情報の整理と今の立場
うっぷ。
縁は虚ろな目をしながら餡子による胸焼けを誤魔化すため神薙が淹れてくれたお茶をすする。
神薙は嬉しそうに縁のことを見ている。
見舞いの饅頭を、縁は見事に完食した。
辛いのなら残せばよいと思うのだが、縁はここで勿体ない精神を無駄に発揮して食べきった。馬鹿である。
「だいぶ体調も戻ったようで良かったです。お茶も飲んだことですし。そろそろこれからのことを話していきませんか?」
神薙の言葉に、縁は意識を切り替えた。
今まで縁の身体を気遣い、体調が戻るまで待っていてくれたのを知っている。
話を切り出してきたということは問題ないと判断したらしい。
「まずは先に言っておくことがあります。現在、貴女がいるこの場所は帝のおわす蓮炎国の王宮。神祇官が勤める官舎です。そして貴女の立場は私の客人ということになっています」
「……王宮? 客人?」
縁が聞き返すと神薙はえぇ、と頷く。
「貴女は王宮にいる私を訪ねる途中、穂稀が祟り神に襲われているのを見つけて助けようとしたが祟り神の反撃にあい怪我を負ってしまった、と」
「……何故、そこまで私に親身になってくれるんだ? いくらあんたの知己を私が助けたからってそこまでする必要はないだろ」
縁を客人として遇するということは、怪我が治った後も滞在を許すということだ。しかも神薙の話が本当ならばここは王宮。神薙からしたら得体の知れない不信人物でしかない筈の縁に、何故そこまでしてくれるのか……。
しかし神薙は微笑むばかりで答えない。かわりに。
「白水殿。貴女の先祖に方士だった女性はいませんか?」
方士とは何ぞや?
唐突にされた脈絡のない質問に、首を傾げる。そんな縁の様子に神薙はどこか落胆したようだった。
「違うのなら、良いのです。変なことを聞いてしまい申し訳ありません」
「いや、そもそも方士……とは何なのかが分からないんだが」
「え?」
神薙が驚きの声を上げた。
「方士をご存じない? そんな、馬鹿な……」
「方士どころか、私を襲ってこの怪我を負わせた……祟り神とやらも私は知らない」
「……祟り神を知らない?」
「……あんたには世話になっている以上、私も私のことを話そうと思う。実は、私はこの世界とは違う世界から来たんだ」
縁は神薙に穂稀に会うまでの経緯を話した。にわかには信じられない話だろうが、縁は嘘偽りなくすべて聞かせた。
話を聴き終わった神薙はしばらくの間、何かを考えているようだったがため息を一つ吐いて縁に向き直った。
「驚きました。貴女は客人神だったのですね……」
まれ……何だって?
「客人神とはこの世界とは異なる世界からいらした神や人のことをいいます」
苦笑する神薙に、逆に縁は驚いた。
「信じるのか? 私が言ったことを」
「信じます。だって貴女は嘘をつく人には見えませんから……」
それだけ、か?
縁の中に言いようもない胸のざわつきが広がった。
「……どうやら私は長くこちらにお邪魔してしまったようですね。こんなに長居してしまっては穂稀に怒られてしまう。今日はこのあたりで失礼いたします」
唐突に退室の意を示す神薙に、縁は止めるべきか迷ったが、止めたところでこれ以上話を続けるのは無理だろうと思い、頷いた。
「分かった。わざわざすまなかった」
「構いませんよ。それでは、また」
軽く会釈して行ってしまった神薙を見送ると縁は体中の力を抜いて深く寝台に沈んだ。
「………」
とりあえず、縁がこれから暮らしていくにあたっての目処はついたが、まさか自分が今いる場合が王宮とは。そして生活を保証してくれる神薙に対しての疑問も生まれた。
しばらくは安泰だろうが、身の振り方を早めに決めなくてはならないだろ。何時までもこのままでいるわけにはいかない。
果たして自分は元の世界に帰ることが出来るのか? それとも────。
気疲れしてしまったのか、縁はそのまま深い眠りに堕ちていった……。




