第二十七話
「コーラン殿、あなたは、他人と姿を入れ替えると言う特能を使い、孤児院で働く、我が国の王太子殿下とそっくりな男と姿を入れ替えた。そして、その男を殺害。それにより、姿は王太子殿下と瓜二つに固定された」
「‥‥‥」
私がそう言うと、コーランは物凄い形相で私を睨む。
まさか、本当にコーランとシーランが入れ替わっているとは‥‥。
確証はいくつか手に入れていたが、目の前で二人の姿が変化するのを見るまで、どこか半信半疑ではあった。だが、目にしてしまうと、妻の日記が真実であったと思わざる得ない。
シャロン‥‥。
妻――シャロンの日記の内容が、有り得ない内容となったのは、一月程前だった。
「旦那様、奥様の日記ですが‥‥」
妻の侍女エリンが、いつものように日記の報告をするが、かなり戸惑っていた。
「なんだ?何かあったのか?」
「ええ。とにかく読んで下さい」
「わかった。見せろ」
「はい」
*
旦那様の夢を見たいのに、可怪しな夢をまた見るわ。お義母様の小説の影響かしら?それとも私の頭が可怪しくなって妄想なのかしら?とにかく意味がわからないわ。でも、鮮明に覚えている内容を書き記しておかなきゃいけない気がするの。何故かしら?
*
こんな風に始まった妻の日記には、本来、妻が知るはずのない内容が多々書き記されていた。
自分を屋敷内で追いかけ回していたコーランは、本当はシーランであり、殿下に似ているシーランは、本当はコーランであること。
そして、コーランは、他者と入れ替わる特能を使い、王太子殿下に似た孤児院の男と姿を入れ替えており、コーランの姿になった孤児院の男は殺されたこと。
そもそも、客人である二人の名前を妻が知っているはずがない。なのに、日記に名前が出てくることにまずは驚き、しかも、シーラン、いやコーランが、殿下に似ている事まで書かれていた。
あまりに具体体な内容に、さすがに可怪しいと、隣国でシーランとコーランについて再度調べ直すように指示を出すと、妻の日記の内容が事実だと判明する。
「二人の絵姿を見せて確認したところ、奥様の日記は事実でした」
「そうか‥‥。以前は、絵姿は確認させなかったからな。そう言えば、前回の調査では、シーラン、いやコーランの容姿が見た目が良く目立ちそうなのに、目立つ子ではなかったと言う報告に疑問を感じたが、こういう事だったのか」
「ええ。そのようですな」
「つまり、シャロンの日記に書かれていた、名前を名乗り変えている理由も事実そうだ、と言うことか‥‥」
執事長に問いかけ目線を向けると、悲痛な面持ちで彼は深く頷いた。
シーランは王位に興味はなく、王位を欲するコーランの為に、親子鑑定の時だけ姿を入れ替える。つまり、王の血を引かぬ隣国の者を陛下の息子だと偽ろうと言うのだ。
これは、明らかな大罪だ。
だが、執事長が悲痛な面持ちをしているのは、そこではない。
「セオドア‥‥、頼む」
「ええ。畏まりました」
妻の夢日記。
その特異性は目を見張るものだ。特能なのか、何だかの知られざる魔法なのか。
特能の場合、我が国では貴族は特能の内容を隠し立てせず届け出る必要がある。通常、特能は生まれ持ったものであるから、今まで気付かなかったのは流石に可怪しいのだ。
場合によっては、妻に何だかの処罰が下る可能性もある。
妻の寝室へ向かうセオドアを見送る。
セオドアの凄いところは、精度の高い鑑定魔法を使えるだけでなく、多少の距離であれば、離れていても精度を落とさず鑑定が出来る、その類まれなる能力の高さだ。
妻の寝室前で護衛をしているオリバーからは、妻は就寝中であることは既に確認済み。
寝室の扉越しに、セオドアが妻の鑑定をし、戻って来るまで、執務室内にいる誰一人言葉を発しなかった。
来たわね。
予想通り、私を秘密裏にセオドアに鑑定させるようだ。
でもね、旦那様。私の特能は、セオドアがどんなに精度の高い鑑定魔法を使おうと、暴かれることはないのです。
寝室の扉の向こうで、セオドアが鑑定魔法を私に使う。
私は、ずっと特能を発動中なので、少しドキドキとしながら寝台の中で息を潜める。
何も鑑定で出てこなかったからだろう。
セオドアが、更に魔力を練り上げ、二度目の鑑定魔法を私にぶつけて来る。
ごめんね、セオドア。それに旦那様。
ヒョウゴー伯爵家の一族の為にも、私の特能は知られるわけにはいかないの。
セオドアが、去っていく気配を確認して、私はいつも通り、旦那様の執務室の盗み聞きを再開した。
「戻りました」
セオドアが執務室に戻ってきたが、その表情は困惑していた。
「結果は?」
その表情にバクバクと鼓動する心臓を思わず右手で押さえながら、セオドアの返答を待つ。
「それが‥‥、奥様には特能はなく、睡眠中に何だかの魔法を使っていることもなく‥‥」
「何もないと‥‥?」
「はい。奥様の日記の謎は不明です。二度も最大の魔力で精度を高め鑑定したので確かです」
「そう‥‥か」
シャロンが何も処罰を受けることがなさそうで、ホッとする。正直、妻には何だかの特能があるのだと思っていた。あれほどの内容の夢を見るなど、どう考えても可怪しいからだ。
だが、妻には何も特能はなかった‥‥。
「では、あの日記と言うか‥‥シャロンの見る“夢”とは、いったい何なのだろうか?」
全員が無言で押し黙る。
すると、ロンがこんな事を言う。
「調査に行き詰まった旦那様を助ける為の、奥様の旦那様への愛の力とか?」
「あいの‥‥ちから‥‥」
全員が、うんうん、と何故だか納得しかけたが‥‥私もそう思いたいが、そうじゃない。
「とにかく、シャロンの夢の事は他言無用だ。夢が根拠です、なんて殿下に報告できないからな。だが、シャロンの夢の内容の事実確認はしていく。そこで判明した事実のみ、殿下に報告することとする。聖王国の神官様が到着されるまで時間があまりない。全員気を引き締めてシャロンの夢の裏取りを進めるぞ」
「「はい」」
そして、次々と、シャロンの夢が、確証へと変わっていくのだった。




