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王家の諜報を担う旦那様とより良い結婚生活を送る方法  作者: たきわ優


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第三十一話

 俺はロン。

 旦那様、いや坊っちゃんの側近として働くキョウトゥー伯爵家の家門の一人だ。


 七歳年下の坊っちゃんのおしめも俺が替えていた。

 大奥様や乳母と共に、俺が坊っちゃんを育てたと言っても過言ではないだろう。


 坊っちゃんに、婚姻してからしばらくして本当の春が来た。


 坊っちゃんに嫁がれたシャロン様は、諜報を生業としている俺が自ら徹底的に調査をしても、何の粗もない完璧な真(・)っ(・)白(・)な御方。

 普通はあるんだよ。

 実は、家では使用人に横暴だとか、つい口を滑らせて悪口を言ってしまうとか。表向き潔白でも裏では悪事に加担している家門の友人とそうとは知らず仲良くなっちゃったりとか。

 本人、交友関係含め、奥様は、作られた経歴かの如く真(・)っ(・)白(・)なのだ。

 俺は、坊っちゃんが婚姻しても、完璧な清廉潔白な人間なんていないと思っていたし、同じ屋敷で過ごせば、いつか真っ白な奥様の粗も出てくるんじゃないかと思っていた。


 なのに‥‥明らかとなった、奥様が秘めていた秘密が‥‥うちの坊っちゃんに激惚れだと言う事実。

 正直、驚きも凄かったけれど、うちの坊っちゃんの良さがわかるとは!と、嬉しさが圧倒的に大きく占め、奥様も真(・)っ(・)白(・)なだけじゃないだなぁと、感慨深くなったものだ。


 実は、坊っちゃんは幼少の頃、初めての他家のお茶会で、おませな同じ年頃のチビっ子令嬢達に「地味ねー」と無邪気に言われた過去があるのだ。

 そこで初めて「地味」と言う言葉を覚えた坊っちゃんは、それから大人になるまでずっと異性が苦手。自分に自信がなく、女性に関してはかなり臆病になってしまった。

 でも、今の坊っちゃんは、前よりも活き活きしているし、奥様に愛されていると言う事実が、坊っちゃんの自信に繋がってきているのではないかと思う。


 相変わらず、奥様の日記に右往左往一喜一憂して振り回されはしているが、その有り様が、我ら家臣には微笑ましく、安寧の日々だ。



 *

今日もお茶会で少しだけど惚気てしまったわ。だって旦那様はいつでも素敵すぎるのですもの。自慢したくなるのも仕方ないわよね。エミーリアも最近は「愛してる」と毎日言われていると嬉しそうで良かったわ。学生の頃からエミーリア達は本当に仲睦まじかったけれど、迎えに来たナーゴヤ男爵のエミーリアの溺愛ぶりが更に激しくなっていてみんなで少し驚いたのもきっと良い思い出になるわね。人前でイチャイチャするなんてはしたないと言う方もいらっしゃるけれど、少し羨ましいわ。今日の夕食の甘味は旦那様の好きな‥‥‥

 *



 相変わらず奥様は坊っちゃんの事が大好きだなぁと、奥様の日記を見ながら嬉しくなる。

 我が家門では、奥様日記の内容が、瞬く間に影を伝って領地まで拡散される奥様日記情報網が張り巡らされている。勿論、奥様はこの事を知らない。

 奥手な坊っちゃんの不器用で甘酸っぱい行動と共に拡散されるソレは、血族のみの公然の秘密。勿論、坊っちゃんもこの事は知らない。

 毎日投下されるその桃色の燃料で、我ら家臣は元気に生きてます。


 それから三日後、奥様専属侍女のエリンが執務室に怒りの形相で怒鳴り込んできた。


「旦那様、最近旦那様が可怪しいと奥様から相談を受けたのですが、一体何をされているのですか?」

「え?」

「二人きりになると突然頬を突付いてきたり、手を握り無言でジッと奥様を長時間見たり、肩を抱かれ微動だにせず長時間同じ姿勢でいたり、壁に押し付けてみたり‥‥どれも無言で行われ、奥様は旦那様の気持ちや行動の意味がわからず混乱しているそうです」

「‥‥」

「旦那様ぁ‥‥何してんですか?」


 ああ、また坊っちゃんは謎の行動を‥‥。今度は何を思ってやらかしたのやら。


「で、何を思ってそういう可怪しな行動をされたのです?」

「‥‥その‥日記にシャロンが‥‥‥‥」

「奥様が?」

「いちゃいちゃしたいと‥‥」

「「‥‥‥‥」」


 ああ、三日ほど前の日記か。

 いや、羨ましいとは書かれていたけど、イチャイチャしたいとは書かれていなかったですよ、坊っちゃん。それより――


「え?旦那様のイチャイチャの行動がそれってことですか?」


 俺がそう問うと、旦那様は項垂れて力なくこう言う。


「学院時代に遠目に見たイチャイチャとする男女の行動を真似てみたのだ‥‥」


 ああ。そう言うことですね、坊っちゃん。


「旦那様、遠目で見たからその恋人達の行動だ(・)け(・)真似たってことですね。声が聞こえてなかったから。きっと、その恋人達は、愛を囁いたりして無(・)言(・)ではなかったと思いますよ」

「え‥‥」


 そう言って、坊っちゃんは青ざめて固まった。

 難易度の高い「愛を囁く」と言う行動に絶望したのだろう。


 耐性のない坊っちゃんは、こうして時々奥様のことになるととことんポンコツに成り下がる。諜報の長として、優秀で頼りになる我が家門の当主なのに。

 でも、そこがいつまで経っても我らには変わらず可愛い坊っちゃんで、こういう奇行も奥様への愛故と思えば、微笑ましい限りだ。奥様は若干可愛そうだが‥‥。


 今日の桃色の燃料も質が良い!

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