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『召喚した地球文明で異世界を遊び尽くす――無限魔力の少年と七人の影姫が築く大帝国』  作者: Ren Hazumi


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第7話 「異世界で、地球の布を売る」

第7話「異世界で、地球の布を売る」


朝の空気がまだ残るラインドルフで、サクオミは目を覚ました。


宿の部屋に差し込む朝日が、カーテンの隙間から床を照らしている。


下の通りからは、石畳の上を走る荷車の音。


誰かが作業員を呼ぶ声。


そして鍛冶職人街の方から、金属を打ち鳴らす音が聞こえていた。


街は、もう動き始めている。


サクオミはベッドの端に腰を下ろし、顔を軽く擦った。


昨日、グレイモスの森から戻ってきた。


身体はそれほど疲れていない。


それでも、頭の中はいつも以上に忙しかった。


ゴブリン2体。


ホーンドウルフ3体。


フォレストボア1体。


戦闘そのものは、難しくなかった。


むしろ――簡単すぎた。


だが、サクオミが気にしているのはそこではない。


机の上に置いていた革の財布から、ギルドカードを取り出す。


小さなカードをしばらく眺める。


ランクF。


登録してから、まだ1日。


サクオミはカードを財布へ戻した。


「このままだと、クエストの報酬だけじゃ、快適な生活には足りないな」


立ち上がる。


「それに、毎日モンスターを狩る生活もしたくない」


最初から、有名な冒険者になりたいわけではない。


ただ静かに暮らしたい。


美味しいものを食べる。


快適なベッドで眠る。


できれば、ちゃんとした住居も欲しい。


そして――


「……コーヒーは欲しい」


そこでサクオミは立ち止まった。


「……コーヒーだけは最優先だな」


朝食を簡単に済ませたサクオミは、宿を出て商業区へ向かった。


朝のラインドルフは、レスターとは少し違っていた。


人々の動きが速い。


荷車が次々と行き交う。


商人が商品を確認し、労働者が袋を運ぶ。


買い手と売り手が値段について言い争っている。


サクオミは、こういう雰囲気が嫌いではなかった。


騒がしいからではない。


誰もが何かしらの目的を持って動いているからだ。


意味もなく立ち止まっている人間が少ない。


サクオミは、昨日訪れた店の前で足を止めた。


簡素な木製の看板。


そして――


店の中には、すでにダレルがいた。


男は何枚かの硬貨を数えていたが、サクオミの姿に気づくと顔を上げた。


「おや。若い冒険者じゃないか」


「おはよう」


「また来たのか」


「見ての通り」


ダレルが小さく笑う。


「まさか昨日の16カッパー、もう使い切ったんじゃないだろうな?」


「まだ残ってる」


「それはよかった。若い奴は稼ぐより使う方が早いと思っていた」


「全部使ったら、明日お金がなくなるから」


ダレルは数秒、サクオミを見つめた。


「……お前、本当に年寄りの商人みたいなことを言うな」


「ただ、お金がなくなるのが嫌なだけだよ」


「まあ、その方が分かりやすい」


ダレルは両手を机に置いた。


「それで、今日は何を持ってきた?」


サクオミはすぐには答えなかった。


そのことは、昨夜から考えていた。


食料は売れる。


塩も売れる。


コーヒーも売れる。


だが、どれも問題は同じだった。


量が少ない。


大量に持ち込めば、出所を疑われる。


少量なら、利益も小さい。


もっと価値が高く、それでいて旅人が持っていても不自然ではないもの。


昨夜、サクオミは衣服についても考えていた。


だが、今朝になって考えが変わった。


「布はどう?」


ダレルが眉を上げる。


「布?」


「反物みたいなもの」


「ふむ……」


ダレルの表情が変わった。


完全に興味を示したわけではない。


だが、明らかに注意を向けている。


「持っているのか?」


「少しだけ」


「どのくらい少ない?」


「試しに売る程度」


ダレルは頷いた。


「なら、見せてみろ」


サクオミは店の中で取り出そうとはしなかった。


前回の経験から学んでいる。


地球の品物を、大勢の人間がいる場所で突然出すべきではない。


「外で」


ダレルが眉をひそめる。


「どうして?」


「保管場所にある」


「倉庫を借りているのか?」


「まあ、そんなところ」


その答えに、ダレルは少し長くサクオミを見た。


だが、無理に聞こうとはしなかった。


「分かった。ついてこい」


2人は店の裏口から外へ出て、人通りの少ない路地へ向かった。


周囲を確認し、誰にも見られていないことを確かめる。


サクオミは意識の中でアイテムボックスを開いた。


そして――


EARTH ARCHIVEから、1本の布を取り出す。


完成した衣服ではない。


地球だと分かるブランド品でもない。


ただの布。


この世界では珍しいほど高品質な、現代の織物。


サクオミが取り出した。


ダレルは、言葉を失った。


サクオミの手に落ちた布は、その大きさから考えると驚くほど軽い。


深い青色。


滑らかな表面。


サクオミは、それをダレルへ差し出した。


「持ってみて」


ダレルは布の端を少し広げる。


そして――指が止まった。


「……これは?」


「布」


「布なのは分かってる」


「それならよかった」


「そういう意味じゃない」


ダレルは親指と人差し指で布の表面を摘まんだ。


少し引っ張る。


裏返す。


端を確認する。


そして光に透かす。


「繊維が細かい」


「うん」


「目も詰まっている」


「うん」


「表面も均一だ」


「うん」


ダレルがサクオミを見る。


「なんで全部そんなに簡単に答えるんだ?」


「事実だから」


「……変な奴だな」


ダレルは再び布へ視線を戻した。


「どこで作られた?」


「遠い場所」


「どのくらい遠い?」


「かなり遠い」


「南か?」


「もっと遠い」


「東?」


「たぶん」


「たぶん?」


サクオミは肩をすくめた。


「ここからの方角は、まだよく分からない」


ダレルはサクオミの顔を見る。


そして、短く笑った。


「お前、本当に嘘が下手だな」


「嘘はついてない」


「それが問題なんだよ」


サクオミは、思わず口元を緩めた。


ダレルは再び布に集中する。


「で、いくらだ?」


「いくらなら買う?」


「質問を返すな」


「どうして?」


「売る側が値段を決めるのが普通だろ」


サクオミは少し黙った。


昨日の取引を思い出す。


16カッパー。


少なすぎる。


今日は同じことを繰り返したくなかった。


「じゃあ、そっちで決めて」


ダレルは首を横に振った。


「なら、品質を見て俺が決める」


「それでいい」


ダレルは小さなナイフを取り出した。


布の端から、ごく少量の繊維を引き抜く。


サクオミは何も言わず、それを見ていた。


ダレルは抜き取った繊維を裸眼で確認する。


それから、もう一度布を撫でた。


「……これはいい布だ」


「どのくらい?」


「この街の普通の布と比べて?」


ダレルは少し考える。


「かなり上だ」


サクオミは大きく反応しなかった。


だが、頭の中では記録していた。


――地球の品物は、やはり価値がある。


今までサクオミは慎重になりすぎていた。


昨日は少量ずつ商品を売った。


そのほとんどが数カッパー程度。


だが、それは地球の品物が安いからではない。


単純に、彼が売っていたもの自体の価値が小さかっただけだ。


サクオミは小さく息を吐く。


「……少額にこだわりすぎてたな」


「何?」


「いや」


ダレルは布を指差す。


「もっと持っているなら、買えるぞ」


「どのくらい?」


「この1本なら?」


「うん」


ダレルは簡単な秤を取り出した。


「長さは?」


「巻いた状態だから、だいたい」


「それじゃ分からん」


「測ってない」


ダレルは信じられないものを見るような顔をした。


「お前、商品の大きさも確認せずに持ってきたのか?」


「試しだから」


「全部そんな調子なら、お前が商売を知らないように見える理由も分かるな」


サクオミは気にせず尋ねる。


「それで?」


ダレルは素早く計算した。


そして、数枚の硬貨を取り出す。


「カッパーじゃない」


サクオミは手元を見る。


「シルバー?」


「ああ」


ダレルは机の上に1枚の銀貨を置いた。


「この1本で1シルバーだ」


サクオミはすぐには手を伸ばさなかった。


「どうして?」


「品質がいいからだ」


「なら、どうして1シルバーだけ?」


ダレルがニヤリと笑う。


「おい。今の質問は、少し商人らしくなってきたな」


サクオミは布を見る。


それから銀貨を見る。


1シルバー。


自分が覚えた貨幣価値では100カッパー。


昨日は、いくつかの小さな商品を売って16カッパー。


今日は、この布1本だけで100カッパー。


差はかなり大きい。


それでもサクオミは、品質が良いと分かったからといって、いきなり値段を上げるつもりはなかった。


「これを何本か追加で売るなら?」


ダレルは即座に首を横に振った。


「やめておけ」


「どうして?」


「今、お前は普通じゃない品質の布を見せたばかりだからだ」


ダレルは布を指差した。


「明日、同じものを20本持ってきたら、俺だって聞くぞ。どこから仕入れたってな」


サクオミは頷いた。


「それは俺も考えてた」


「ならいい」


ダレルは布を机の下へしまう。


「一度に大量に売るな」


「どのくらい?」


「1本か2本」


「毎日?」


「毎日はやめろ」


サクオミはゆっくり頷いた。


「つまり、少しずつ」


「商売ってのは、1日でどれだけ売るかだけじゃない」


ダレルは指で机を軽く叩いた。


「時には、商品がこれからも手に入ると相手に思わせることの方が重要なんだ」


サクオミは黙った。


その言葉には納得できる。


問題は、仕入れ能力ではない。


EARTH ARCHIVEからなら、必要なだけ商品を取り出せる。


本当の問題は――


供給元と、その継続性だ。


大量に高品質な商品を持ち込めば、疑問が生まれる。


誰が仕入れている?


どこから来た?


どこで作っている?


誰が運んでいる?


なぜ、そんなに安く仕入れられる?


そして、最も危険な質問。


――そもそも、サクオミとは何者なのか?


サクオミは1シルバーを受け取った。


「取引成立だな」


ダレルが頷く。


「1本で1シルバー」


サクオミは銀貨を財布へしまう。


今回は適当に入れることはしない。


カッパーとは分けて数える。


本日の取引収入――100カッパー。


昨日とは、明らかに違う。


サクオミは小さく息を吐いた。


「こっちの方がいいな」


ダレルが笑う。


「嬉しいのか?」


「少し」


「なんで少しなんだ?」


「まだ生活しないといけないから」


「なら、死ぬなよ」


「いいアドバイスだ」


ダレルが笑った。


しかし、サクオミにはまだ聞きたいことがあった。


「完成した服なら?」


ダレルの笑いが止まる。


「服?」


「この布の品質なら、これで作った服はもっと高く売れるんじゃない?」


「それはそうだ」


「でも?」


「服には別の問題がある」


「何?」


「サイズだ」


ダレルは指を1本立てながら説明する。


「布なら、買った奴が自分の体格に合わせて服を作れる」


2本目。


「でも完成品の服なら、サイズを決めなきゃならない」


3本目。


「デザイン」


4本目。


「色」


5本目。


「それに好みだ」


サクオミは頷いた。


「つまり、最初は布の方が簡単か」


「ああ」


ダレルは机の下にある布を軽く叩いた。


「お前みたいな新顔なら、完成品の服より布の方が安全だ」


「なるほど」


サクオミは自分の手を見る。


昨日の移動でついた小さな埃が、爪の間にまだ残っている。


その布から服を作る。


高品質な素材。


現地の職人による縫製。


現地のデザイン。


上手くやれば、異世界から来たように見える理由を説明する必要もない。


だが――


それは後だ。


今ではない。


「じゃあ、しばらくは布で」


ダレルが頷く。


「しばらくはな」


サクオミはポケットに手を入れる。


「もう1つ聞きたい」


「何だ?」


「これほど品質の高い地球の品物を、ラインドルフの市場は買えるのか?」


ダレルはすぐには答えなかった。


通りへ目を向ける。


荷車が通り過ぎる。


女性が籠を抱えて歩いている。


2人の商人が小麦の値段について言い争っている。


そして、労働者が現地の布を肩に担いで運んでいた。


「市場には買える奴がいる」


ダレルは、ようやく答えた。


「だが、全員じゃない」


「商人?」


「商人。仕立屋。裕福な家庭。下級貴族。店主なんかだな」


「つまり、安物として売るべきじゃない」


「その通りだ」


サクオミは頷いた。


少しずつ、この世界の市場構造が見えてきた。


地球の商品は、誰にでも安く売ればいいものではない。


品質が高ければ、それに合った市場へ置く必要がある。


だが――


品質が高くなればなるほど、注目も集まる。


サクオミが欲しいのは、注目ではない。


少なくとも、今は。


ただ、生活するために必要なだけの金が欲しい。


「じゃあ、また来る」


ダレルはサクオミを見る。


「大量に持ってくるなよ」


「分かってる」


「同じ商品ばかり持ってくるのもやめろ」


「分かってる」


「それと――」


ダレルはサクオミが着ている簡素な服を指差した。


「今度、完成した服を売るなら、自分の服を見本にするな」


サクオミは自分の服を見る。


「どうして?」


「お前の服は、ただの旅人の服にしか見えないからだ」


「それが目的なんだけど」


「それでいい」


ダレルは笑った。


「余計なことはするなよ」


---


サクオミは店を出た。


財布の中には1シルバー。


そして昨日の取引で得た16カッパー。


今日の100カッパーを加え、これまでの商売による収入は――


合計116カッパー。


商人の財産と比べれば、大した額ではない。


だが、異世界へ来てまだ数日。


しかもランクFの冒険者にとっては、確かな変化だった。


サクオミは冒険者ギルドへ向かった。


今日のクエストを確認しておきたかった。


ギルドの扉を開く。


中は、昨日の朝よりも賑わっていた。


何人かの冒険者が朝食を取っている。


装備の手入れをしている者もいる。


狩りの成果を持ち込んでいる者もいた。


大きな木製掲示板には、鉄製の釘で何枚もの依頼書が貼られている。


サクオミは掲示板へ近づいた。


今回は、内容を丁寧に読む。


タイトルだけではない。


条件も。


証拠も。


報酬も。


そして注意事項まで。


その中の1枚に目が止まった。


---


GUILD QUEST — F-014


クエスト名:基礎回復草の採取


場所:グレイモスの森・南側の道沿い


目標:基礎回復草 ×10


条件:


・ギルドランクF以上であること。

・回復草は使用可能な状態であること。

・根は不要。

・腐った葉は数に含まれない。


達成証明:


・基礎回復草 ×10をギルドへ提出。

・ギルド職員による品質確認。


期限:クエスト受注から3日


危険度:低。ただし、周辺には小型モンスターが生息している可能性あり。


報酬:12カッパー


ギルド注意事項:クエスト地図上で赤く表示された区域には入らないこと。


---


サクオミは、一番下まで読み終えた。


「……こういうのなら分かりやすい」


他の依頼にも目を向ける。


荷物の護衛。


モンスター素材の採取。


街道の清掃。


手紙の配達。


薬草の採取。


すべてがモンスター討伐というわけではない。


むしろサクオミは、その方が好ましかった。


掲示板を見ていると、書類を整理していたギルド職員が声をかけてきた。


「クエストを探してるのか?」


「はい」


「ランクF?」


「はい」


「始めたばかりなら、条件と達成証明をよく読めよ」


「読んでます」


職員は満足そうに頷いた。


「それならいい。新人の多くは報酬しか見ないからな」


サクオミは先ほどの依頼書を指差した。


「このクエスト、12カッパーですよね」


「ああ」


「でも期限は3日」


「そうだ」


「場所までの移動に半日かかるなら、利益はかなり小さい」


職員は笑った。


「お前、本当に計算するんだな」


「必要だから」


「だから、クエストは金だけじゃないんだ」


サクオミが顔を上げる。


職員は別の依頼書を指差した。


「護衛なら道を覚えられる。採取なら地域を知れる。荷物の配達なら商人と知り合える」


サクオミはダレルの言葉を思い出した。


商売は金だけではない。


情報も重要だ。


そのことを、サクオミは頭の中に刻んだ。


それからしばらくして、サクオミはギルドを出た。


今日は新しいクエストを受けない。


昨日、すでにモンスター討伐を経験した。


今日は――


手に入れた金を、どう活かすかを見る日だ。


そして、もう1つ実験したいことがある。


布。


服ではない。


まだ早い。


サクオミは道の角で立ち止まった。


意識の中で、アイテムボックスを開く。


無限に近い収納空間。


その中には、地球の商品が無数に眠っている。


食料。


衣服。


布。


道具。


機械。


車両。


建築資材。


技術。


すべてがある。


しかし、ヴェルセラへ来てから初めて、サクオミはその能力を単なる無限の宝箱として見るのをやめ始めていた。


これは――


戦略が必要な倉庫だ。


取り出しすぎれば、世界が疑問を抱く。


取り出さなさすぎれば、成長できない。


安く売りすぎれば、市場が不審に思う。


高く売りすぎれば、買い手が商品の出所を探る。


そして、あまりにも高度な商品を売れば――


問題は値段ではなくなる。


世界そのものが問題になる。


サクオミはアイテムボックスを閉じた。


「……焦るな」


そして、宿へ向かって歩き始めた。


まだ日は高い。


財布の中には1シルバーと、これまでの取引で得た16カッパー。


まだ金持ちにはなっていない。


そんな状態からは程遠い。


それでも――


初めて、モンスターを毎日狩らなくても金を稼げる道が見えてきた。


地球の布。


少しずつ。


そして、いつか――


完成した服。


サクオミは小さく笑った。


「布でこれだけ評価されるなら……」


サイズも。


デザインも。


この世界に合わせた服。


それを想像する。


「……面白いものが作れそうだな」


だが、今はまだ第1段階だ。


布を売る。


世界を変えるつもりはない。


少なくとも、まだ。


ただ――


自分の生活を、少しだけ快適にする。


そのために必要なことを、1つずつ積み重ねていく。


そしてサクオミはまだ知らなかった。


何気なく売った1本の布が、単なる金稼ぎを超えて、もっと大きな可能性への最初の扉を開いたことを。


【次の第8話 — 「異世界の宿で、地球の味を試す」】


「異世界の宿で、サクオミは地球の商品による商売を少しずつ広げながら、持ち込む商品を目立たせすぎない方法を探し始める。」


【第8話へ続く……】

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