆ギレかよ!しかし困った。あなたは何者?ときたか。またずいぶんと哲学的な問いかけだ。俺も自分が何者か知りたい。なんて思ってる場合じゃない。しかし今現在の俺って何?職業的なものを答えれば言いわけ?ニートは違うし、そもそもこの世界にそんな概念はない気がする。あえて言うなら、……ホームレスか。………。いや、違うぞ。違うんだ!俺の家はこの星そのもの誰よりも広い大地というベットに寝転び、星空という世界一広い天井を持つ素晴らしい家を持つ男のはずだ。そう、俺は旅人だ!旅人だから家がないんだ。
「た、旅人かな?」
「なんでどもるのよ!やっぱり何か隠してるんでしょ。」
そんな鬼の首とったり!みたいにわめかなくても……。仕方ない、俺も変な意地ははらずに素直に対応してやろう。
「実はものを鑑定できるアイテムを持っていまして……。」
本当はこれから野草とかをひたすら鑑定して食えるものを探す予定だったんだけどね。
「は、なんですって?あなたそんな危険物を持ち歩いてるの?」
え、危険なのこれ?説明するためにリュックから鑑定石板を取り出そうとしていた所だったのでついビクッと反応してしまった。一般的には爆発とかするアイテムなのだろうか?古白はそんな感じの事は一言も言ってなかったと思うが……。
「え、何?これ危ないものなの?」
すると、ハー、と大仰にため息を吐かれた後、ドヤ顔で、
「いいこと?そんな超貴重なアイテムを持ってることが誰かにばれたらあんた四六時中誰かに狙われ続けるわよ。鑑定系のアイテムなんて大国のそれも身分がかなり高い上流階級者の数人しか持ってないって言われてるのよ。その道具、途方もない金貨の山と交換できるものよ。良かったわね、バレる前に知ることができて。」
やたらと偉そうである。それに、はっきりいってその程度は予想の範疇の答えだった。期間制限のない鑑定石板のGP量はかなり膨大だったからな。聖剣とかの話も踏まえるとその希少さは予測できたし有用性なんか言うまでもない。いちいちややこしい言い方しやがってコイツである。
「いや、そんなことは知ってるから。お前がこのアイテムの情報を他人に漏らすことは俺に害を与えることに他ならないだろ……。」
と、指輪に魔力を込める感じで言ってやったが特に反応はない。ちゃんとさっきの命令の範囲内に含まれていたのかもしれない。
「ああ、そうみたいね。するつもりはまるで無いけど、他人にさっきの情報を漏らすとこ想像したら。制約の反応みたいなものがあったわ。実際行動しようとしたらする前に私が消えそうねこれは。」
そうか、ついでにいくつか追加で制約をかけとこう
「ひとつ、俺に嘘をつくことを禁ずる。ひとつ、基本的には俺の指示に従ってもらう。」
指輪が二回小さく反応した。今の所は問題ないな。どの位まで相手に制約を過せるか分からない以上、こうした小さな制約を少しづつ重ねて様子を探っていくしかない。
「まあ、そうやって制約を重ねるのは当然のことよね。でも基本的にってのはどうゆうことなのかしら?」
こっちを品定めするような感じで言ってくる。
「いや、状況によっては俺も判断し損ねる事はあるだろう。俺やお前の身が状況の変化なんかで急に危険にさらされた時に関してはそっちの判断で動いてもらって構わないって事さ。もちろんそれより先にいった二つの制約を守る限りにおいてはだけど……。」
というと指輪が反応した。曖昧だった制約内容が確定した感じなのかな。
「そう、中々いい心がけね。まああんた見た感じイロイロ抜けてそうだし、私のいう事に従ってれば余裕よ、余裕。私にどーんと、任せておきなさい。」
よし、決めた。まずはこの女の心を折る事から始めよう。上下関係と言うのは非常に重要だ。
「おい、ふざけた事を抜かすな。誰が抜けてそうだ誰が。それと俺の事はヨースケ様と呼べ、これは指示だ。」
と言ってやった。すると。
「なになに、男ってやっぱそう言うプレイがすきなの?お父様とメイドのサリーがそんな感じのやり取りをしてるとこをこっそり見た事があるのよ。」
なぜか予想外に嬉しそうなテンションである。あれ、思ったより強敵だぞこいつ!すごくバカっぽいくせに!いやすごいバカだから強敵なのか……。これは方向性を変える必要がある。
「そうだな、年齢を教えてくれよ。お・ば・さ・ん!」
どうだ、年齢の話は女性にとってきつかろう、たまに明らかに年上くさいし言動があるし。まあ背も低いし、大人ぶってるだけの年下の可能性もあるが……。ってか日記の行動的にその可能性もあるのか、これは失敗かも。
「は、お、おば……。ふ、ふざけないでよね。だいたい、うら若き乙女にそんな事を聞くのは失礼よ。」
焦っている。これはあたりか?
「これも指示だぞ。相互理解のためだ。」
と笑いながら言ってやる。われながら実にいい笑顔で対応していると思う。
「く、くぬう。32歳です。ヨースケ様。」
悔しそうに答える。よしよし、下手にで始めたぞ。いい傾向だ。しかし、32か。そんなに年上なのか?流石に外見も中身も一致してないぞ。ひょっとしてこっちの一年の長さは向こうより短かったりするのか?まあいい、とりあえず煽っとこう。
「いや、その年でうら若き乙女はないでしょう。世間的にはもう子供がいてもいい年じゃないの?」
「し、しつれーな!しつれーここに極まれりよ!私のひいおばあちゃんが精霊族なの。精霊族の血が入ってると肉体的な成長が普通の人族よりゆっくりになるのよ。私の肉体年齢はだいたい16よ!○理だってこないだきたばっかりなんだから!」
その情報は要らない。しかし、
「ああ、なるほどね。それで精神年齢も16ぐらいなのか。」
素で納得がいったせいで、そう思ったままの事を言ってしまった。
「む、むきー。私はバカじゃないぞ!バカって言うやつの方がバカなんだ!」
ぷんすかと擬音が聞こえてきそうな感じで全身を使ってその怒りを表している。うむ、実にバカっぽい。
「いや、日記を読む限り、バカ以外の何者でもないでしょ。」
と、言ったらピタリとその動きを止めた。
「あのー、あの日記見たの?」
「む、さっきそう言っただろ。正直、32年も生きていながらあんな行動しかとれないのはイロイロやばいぞ。後、あまりにも自然に受け答えしてたから聞き忘れていたが
お前、ちゃんと名前を言え、日記にすら名前を書いてないせいで誰に届ければいいのか全くわかんなかったぞ。」
と言ってやると。うああああ、と頭を抱え出した。「違うのよ、あれは……。」とかなんか言ってる。まあ日記を勝手に読まれるのは恥ずかしいからな。しばらく待ってやる事にするのは俺の優しさだ。
「じ、実はあの日記は同じ船に乗っていた人に託さ、ぐわあ……。」
どうやらごまかす方向で心に整理をつけたのはいいが、無意味に言い訳をしようとして、制約に引っかかったようだ。本当になんなのこの子。
「おい、次嘘つこうとしたらそのローブぬいでもらうぞ。後、お前ちゃんと自己紹介しろ。いや、やっぱ俺が先にするわ。俺の名前はヨースケ、只のヨースケだ。旅人だよ。」
ほれ、お前も言え、と促してやる。
「モジョモ・ルミノリエールです。リストテニア王国にある『ルッカ』という村を統治していた地方領主の長女です、いや、でした……。」
なんかそういう言い方されると会話し辛くなる。
「あー、呼ぶ時はモジョモさんでいいか?」
「いえ、なんか気持ち悪いのでモジョモでいいです。ヨースケ様。」
こ・い・つ・は!やはり人を煽る天才に違いない。一瞬で申し訳なさが消えたよ!
「いや、こっちもヨースケでいい。いや、様付けは禁止だな。それで、日記には魔術バカだったと書いてあったが死霊術師なんだろ?あんな儀式を行えるみたいだし。そのへんどうなんだ。結構な腕前なんだろ?」
とちょっとおだてる感じで聞いてやると。
「フッ。良くぞ聞いてくれた。我こそは死神に愛されし天才大死霊術師……あれ?」
大仰なポーズをとり始め、また変な事言い出したよと思った矢先、急に動きが止まったかと思うと。彼女は着ていたローブの下でモゾモゾと動き出した。
「ア、アレ……なんで、うそこれ?制約?でも何で……。」
えらく慌てている。何か様子がおかしい。
「ん?どうした何かあったのか?」
こちらもあわてて身構えると突然、スポンと呆気なく彼女がローブを脱いだ。漆黒のローブに対照的な真っ白な肌がすべて晒される。死ぬ前に見たままの美しい金髪がフワリと波打った。
「おま、なんでローブの下が裸なんだよ!」
「ふええーん。」
目の前には痴女がいた。炎天下で何も身につけていない痴女が。
裸ローブ(女)って結構マニアックなジャンルですよね。
次回:『はえてない彼女』をお楽しみにw




