第二十八話
「コーラン殿、あなたは、王位簒奪のために、シーラン殿と取引をした。王太子殿下に似た容姿で、陛下の御子息だと偽り、時間を掛けて我が国の内部から計画を進めようとしたな」
「‥‥‥」
「計画はこうだろう。まず、今日。シーラン殿と姿を入れ替え、親子鑑定を突破。王城に滞在し、王太子殿下と今後は姿を入れ替える。そこで、我が国の諜報機関について探り、内部の弱みを掴む。諜報の長の殺害も企てていただろう」
そう、コーランは、諜報の長――つまり、私の殺害を企てていたのだ。
「そして、機を見て、王太子殿下を殺害し、殿下と入れ替わることも計画。そして、シーラン殿の望みである王妃の殺害も計画していた」
「‥‥‥」
「国境付近で密かに商人達に流していた、陛下の隠し子の噂も、その一貫だったのだろう。隣国の王弟が匿っていた我が国の陛下の御子息が死ねば、この場合は、入れ替わった本物の王太子殿下の死だが‥‥。我が子を殺したのかと糾弾する手筈だったのだろう」
「‥‥‥」
「全てわかっているのだよ」
「‥‥‥」
俯いたまま押し黙るコーラン。
だが、この言葉には反応するだろう。
「父親、隣国の王弟のためだったのだろ?全ては」
そう言った瞬間、コーランは、勢い良く私に突進して来た。
だが、甘い。こういう場合の体術は私の得意とするところなのだ。すぐさま、コーランの腕を掴んで捻り、足を掛けて体制を崩し、床に押し付ける。
「うぐっ‥‥」
「抵抗はやめろ」
痛みで顔を顰めるコーランを冷めた目で見下ろしていると、コーランが突然笑い出した。
「くっ‥‥あは‥ははははは」
「何が可怪しい」
「私の拘束を解け。さもないと、伯爵。あなたの奥方は死ぬことになる」
「?!どういう事だ?!」
「さあな。今頃、窒息している頃かな。今の時間、奥方は読書の時間だろう?」
窒息と言う言葉にハッとする。
まさか、書庫にコーランは血縁魔法で結界を張ったのか?!
こいつの結界は、空気を通さない。つまり、長時間いれば空気が薄くなり――窒息する。
「シャロンっ!!」
「旦那様、こいつは私が!早く奥様のところへ!」
一緒に来ていたロンとオリバー、セオドアが、床に押さえつけているコーランに飛び掛かり、ロンが叫ぶ。
「すまん。頼んだ!陛下、失礼します!」
私は、城内を走りながら、屋敷にいるだろう誰かに気付かせねばと、先行して影を走らせるが、外はまだ陽が高く影伝いに影を思うように走らせれない。
すぐに、馬に跨り、屋敷へ駆ける。
間に合ってくれ!誰か‥‥誰か気付いてくれ!
くそっ‥‥オリバーの護衛を解いたのは間違いだった。
エリンが既に気付いているかも知れない。だが、そうでなければ‥‥。
今日、旦那様はお城で陛下との親子鑑定をしに行っている。
どんな結果になるのか、ニコル兄様に頼んで探りに行けないかしら?と思ったけれど、さすがに夢日記で怪しまれているのに、今日と言う日に王城に足を運ぶのは不味いと思い、屋敷で大人しくしている‥‥のだが、異常を見つけてしまった。
書庫が、コーランの血縁魔法の結界で覆われていた‥‥。
なるほど。
私を殺すか、人質にするのか。失敗した時の保険でここにこれを、だろうか‥‥。
いつも通りなら、この時間、私は書庫で読書だ。
コーランいや、正確にはシーランか。シーランが、私を追いかけ回していたから、私の日々の行動は把握されている、と。
怪しまれないように、いつも通り、エリンに用事を言いつけているし、しばらく一人だわ。
仮に、空気が薄くなり気絶もしくは窒息したとしても、いつも座っている大きめのこの一人用の椅子だと、肘掛けも大きく凭れ掛かったとしても、寝ているように見えてしまうのよね。
私の夢日記で、コーランの企みの失敗は確実。
と言うことは‥‥この保険により、私は窒息しかけないと、私が不味いことになる‥‥わよね‥‥。
特能があるし、本来なら結界なんて突破して空気を流せるから窒息することはないけれど、そうしてしまうと、なぜ結界で空気が薄い中、私が平気なのか疑われる要因に成り兼ねない。
いつもと違う行動をして、今からでも書庫を出る?
それも、この状況では悪手かもしれないし、最善には思えない。
やはり、私は私は窒息しかけないといけない。
でも、苦しいのは嫌だし、どうしようかしら?
それにしても、離れていても長時間結界を維持できるとは、コーランの血縁魔法はなかなか凄いわね。
ひとまず、私は、いつも通りお義母様お勧めの恋愛小説を手に取り、いつもの椅子に座る。
パラパラと本を捲っていると、しばらくして‥‥うん。確かに、空気が薄くなってきたわね‥‥。
悩んだけれど、苦しいのは嫌なので、結界に細く穴を開けるように特能で包んだ風魔法を通し、少しだけ空気の流れる穴を作る。
ギリギリ呼吸できる程度の空気の流れ。
少し息苦しいが、このまま頑張って、エリンが来たら気絶した振りをしよう。きっと、エリンなら、寝ているわけじゃないと気付いてくれるはずだわ。
すうはあと、薄い空気で呼吸していると、少し頭がぼんやりしてきた。
このままだと、本当に気絶しかねないし、意識を保たないと特能を発動し続けられない。そうなれば、私は本当に死んでしまうのよね‥‥。
どうしようと悩む最中、屋敷が騒がしくなったのを感じた。
ドカドカと足音が迫ってくるし、旦那様が私の名を呼ぶ声が聞こえる。
‥‥きっと大丈夫。
そう思い、私は特能と風魔法の発動を止め、最後の薄い空気を吸い込むと、そのまま気を失ったのだ。




