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『召喚した地球文明で異世界を遊び尽くす――無限魔力の少年と七人の影姫が築く大帝国』  作者: Ren Hazumi


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第13話「権能共有」

第13話「権能共有」


ヴァルケイルの森――仮設野営地

ヴェルセラ到着から11日目――18時10分

視点:榊原朔臣


小さな焚き火が、2人の間でぱちぱちと音を立てていた。


榊原朔臣は、金属製のカップに入ったコーヒーを手に、揺れる炎を見つめていた。


向かいでは、ヴァエリスが倒木の上に腰掛けている。


傍らには布袋。


先ほどまで使っていた杖は、木の幹に立てかけられていた。


負傷した足は、まだ完全には治っていない。


それでも、ミレル村からは十分に離れることができた。


人の声はない。


聞こえるのは、夜の虫の音。


木々の間を抜ける風。


そして時折、森の奥から響いてくる何かの気配だけだった。


ヴァエリスは焚き火を見つめる。


「……ここで一晩過ごすの?」


「今夜はな。」


「本当に宿を取る予定はなかったの?」


「もう、他に選択肢がないからな。」


「あなたの習慣が、1つ分かってきたわ。」


「何だ?」


「問題が起きてから、どうするか考える。」


朔臣はコーヒーを一口飲んだ。


「それは違う。」


「本当に?」


「問題が起きることは考えていた。」


「それで?」


「その問題について考えるのは、後でいいと判断した。」


ヴァエリスは数秒間、朔臣を見つめた。


「……それ、もっと悪いわ。」


「かもしれないな。」


ヴァエリスは小さくため息をついた。


不思議なことに、彼女はヴェルカロン家にいた頃ほど緊張しているようには見えなかった。


以前は常に伸びていた肩の力が、今は少し抜けている。


表情は相変わらず落ち着いている。


だが、何かが変わっていた。


朔臣は何も言わず、それを見つめていた。


やがて、ヴァエリスの足へ視線を向ける。


「まだ痛むか?」


「それほどでもないわ。」


「嘘だな。」


ヴァエリスが眉を上げる。


「何ですって?」


「さっき歩いているとき、石を通るたびに3回ほど歩幅を小さくしていた。」


「……そこまで見ていたの?」


「道を見ていただけだ。」


「私じゃなくて?」


「たまたま君が道の上にいた。」


「……都合のいい答えね。」


朔臣は薄く笑った。


そしてカップを置く。


「明日は、その足を無理に使わない。」


「歩けるわ。」


「分かっている。」


「だったら――」


「歩けることと、歩き続けなければならないことは別だ。」


ヴァエリスは黙った。


朔臣は何本か薪を拾い、焚き火へ放り込む。


「身体には限界がある。」


「あなた自身は、あまり身体の限界を気にしていないように見えるけれど。」


「俺は例外だ。」


「魔力が無限だから?」


朔臣の手が止まった。


ヴァエリスは、その小さな変化にすぐ気づいた。


「……ごめんなさい。」


「気にするな。」


朔臣は再び焚き火へ視線を戻す。


ヴァエリスは、そんな彼を見つめた。


「私は、まだあれについて考えているわ。」


「何のことだ?」


「あなたの魔力よ。」


「やっぱりな。」


「昨日、あなたは自分の魔力容量には限界がないと言った。」


「システムがそう表示した。」


「それを、そのまま信じたの?」


「いや。」


朔臣は首を横に振った。


「自分で試した。」


「どうやって?」


「まだ限界を見つけられていない。」


ヴァエリスは、しばらく朔臣を見つめた。


「もし私にも、それだけの魔力があったら……」


「君にはない。」


「分かっているわ。」


「だから、俺と自分を比べるな。」


「そういう意味じゃない。」


ヴァエリスは自分の両手を見つめた。


「ただ……私は今まで、自分の魔法の能力は十分に高いと思っていたの。」


「実際、高い。」


「ずいぶんあっさり言うのね。」


「事実だからな。」


ヴァエリスが振り向く。


「あなたにも、それが分かるの?」


「少しだけな。」


「私は、あなたが本当はどこまでできるのか知らない。」


「俺も、君が本当はどこまでできるのか知らない。」


「昨日、私の魔法回路は優れていると言ったでしょう?」


「俺が見た範囲では、そう判断した。」


ヴァエリスは目を細める。


「あなた、まだ何か隠しているわね。」


朔臣は小さく笑った。


「君もな。」


沈黙。


やがて、ヴァエリスが微笑んだ。


「……公平ね。」


焚き火が、再びぱちりと音を立てる。


しばらく2人は、森の音だけを聞いていた。


やがて、朔臣が手のひらを開く。


「ヴァエリス。」


「何?」


「見せたいものがある。」


ヴァエリスの表情が一気に真剣になる。


「魔法?」


「違う。」


朔臣が手を少し持ち上げた。


手のひらの上の空気が揺れる。


光ではない。


炎でもない。


風でもない。


もっと微細な何か。


透明なウィンドウが、空中に浮かび上がった。


ヴァエリスは反射的に立ち上がる。


「……それは。」


「近づきすぎるな。」


「まだ何にも触れていないわ。」


「それでもだ。」


ヴァエリスは、そのウィンドウを見つめた。


ヴェルセラの大多数の人間には理解できない文字が並んでいる。


だが、朔臣にはすべてが明確に読めた。


【ワールド・サモン・システム】


【権能】


【権能共有】


【対象:ヴァエリス・クェルヴェイン】


ヴァエリスは、朔臣の表情の変化を見逃さなかった。


「それは何?」


「俺の能力の1つだ。」


「魔法?」


「正確には、そういうものじゃない。」


「じゃあ、何なの?」


「この世界の言葉だけでは説明しにくい。」


ヴァエリスは、それ以上追及しなかった。


それが、朔臣が彼女をさらに気にかける理由の1つでもあった。


彼女は知りたがっている。


とても強い好奇心を持っている。


それでも、朔臣がまだすべてを説明するつもりがないと分かれば、そこで止まる。


「何ができるの?」


朔臣はメニューへ視線を戻す。


「俺が持っている権能の一部を、他人に分け与えられる。」


ヴァエリスの紫色の瞳が、わずかに見開かれた。


「力を?」


「一部だけな。」


「どれくらい?」


「それほど多くない。」


「どれくらいなの?」


朔臣は首を横に振る。


「まずは数字で考えるな。」


「どうして?」


「渡した量だけで、すべてが安全だと思ってほしくないからだ。」


ヴァエリスは黙った。


「どういう意味?」


「大きな力を持っているからといって、それを使いこなせるとは限らない。」


朔臣は指を1本立てる。


「身体には限界がある。魔法回路にも限界がある。制御にも限界がある。相性だって存在する。」


ヴァエリスはゆっくりとうなずいた。


「昨日、あなたが言っていたことと同じね。」


「そういうことだ。」


「それで、私に何を与えるつもりなの?」


朔臣は再び画面を見る。


「まだ完全には決めていない。」


「まだ?」


「君の身体が、その権能をどう受け入れるのか確認する必要がある。」


ヴァエリスは、まっすぐ朔臣を見る。


「私に試すつもり?」


「君が同意するなら。」


沈黙。


朔臣は動かなかった。


圧力もない。


命令もない。


ただ、待っている。


やがてヴァエリスが尋ねた。


「危険は?」


その質問に、朔臣は小さく笑った。


「いい質問だ。」


「何が?」


「何かを受け取る前に、危険について聞くところだ。」


「私は馬鹿じゃないわ。」


「知っている。」


朔臣は息を吐く。


「正確な結果は、まだ分からない。」


「それじゃ、安心できないわね。」


「まだ答えが存在しないからな。」


ヴァエリスは焚き火を見る。


「痛みはある?」


「あるかもしれない。」


「失敗する可能性は?」


「あるかもしれない。」


「私の魔法回路を壊す可能性は?」


朔臣は一瞬、黙った。


「身体が受け入れられない兆候が出たら、俺が止める。」


「止められるの?」


「止められると思っている。」


ヴァエリスは朔臣を見つめる。


「本当に?」


「そうだ。」


その答えには、傲慢さはなかった。


ただ平坦だった。


まるで、言葉にする前にすでに考え終えている人間のように。


ヴァエリスは再び画面を見る。


「それで、その後は?」


「義務はない。」


「契約も?」


「ない。」


「あなたの部下になるわけじゃない?」


「ならない。」


「その力を受け取ったから、あなたについて行かなければならない?」


「そんなことはない。」


ヴァエリスは薄く笑った。


「本当に、それだけは一貫しているのね。」


「何が?」


「選択。」


朔臣は肩をすくめる。


「選択を求めるなら、本当に選べるようにしなければならない。」


ヴァエリスは再び腰を下ろした。


自分の手を見る。


そして、静かに言った。


「分かったわ。」


朔臣はすぐにはシステムを操作しなかった。


「本当にいいのか?」


「ええ。」


「気が変わったら――」


「分かっているわ。」


ヴァエリスは朔臣を見る。


「いつでも止めていいのね。」


「そうだ。」


「やって。」


朔臣はうなずいた。


「分かった。」


画面へ視線を向ける。


【権能共有】


【対象確認済み】


【適合性解析】


【身体的許容量:許容範囲】


【魔法回路適合性:高】


朔臣はわずかに眉を寄せた。


「……高い。」


ヴァエリスは彼の顔を見る。


「何?」


「いや。」


朔臣は再び画面へ目を戻した。


「最初は極小から始める。」


「どれくらい小さいの?」


朔臣は薄く笑った。


「君が想像するより、ずっと小さい。」


指を動かす。


爆発は起きない。


巨大な魔法陣も出現しない。


まばゆい光もない。


ただ1つ。


細い光の点が、2人の間に現れた。


その光は、ゆっくりとヴァエリスへ向かって進んでいく。


ハイエルフの少女は動かなかった。


光が、彼女の指先に触れる。


ヴァエリスの身体が小さく震えた。


「……!」


朔臣はすぐに立ち上がる。


「ヴァエリス?」


「待って。」


彼女は手を上げる。


「止めないで。」


「本当にいいのか?」


「ええ。」


光が、ヴァエリスの身体へ入っていく。


彼女は目を閉じた。


呼吸が変わる。


1度。


2度。


そして――


「……何、これ?」


その声は、とても小さかった。


「何を感じる?」


「魔力。」


「どうだ?」


「まるで……」


ヴァエリスは言葉を止める。


眉間に皺が寄った。


「どう説明すればいいのか分からない。」


「言ってみろ。」


「普段、魔力は流れとして感じる。」


「そうだな。」


「でも、今は……」


ヴァエリスが目を開く。


暗い紫色の瞳が、焚き火の光の下で一段と鋭く見えた。


「私の中に、新しい空間ができたみたい。」


朔臣は彼女を見る。


「魔法回路か?」


「違う。」


ヴァエリスは手を持ち上げる。


「もっと深いところ。」


指先がわずかに震えている。


「朔臣。」


「ん?」


「自分の魔法回路の1つ1つが、全部感じ取れる。」


朔臣は答えなかった。


ヴァエリスが立ち上がる。


今度は杖を使わない。


片足を地面につける。


そして、もう片方の足も。


痛そうな表情はない。


歩く。


1歩。


2歩。


3歩。


そして止まる。


自分の足を見る。


「……痛みが消えている。」


朔臣もすぐに立ち上がった。


「まだ動くな。」


「でも――」


「動くな。」


その声に、ヴァエリスは止まった。


朔臣が近づく。


彼女の足首には触れず、状態を確認する。


「自分で感じてみろ。」


ヴァエリスは目を閉じた。


数秒後。


その表情が変わる。


「痛みだけじゃない。」


「何?」


「身体の中のつながりが、もっとはっきりしている。」


「つながり?」


「魔力回路。」


ヴァエリスは手を上げる。


「それに、流れも……ずっと速い。」


朔臣はゆっくりとうなずいた。


「まだ魔法は使うな。」


「どうして?」


「どれくらい変化しているのか、まだ分からない。」


ヴァエリスは自分の手を見る。


「少しだけ試してもいい?」


「少しだけだ。」


ヴァエリスはうなずく。


焚き火から数歩離れる。


息を吸う。


右手を上げた。


「……水。」


小さな魔法陣が現れる。


簡素なものだ。


空中に水が集まり始める。


昨日のヴァエリスの説明では、魔力を制御するにはそれなりの集中力が必要だった。


だが、今回は――


水が、ほとんど一瞬で形を作った。


1つの球体だけではない。


3つ。


そして5つ。


ヴァエリスの目が大きく見開かれる。


「……」


朔臣がすぐに言う。


「十分だ。」


5つの水球が消える。


ヴァエリスは手を下ろした。


「今、ほとんど魔力を使った感じがしない。」


「そこが問題だ。」


「問題?」


「まず、それを制御できるようにならないとな。」


ヴァエリスは朔臣を見る。


「どれくらいの力を私に渡したの?」


「多くない。」


「これで多くないの?」


「俺が持っているものと比べればな。」


「……」


ヴァエリスは反論できなかった。


朔臣は彼女の手を指す。


「もう1度。」


ヴァエリスはうなずいた。


「炎。」


小さな炎が生まれる。


そして、徐々に大きくなる。


朔臣はすぐに手を上げた。


「止めろ。」


炎が消える。


ヴァエリスは朔臣を見る。


「私、無理に大きくしていないわ。」


「分かっている。」


「でも、勝手に大きくなった。」


「だから、それを理解する必要がある。」


朔臣は再び座る。


ヴァエリスも腰を下ろした。


「力そのものが問題じゃない。」


「じゃあ、何?」


「制御だ。」


「……」


「大きな力を渡されても、それを調整できなければ強くなったとは言えない。」


朔臣は焚き火を見つめる。


「ただ、より大きな問題を生み出す存在になるだけだ。」


ヴァエリスは小さく笑った。


「あなた、本当に表情を変えずに失礼なことを言うわね。」


「効率的だからな。」


「いい理由じゃないわ。」


「俺には十分だ。」


ヴァエリスは笑った。


だが、すぐに表情を真剣なものへ戻す。


「朔臣。」


「何だ?」


「さっき、あなたは本当は何をしたの?」


朔臣はすぐには答えなかった。


自分にしか見えないシステム画面を見る。


【権能共有――有効】


【共有段階:最小】


【適合性:高】


【魔法制御:強化】


【再生能力:強化】


朔臣は画面を閉じた。


「俺の能力の一部を、君に与えた。」


「一部?」


「ごく一部だ。」


「全部ではないのね?」


「当然だ。」


「どうして?」


朔臣はヴァエリスを見る。


「もっと与えたら、何が起こるのか俺にも分からないからだ。」


ヴァエリスはうなずいた。


「それなら納得できるわ。」


「それと、もう1つある。」


「何?」


「君には、俺から力を受け取っただけで強くなってほしくない。」


ヴァエリスは黙った。


「それなら……?」


「自分の足で立てるようになってほしい。」


ヴァエリスは俯いた。


単純な言葉だった。


それなのに、なぜかすぐには返事ができなかった。


彼女の手が、ゆっくりと握り締められる。


「……あなた、知ってる?」


「何を?」


「私の人生では、いつもみんなが私から何を得られるかを見ていた。」


朔臣は黙って聞いている。


「家族は私の魔力を見た。」


ヴァエリスは続ける。


「他の人たちは、私の種族を見た。」


彼女は自分の手を見る。


「私の家名を見る人もいた。」


そして、朔臣を見る。


「でも、あなたは私に何かを与えて、それでも自分の足で立てと言う。」


朔臣は頬を掻いた。


「君がそういう言い方をすると、なんだか変に聞こえるな。」


「そうかもしれない。」


ヴァエリスは微笑む。


「でも、私は好きよ。」


朔臣は何も言わなかった。


ヴァエリスは焚き火を見る。


「それなら、私はこれを制御できるようになる。」


「それがいい。」


「あなたが教えてくれる?」


「俺に分かることならな。」


「あなた自身、まだこの世界を学んでいる途中でしょう?」


「そうだ。」


「……」


「でも、一緒に学ぶことはできる。」


ヴァエリスが振り向く。


「一緒に?」


「俺も、自分の能力を全部理解しているわけじゃない。」


「つまり、自分でも理解していないものを私に教えるつもり?」


「だいたいそんなところだ。」


ヴァエリスは笑った。


今度は、はっきりとした笑い声だった。


「あなた、本当に変な人ね。」


「それは褒め言葉として受け取っておく。」


夜はさらに深くなっていく。


朔臣は、その夜はもう魔法を試さないようヴァエリスに言った。


代わりに、2人は簡単な食事を取る。


パン。


干し肉。


そして、朔臣が用意した温かいスープ。


ヴァエリスは、いつもよりゆっくり食べていた。


時々、指を動かしている。


まるで、目には見えない何かを確かめているようだった。


「まだ感じるか?」


朔臣が尋ねる。


「ええ。」


「何を?」


「魔力。」


「変わったか?」


「まだ分からない。」


ヴァエリスは目を閉じる。


「でも……」


「ん?」


「以前は、別の経路へ魔力を移す前に、まず1つの経路を意識する必要があった。」


「今は?」


「今は、全部を同時に感じられるような気がする。」


朔臣はゆっくりとうなずいた。


つまり、権能共有の効果は単純な容量の増加だけではない。


制御そのものにも変化がある。


そして、おそらくヴァエリスの身体と魔力との関係にも。


慎重になる必要がある。


システムの力が強すぎるからこそ、その仕組みを理解せずに使えば、逆に問題になる可能性がある。


朔臣は、能力があるからという理由だけでヴァエリスを武器にするつもりはなかった。


食器代わりの容器を片づける。


「早めに寝ろ。」


ヴァエリスはうなずいた。


「朔臣。」


「ん?」


「ありがとう。」


「何に対して?」


ヴァエリスは焚き火を見る。


「私に選択肢をくれたこと。」


朔臣は黙った。


「それから、さっきのことも。」


「それも君自身が選んだことだ。」


「それでも。」


ヴァエリスは小さく笑った。


「ありがとう。」


朔臣はうなずいた。


「どういたしまして。」


それ以上、大きな言葉はなかった。


ヴァエリスは野営地の端に横になる。


朔臣は焚き火のそばに座ったままだった。


暗い森を見る。


そして、自分の手を見る。


権能共有。


これまで、それはシステムの中に表示される1つの名前に過ぎなかった。


だが、今なら分かる。


誰かに力を与えるということは、ただ命令を1つ実行するだけではない。


身体がある。


適合性がある。


制御がある。


そして、選択がある。


焚き火の向こうでは、ヴァエリスがすでに目を閉じている。


しかし、しばらくしてから、彼女の小さな声が聞こえた。


「朔臣。」


「何だ?」


「明日……また教えて。」


朔臣は、彼女の背中を見る。


「分かった。」


ヴァエリスは、それ以上答えなかった。


焚き火は静かに燃え続ける。


広大なヴァルケイルの森の中。


出会ってまだ数日しか経っていない2人が、今は1つの小さな野営地を共有している。


朔臣は、まだ組織を作っていない。


領地も持っていない。


会社もない。


まして、この世界で本当に自分のものだと言える家すら持っていない。


彼が持っているのは、まだ完全には理解できないほど巨大なシステム。


そして、その力のほんの一部を受け取った16歳のハイエルフ。


だが、ヴェルセラへ来てから初めて、朔臣はあることに気づき始めていた。


もしかすると、彼のシステムが持つ最大の力とは――


自分自身が何をできるかではない。


その力を与えられた者が――


何をできるようになるのか。


朔臣は、赤くなった炭を見つめた。


「……面倒だな。」


それでも、口元はわずかに上がっていた。


その夜。


初めて、権能共有には1人の受け手が生まれた。


その名は――


ヴァエリス・クェルヴェイン。


彼女が受け取った力は、ごくわずかだった。


1%にも満たない。


だが、生まれながらにして卓越した魔法の才能を持つハイエルフにとって――


その小さな差は、彼女がこれまで知っていた限界を変えるには十分だった。


明日、2人は森を離れる。


そして朔臣は、まだ知らない。


次の旅で、自分とはまったく異なる少女と出会うことを。


その少女は、魔法の力を通して世界を見るのではない。


言葉。


文章。


そして、情報。


それらを通して世界を見ている少女だった。


【次回予告】


第14話「2人目の影」


ヴァルケイルの森を離れた朔臣とヴァエリスは、再びラインドルフへ向かう。


その旅は、2人を交易地区へ導き、やがて河港ダルセンへ近づいていく。


そこで出会うのは、16歳のエルフ――セヴレイン・オルリッセ。


彼女は文筆家の助手兼、出版所の手伝いとして働いている。


だが、朔臣が彼女に目を留める理由は別にあった。


彼女には、普通の人間を遥かに超える情報記憶能力があった。


次の出会いは、戦闘から始まらない。


始まりは――


1つの会話。


そして、本来なら簡単には記憶できないはずの情報だった。


【第14話へ続く……】

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