欠けた心
*縁、五歳の時
短編を本編再開までちょいちょい投稿します。
ほしいもの?
……………ない。
やりたいこと?
……………ない。
どうして、そんなことをきくの?
おかあさん?
えにしが、いつもひとりでいるのがおかしいの?
えほんをよむのがたのしい?
…………わかんない。
うんどうがきらい?
…………きらいではないよ。
ともだちが、いじめる?
…………えにし、いじめられてないよ。
すきなたべもの?
…………あまい、もの? たぶん。
きらいなたべもの?
…………………たぶん、あじがつよいの?
─────どうしてかなしいおかおをするの? おかあさん。えにし、わるいこなの? だから、おかあさんかなしいの?
おとうさん。なんで、くるしそうなの?
おとうさん。どうして? くるしそうなおかおをするの? えにしは、わるいこなの?
?? どうして、えにしがわるいこだというのか?
おかあさんとおとうさんが、かなしかったり、くるしかったりするのは、えにしがわるいこだからじゃないの? おやがくるしがるのはえにしのせいだって、おじさんおばさんがいつもいってるよ?
どうしておこるの? おとうさん。
どうしてなくの? おかあさん。
わかんない。
どうして?
なにかをほしがらないといけないの?
なにかをやりたがらないといけないの?
なにかをすきにならないといけないの?
なにかをきらいにならないといけないの?
わかんないよ………。
おかあさん。
おとうさん。
おかあさんがえにしのまえにかがみをおいたの。
「縁、こうやってね? 口の端を上げるの。……そう、そうやって目を少し細めて………そうそう! 良くできたわ縁。それが、『笑顔』よ」
おかおが、すこしひきつるけど。
おかあさんはうれしそうだった。
でも、やっぱりどこかかなしそうにみえた。
「次はね……」
おかあさんはえにしにいろんなおかおをさせたの。
えがおと、なきがおと、むずかしい? おかおと、くるしそうなおかおと、いろんなおかお。
「覚えておいてね、縁。こうやってね? お顔を作れば縁は、きっとみんな仲良くしてくれるわよ」
「縁はお父さんそっくりの美人さんだもの。きっと人気者になれるわ」
「縁は、本当に頭が良いのね! 凄いわ縁」
おかあさんをみあげたら、おかあさんはくるしそうなおかおをしていたの。
えにしに、ふつうのこたちといっしょにいられるっていっしょうけんめいにいうの。
「縁、母さんを、泣かせないでくれ」
おかおをつくるようになったら、おとうさんがえにしにはなしかけてくれた。
おとうさんはむずかしいおかおでえにしにそういったの。
「縁はな。普通の子と違って表情も物事の関心も極めて薄いんだ。母さんは、そんな縁のことをとても心配している。だから縁。せめて、どんなに俺達に関心が無いのだとしても母さんだけは気に掛けてやってくれ。な?」
おとうさん?
おとうさん。
お父さん。
ごめんなさい、お父さん。私、お父さんとの約束、守れそうにないや……。
生まれてから十数年育ててもらって、一緒に暮らして。
私はやっぱり分からないよ。
判らないよ。
解らないよ。
理解しようとしても。結局は真似事しか出来なかった。お母さんが小さい頃に教えてくれた表情の作り方を何とか使い分けて誤魔化しているけど。
でもそれはお母さんとお父さんが望んでいることと違うのは、何となくわかる。
なんで、嬉しいんだ?
なんで、怒るんだ?
なんで、嘆くんだ?
なんで、喜ぶんだ?
なんで、笑うんだ?
なんで、悲しむんだ?
あの日、あの時、あの場所、あの言葉、あの人、あの色、あの景色、あの時間、あの話題、あの事。
どうしてそう思うんだ?
どうしてそう感じるんだ?
どうしてそんなことをするんだ?
どうしてそんなことを言うんだ?
どうしてそんなに頑張るんだ?
どうして欲しがるんだ?
どうして傷付く?
どうして傷付ける?
どうして見下す?
どうして不安になる?
どうして? どうして? どうして?
疑問ばかりが浮かんで消える。
興味が、続かない。まるで泡沫のような個。薄い自我。空蝉のような感情。
何時の日か、私はお母さんやお父さん達が望むような『普通』の人になれる日が来るのだろうか?
………無理そうな気がしてならい。
朝起きて、学校に行って、授業を受けて、家に帰って、着替えて、宿題をして、お母さんを手伝って、お風呂に入って、ご飯を食べて、眠る。
毎日淡々と同じことを繰り返す。
友達と遊びに行かない。でも、イジメを受けてもいない。問題は起こしていない。でも、何時も一人でいる。
楽しい?
………別に、普通。
寂しい?
………別に、普通。
人が、嫌い?
………別に、普通。
人と関わるのは面倒くさい?
………別に、普通。
一年間で楽しかった事は?
………特に、無い。
一年間の一番の思い出は?
………特に、無い。
一年間で最も頑張った事は?
………特に、無い。
次の、一年間でやりたい目標は?
なにも、無い
私はどこか、おかしいのだろう。
曖昧な返答。
無関心な自我。
他者と周囲に興味無い。
あまりに空っぽな自分
欠けているのは────きっと、心だ。
少なくとも、私は、そう思う。
自分は生まれながらの欠落人間なのだと。
私は変わることなく、このままなのだろう。
────ずっと。
縁がトリップする前の、縁の日常を書き連ねました。
自我が本格的に芽生える頃の幼い縁。
あまりに周りに対して興味と関心を持たなすぎた縁を心配して彼女の両親は、日々頭を悩ませました。
基本、無表情過ぎて口数少ない縁の前に鏡を置いて表情の練習をさせたのはお母さんの苦肉の策です。
小学生に上がるまでに、せめて人並みの行動をしないと縁が排斥されてしまうと心配した親心故に。
お父さんは、縁が両親に対しても関心が無いことに薄々気付いてせめてお母さんには知られないようにしてくれという本人なりに家族を大切にしようとしました。




