長閑な時間の約束を
連続投稿三日間目♪
大祭から一月も経てばあの時の国家滅亡未遂事件の所為で騒がしかった王都も静かになるというもの
。
雑鬼や祟り神の凶暴化で破損した街並みも復興が進みその中で暮らす人々の顔も前を向いていた。
しかしその一方で王城内の仕事は殺人的に増えた。やれこの書類は○○○部の仕事だ。やれこの費用は国費で落とせるのか。やれこの責任者は誰だ。やれこの場所の復興は先か後か。とかとか………それはもう街並みが元通りになるにつれて官吏達の仕事量は増えていったのだ………。
幽鬼のような宮仕えの人達が顔色悪くゲッソリとしてふらふらしながら働いている。それは下っ端である縁も同じだった。
神薙直属という肩書きの所為で回される仕事は……この書類私がやったらマズいだろ!? とツッコミどころ満載の内容ばかり。
書類書類書類の山に、僅かな時間で仮眠をとっても夢の中まで仕事をしていて「誰だよこの書類混ぜた馬鹿は!!」という自分の叫び声で飛び起きる始末。どこもかしくも、既に末期状態だ。
昨夜、ようやく一段落つけて神薙の屋敷に帰ってこれた縁は玄関をくぐってすぐにダウン。倒れているのを一人(匹?)留守番していた燈也に回収され寝台に寝かせられる有り様。
穂稀も益稀も似たようなもの。二人共全体的に一回り小さくなったような気がするのは気の所為では無いだろう。
だがやはりというのか一番忙しかったのは神薙だろう。
神祇官達から回される報告書と貴族達からの厄除け、魔除け、結界の強化の依頼としっちゃかめっちゃかにされて………いつ過労死してもおかしくない、と縁は内心神薙に向けて合掌した。
………燈也に関しては彼はこの場所に居てはいけない存在。猫の手もとい鬼の手も借りたい程であったが…………そもそも書類仕事自体出来るのかという疑問もあった。
燈也は明らかに誰かに世話される側である。それにあの美貌、余計な騒ぎが起こるのは明白である。
ブツブツ文句を言いながらも燈也は言うことを聞いてくれたのだ───。
「……………」
神薙の屋敷にある縁の屋の寝台の上。
縁はボンヤリと目を覚ました。気付けば時刻は既に日を跨いで早朝。夕飯も食べずに一晩丸々眠ってしまらしい。そしてお約束というか、縁の隣には燈也が健やかな寝息をたてていた。
………その、ツヤッツヤな顔色の肌を思いっきり抓りたい。
どこか八つ当たりじみた感想を思い浮かべながらも縁は起き上がった。
「………ん」
それに気付いた燈也も目蓋を震わせて目覚め始める。
「おはよう燈也。昨日はありがとうね。………でも、また人の寝台に潜り込んだの? その内穂稀にまた塩投げつけられるよ?」
寝台に肘をつきながらそう言えば、燈也は瞳を瞬かせ白くて滑らかな手で縁の頬に触れた。
「ん? なに?」
「──顔色が、少し悪いな……まだ休んでいた方が良いのではないか?」
どうやら未だ疲労が抜けておらず、顔色が悪くなっている縁の体調が気に掛かるらしい。
燈也はどこか心配性だった。
「そうしたいのはやまやまなんだけどねー。でもまだ仕事が大量に残ってて………」
思わず視線と意識が遠のく。アレ、終わる日が来るのかな……? 明らかに書類仕事は私の仕事じゃあないよね。もはや人手不足過ぎてなんでも有りだ。
「やはり我も手伝って……」
「それは駄目」
むしろその顔に惹きつけられた老若男女問わずの血迷った馬鹿が出るだけである。第一、燈也の存在は一部を除いて極秘扱いだ。………大祭の日に祭り見物に行ったのは一応セーフだと思っておきたい。
「燈也のことは人に知られちゃ不味いんだ。もう少ししたら落ち着くと思うから、そしたら縁側でお茶でもしようよ」
「……………」
燈也は顔をしかめてそのままゴロンと布団に潜ってしまった。どうやらふてくされてしまったみたいだ。
………まったく、しょうがない奴だ。
「な~にまた寝始めてんの? 起きるよ燈也、朝ご飯いらないの?」
「………」
布団から顔を出した燈也は───やっぱりぶすくれた顔をしていた。それでも縁が朝食を食べに行くと聞いて起き出してきた。
燈也が起き出すのを待ってそれから着替える為に一旦燈也を追い出しす。そして着替え終わったら屋の外で待っている燈也と共に食事をとるための室へと向かうのであった。
室には簡単な握り飯と漬け物が用意されていた。置き手紙があったので読んでみたらどうやら益稀が支度してくれたらしい。何時の間に戻っていたのだろう………気付かなかった。
益稀の気配りに感謝しつつ握り飯を燈也と二人で食べ始める。朝食を食べ終わったらすぐにでも仕事場に向かわなくてはならない。
(そういえば……穂稀はしっかり食べているのか?)
神薙に関しては益稀が常に気遣い、補助しているので大丈夫だろうが最近顔すら合わせない穂稀の食事事情が急に気になった。
(女房の仕事ってそんなに忙しいものなのか? それとも私みたいに本来関係ない他の仕事でも回されているのかな?)
取り敢えず屋敷に着いて早々に倒れた私みたいにならなければいいと漬け物を口に運ぶ。
朝食を食べ終えて、燈也に見送られながらいざ屋敷から出ようとしたら頭上に影がかかった。
「? なん……へ??」
『『『『『いったぁあああーーー!!!』』』』』
子供のように甲高い声が影と共に降ってきた。
「はぁ!?」
ドボドボと頭上からのしかかる小さなイキモノ。燈也も驚き固まっているのが視界の端に見えた。
『見つけたぞ、お前、今までどこに行ってたんだよぉぉぉおおおお!!』
『そうだそうだ! お陰で俺達がどんな目にあったか!!』
『頼むから! 頼むからあの鬼の世話をしてくれ~~~!!』
『どごに゛も゛、うぅ……、い゛がな゛い゛でぐれ゛ぇーーー!』
『俺達の救い主はお前しか居ねーんだよ~~~!!』
現れたのは以前稲良姫の一件が終わり縁が屋敷で数日の間療養をしていた際に燈也に八つ当たりをされていたあの雑鬼達五匹であった。
この雑鬼達、普段は城下町で楽しく暮らしているらしいのだが先の一件で狂った他の雑鬼や祟り神に追われて此処まで逃げ込んだ際に王城内に新たに張られた結界によって出れなくなったみたいなのだ。
害がないので神薙や他の神祇官達はこの雑鬼達をほったらかしにしているとのこと。暇が出来たら外に出してやる積もりだと言っていたので雑鬼達が城下町に戻るのはまだまだ先になるだろう。
チラッと燈也に半目を向けてしまうのは仕方ない……。
(お前……また雑鬼相手に八つ当たりしたのか)
そういえば……燈也が一人、屋敷で何をしているのかなんて縁は知らなかった。まさか一人で屋敷にいる間、ずっと雑鬼虐めしていたわけではあるまいな?
縁の視線から逃げる燈也。ってこらこらこら! 何気に雑鬼を踏みつけない! 可哀想でしょうが!
『う゛ぅ……ぐずっ、グズグズ……』
踏まれいた雑鬼を回収。
泣かない泣かない。………怖かったか。そうか、すまんな。
「で? 私になにをしろって?」
『だからこの鬼をちゃんと構ってやってくれ! コイツ、お前が居ないからって俺達コキ使うんだよ!!』
『最近の城下町で流行ってることとか……人気の反物や、他国から商売に来る商品で珍しい物はあるかとか………あっ、あと! 他国の菓子やら甘味物は美味そうなのあるか? とか』
「女子か!!」
内容に思わずツッコミ。しかし雑鬼達や燈也には通じなかった。
「『『『『『コイツ(我)は男だろ(だが)』』』』』」
「………………意味が、違うから」
朝から疲れる。勘弁してくれ。これから仕事があるんだから………………………。
「って、仕事! やばっ、早く行かなきゃ!?」
『いやいやいやいや! だから行かないでくれ!? 俺達の平穏の為に!!』
「すまん、仕事だ。悪いな、とは思ってる」
心の底から。
『『『『『思うんじゃなくて平穏をくれ!!』』』』』
雑鬼達の切なる願いの大合唱にさしもの縁も憐れみを覚える。
ので、黒い気配を背負い物騒な眼差しで雑鬼達を見やる燈也に一言いっておいた。
「燈也あまり雑鬼達を虐めないでやれ。仕事が落ち着いたら縁側で茶をするだけでなく神薙に頼んで城下町にまた遊びに一緒に行ってやるから、な?」
流石に祭りの時のように燈也と二人で城下町散策するのは憚れる。神薙の許可は絶対必要だ。
燈也は少し考える素振りを見せる。
「……以前、祭りの景品で手にした高級茶屋の無料券があっただろう。彼処に行くならば承諾しよう」
「……………」
確かに、あったけど……。よく覚えてるな、あんた。私はすっかり忘れてたぞ。つか燈也って甘味、好きだよな……。華飴とか。
「わかったわかった。一緒に行けるようにするから、だから雑鬼達を虐めないで大人しくしていてくれ。……じゃ、私は行くから。行って来ます!」
言い終わった直後に仕事場へと急いで走る。
…………だから背後で、
『逢い引き誘うのに俺達使うなよ、鬼』
『『『『そうだそうだ! でも約束は守れよ!』』』』
「分かっておる。しばらくは我の使っておらぬ室にて住まうがよい」
という会話がされていたことに。縁は気付くことはなかった…………。
何気に仕組まれ、雑鬼にも売られる縁さん(笑)
燈也も彼女の側に居ようと必死に考えているのです!
あれ? これって……何だかストーカーぽいような………(-_-;)
気のせいですね? はい。




