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白恋鬼譚  作者: 丹下 博観(風光明媚)
異世界にて鬼に出逢うこと
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エピローグ






 『日倭ひわ之国神話』



 先ずは天地あめつち分かれいずる時に居出いでたるは天津御柱大神あまつみはしらのおおがみ。天津御柱大神は天地分けたるに結比古むすびこ 結比売神むすびめのかみを産みて曰わく、混沌せし天地を平らげんと申して結比古に矛授けん。結比古 結比売の二柱。共に矛持ちて天地分けたる。天地分けたりし時に生まれしさかいに結比古 結比売降り立たん。結比古 結比売に矛渡して結比売 結比古に応えんとすれば新たに離津子かわつこ産まれん。されど離津子は不具の子にて結比古怒りこれを弑さんと矛振れば結比売悲しみいたりて矛受けん。矛受けて流れたる血潮を持ちて離津子、天地を離して狭間を創らん。結比古、矛にて結比売を突くこと悔やめども結比売、葦に離津子乗せて流し後に地の底降くだらん────。






●○●○●○●○






「何を読んでおるのだ?」


「ん~? この国の神話」



 寝台の上で書物を片手に縁は燈也の疑問に答えた。大祭終日からすでに五日。あの王都全域にまで及んだ穢れは縁の喚んだ蓮智那炎比売命によって浄化されて事なきを得た。


 その結果、王都の危機に麗しき炎の女神が降臨したことから当代の国王は神の寵愛深き賢王として何も知らない蓮炎国の民草に讃えられている。


 そのことに特に何の感慨も感じなかった縁だが、話を聞いた穂稀は笑顔で怒り。益稀は賢明にも無言を貫き、神薙はどこか呆れているようだった。


 燈也に関しては元から彼は縁しか心を配ってはいない。彼女に害がないようならばそんな話などあっても無くてもよいのだ。



 ………稲良姫に関してはあの日の一件以来まるで憑き物が取れたように穏やかになったそうだ。



 どこか傲慢で我が儘なところはそのままではあるようだが、それでも前よりは他人に対して当たり散らすことはしなくなったと…………どこまで本当かは分からないが。



「……何故、今更このようなものを?」


「私ってさ。この国……いや、世界のことをまるで知らないんだよね。知ろうとも思わなかったから」



 あの日。

 縁が覚えているのは稲良姫が放った穢れの塊に囚われてしまったこと。そして何時の間にか助かっていて目の前で穂稀に殴り飛ばされていた神薙のこと。…………そして。



『よう戻った。我が娘』



 まるで大輪の華のような、美しくも畏ろしい女性の姿と玲瓏の如き声。



(けど……何となくだけどあのヘドロのような中で………誰かに会ったような……………)



 微妙に引っかかりを感じる。

 それを解消する為に、縁はこの世界を調べようと思ったのかも知れない。


 以前も感じたが、この世界は縁のいた世界と類似するものが多い。


 まずこの国は、正確には一つの島国にある一つの統一国家であるらしい。北の世津奈せつな国。東の蒼螺そうら国。西の覇翔はしょう国。中央の鎮清ちんしょう国。そして南の蓮炎国の五つの国は総じて『日倭之国』と呼ばれる。


 じゃあ何でそれぞれ国と名を冠して独立しているのかと思ったら、どうやらかつての日本と同じようなものだと分かった。


 昔の日本はそれぞれの領主が自身の治める土地を国と称していた。特に謙虚だったのは戦国時代であろう。織田信長しかり足利氏しかり。それぞれ天下を目覚めて日々戦を繰り返していたの時代の常識とこの世界は同じなのだ。



(そして魑魅魍魎悪鬼羅刹の類までこの世界は存在している……ん~? 思ったよりも日本に近い世界だな………)



 どちらかというと中国面を強く感じていたので少し意外に思えた。



「ふむ。何か面白いことでも書いてあるのか? 妙に関心しておるようにみえるぞ?」



 頭の上から聞こえる燈也の声。


 ………………ちなみに今、縁は燈也の腕の中にいる。正確に言えば一緒に寝台の上に座っている。


 縁を後ろから抱き抱えるようにして縁の頭の上に自分の顔を乗せる燈也。


 この五日。

 燈也は縁の側から離れようとはしなかった。一応穂稀の目がある内は抑えて(抑えて……る?)はいるが穂稀の目がない深夜などわざわざ鍵を付けた扉もしくは窓から侵入して縁の寝台に潜り込んでいる始末。


 最初こそ鬱と……倫理的に問題があると思い拒否してきたが燈也から色事的な気配はなく、無理やり離そうとすると傍目から見ても落ち込み、それどころか拗ねて近くにたむろっている雑鬼(無害)を虐めていることが判明したので最終的に縁が折れた(そして慣れた)。



(いやだって……。雑鬼達が号泣しながら土下座してくるんだもん。流石に罪悪感が……)



 その時のことを思い出して視線が遠くなる。



「……どうした?」



 何時まで経っても答えない縁に心配したのか。燈也は不安げな雰囲気を醸し出す。


 背後でそれを感じた縁は気を取り直して何でもないかのようにこたえる。



「大したことじゃないよ。ただ私がいた世界とこの世界意外と類似点が多いなって思って」



 パサリと縁は本を閉じる。

 神薙と益稀は未だあの日の事後処理で屋敷にすら帰ってこれない状況だ。穂稀は二人に差し入れを持って行って今はいない。


 後ろにいる燈也に寄りかかるようにして体重を預ける。


 燈也は嬉しそうに縁の頭に頬擦りする。

 まるで恋人同士のようなやり取りだ。



 …………慣れって、恐ろしい。



 内心そう思いながらも最後の最後は燈也の好きにさせているので何も言えない。



「(でも、もうそろそろ穂稀が帰って来るだろうし……燈也を離さないと)燈也、穂稀が帰ってくる時間だから早よ離れろ。また穂稀にど突かれるよ」


「…………」



 ムスッとさっきまでご機嫌だった燈也の気分が一気に急降下しているのが分かるが、縁は無視する。



「離れなさい」



 縁限定でひっつき魔の燈也。

 でも縁が強く言えばしぶしぶではあるが言うことを聞いてくれるのでその辺は助かっている。


 素直に縁から離れた燈也は……、



「…………何してんの?」



 離れたと思ったら何故か縁の膝を枕に寝始めた。明らかに止める様子のない燈也にやれやれと縁はため息を吐いた。


 穂稀が見ればまた一騒動起きるな、と思いながらも縁は丸窓から澄み切った蒼空を見上げるのであった……。











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