第二十九話
これは、私が意識を戻して、いつも通り旦那様の執務室を何度か盗み聞いて知った事だ。
コーランが、私の殺害を仄めかし、私を助けに旦那様が去った後、謁見の間では、コーランが大暴れだったらしい。
陛下と王妃、それに王太子殿下をそれぞれ、ぎりぎり人一人分くらいの大きさの結界で囲い、窒息させようとした。
混乱する謁見の間で、コーランは、短い時間で何度も複数の人に姿を入れ替え、逃亡を図る。
最初に、コーランを取り押さえていたオリバーに成り代わり、その後、陛下達を助けようと動く騎士の中に、オリバーの姿で走り込み、騎士の一人と入れ替わる。
次々に姿を入れ替え、謁見の場は、かなりの混乱に見舞われた。
その時、セオドアが、何か打開策を‥‥と、動き回るコーランに鑑定魔法を掛ける。
そこでわかったのが、どうやらコーランが特能を使うには、姿を入れ替える人と身体的な接触が必要だ、と言う事。
距離を取り、セオドアを始めとした魔法に強い騎士が総出で魔法で拘束。
それでも血縁魔法による結界は解けない。
そんな中、機転を利かせた騎士の一人が、治療師を連れてきて、コーランに眠りの魔法を掛けて意識を奪い、どうにか結界を解除させた‥‥らしい。
ちなみに、人の意識を奪うことになる眠りの魔法は、治療行為にしか利用できないので、必然的に、眠りの魔法を覚え、使えるのは、治療師のみとなる。
多分、このコーランの意識がなくなった時に、私の方の書庫の結界も同時に解除されたのだと思う。
その後の取り調べで、詳細な計画が明らかとなった。
――シーランによって。
シーランの望みは――母親が陛下に愛されている事を確かめることだ。
なので、苦渋の選択として、陛下はシーランの母親である元令嬢を「愛している」と、口にした。
陛下にそう言うように勧めたのは、王妃様だった。
『そもそも、問題の種を撒いたのは、当時いろいろあったとは言え、陛下自身。シーランは罪を犯したとは言え、陛下の子です。一言「愛している」と言うことでこの子が救われるのなら言いなさい。言うべきです』
満足したシーランは、全ての計画を正直に話した。
長年一緒にいたとしても、シーランにとって母親以外はどうでも良いらしく、コーランが不利になる事も全て。
親子鑑定が上手くいけば、弟の補佐をしたいと、王宮に滞在し、しばらく交流を続け「兄弟で話をしたい」と、コーランが王太子殿下と二人きりになる。部屋を結界で覆い、声が漏れないようにして、王太子殿下と入れ替わり、更に小さな結界で王太子殿下を窒息死させる。
そして、目の前で兄弟が、死んだ精神的な衝撃、動揺により、王太子殿下は、一時的な記憶障害を偽装する。
完璧に成り代わるまで記憶障害で誤魔化しつつ、王太子殿下は、徐々に政務に関わり、まずこの国の諜報の力を削ぐ。諜報の長が誰かを探り、諜報の長――つまり、キョウトゥー伯爵家の当主を殺害し、国内の情報の混乱を狙う。
そして、王太子殿下の姿に油断している王妃を同じように窒息させ殺害。
その後は、徐々に国内から力を削り、戦争の火種を作る。
戦争になれば、作戦を全て隣国に伝え、一気に攻め滅ぼそうと計画をしていたようだった。
この計画は、当然、隣国の王弟も了承済み。
当然我が国は、隣国に抗議すべきだが、シーランの事を隣国は騒ぎ立てるだろう。
なので、隣国には、機密情報として、シーランとは親子であったことのみを伝え、その後の情報は、コーラン含め一切渡さないことにした。
なので、我が国の国内で、陛下の子であるシーランの事を知るものは、一部のみ。秘匿されることとなった。
直情的で、短慮な隣国は、これで何かしら焦り、行動を起こすだろうから、その時に制裁を考えれば良い。
コーランは、重罪に問われる事となる。
父である隣国の王弟への忠誠心は高く、黙秘を貫き、その特異な能力から、危険性が高いので、まもなく死罪となる事が決まったと言う。
シーランだが‥‥幽閉されることが決まった。
陛下の母親への愛を確認後は、従順で全く敵意はなく、それどころか、自分は陛下の役に立てると告白をしてきた。
『お母様の事を愛してくれているのなら、僕の特能をお父様の為に使いたいな。実はね、僕は特能を持っているんだ。生涯で一度だけしか使えない特能なんだけど。血縁者の怪我や病を身代わりに引き受けるって言うね。お母様も言ってたんだ。お父様の為に使いなさいって』
特能の中でも特殊なのか、我が国一の精度を誇るセオドアでもシーランの鑑定は出来ず、聖王国に頼み、もっと精度の高い鑑定魔法を使える神官による鑑定で、シーランの特能が事実だと判明した。
倫理的に、子供に親の怪我や病を肩代わりさせるのはどうなのか、と言う議論もあったのだが、最終的に、シーランもそれを望む事から、これを了承。
シーランの健康を損なわないように、それなりの待遇での幽閉となった。
そして、その他にも色々と明かされていた。
なぜ、コーランに血縁魔法があったのか。
コーランの母親は、使用人だと旦那様が調べていたが、実は、何代か前まで貴族で、没落後、血縁魔法のみ密かに継承してきていたらしい。
私のヒョウゴー伯爵家の血縁魔法のように継承の儀式などは必要なく、自動で血縁者の長となる者に引き継がれていた。コーランの母親にコーラン以外の身内はなく、母親がその長だった事から、コーランが最後の血縁魔法の継承者と言う事になるのだろう。
コーランは、死罪が確定している事から、この血縁魔法の継承もここで途絶えることになる。
コーランの母親が、王弟に死ぬ間際に、この血縁魔法について話し、コーランの待遇を良くしてくれるように懇願していたのだとか‥‥。
王弟の沢山の予備の庶子。役立たぬ者は、処分される。
それを知っていた母親が、この子は役に立てるからと、子の将来を案じて。
やはり、諸悪の根源は隣国の王弟ね。
そして、意識を取り戻してからの私と旦那様なのだが‥‥‥‥。




