第二十六話
「お前達の企みは、全てわかっている。観念せよ」
目の前にいるシーランと、お互いに唖然としながら目を見開いていると、この国の王の声が謁見の間に響いた。
不味い。これでは計画が‥‥。
それでもどうにか状況を変えようと頭を働かせるが、僕がシーランと姿を入れ替えていた言い訳が思い付かない。蟀谷に汗が伝うのが妙に現実を感じさせる。
「シーラン‥‥いえ、正しくはコーラン殿。そもそもその王太子殿下に似た容姿も、元々あなたのものではないこともこちらで調べはついているのですよ」
気付いたら、キョウトゥー伯爵が目の前に居り、抑揚のない声で静かにそう言った。
くそっ‥‥。
なんで、どこで気付かれたんだ。
歯が砕けそうなほど奥歯を噛み締めていると、元の姿に戻ったシーランが叫ぶ。
「す‥‥姿は、僕よりコーランの方が王族らしいけどっ‥‥僕はっ‥‥この国のっ‥‥王の血を引いているんだあ!さっき‥‥さっき、それを証明したじゃないか!陛下っ!僕はっ‥‥あなたの息子だ!!そうでしょう?!」
「‥‥ああ。そのようだ。私の息子である事は先程証明された。だが、なぜ姿を偽った?」
「そ‥‥それは‥‥‥」
ああ‥くそっ‥‥!馬鹿かこいつは‥‥それ以上口を開くな!
シーランを睨みつけるが、全く気付かずこちらを見ようとしない。
父の望みを叶える手に入れた最良の一手が‥‥、こんな計画の初段階で破綻するなんて‥‥許せないっ!!!
それは、本当に偶然の出会いが重なって得た幸運だった。
ある日、聖王国から神官達が我が国に招かれ、父である王弟の屋敷に滞在することになった。
この世界で、孤児院の運営は、各地の王族や貴族が義務として担うものだが、正しく運用されているか各地の孤児院を見回るのは、聖王国の神官達の務めの一つだ。
そして、もう一つ、神官達の大事な役割が、孤児達に鑑定魔法を使い、生まれ持った能力――特能を調べること。聖王国の神官達は、かなり精度の高い鑑定魔法を使う為の秘匿された修行を積むと言う。
何故なら、特能があれば、孤児であっても優遇され、将来が開けるからだ。
それに、聖王国では、特能は階位の高い魔法の一種ではなく、女神様の祝福だと位置付けられている。
不遇な孤児の特能を見つけ、孤児の将来を救う事は、女神様の求める行いだと、神官達は各国を定期的に周るのだ。
父が管理する王領にも、大規模な孤児院がある。
息子だと紹介してくれることはなかったが、父は、神官の孤児院への視察に連れて行ってくれた。
父の公務に同行を許されたのは初めてで、僕は浮足立った。
「お父様に役立つ特能が見つかると良いですね」
「ああ。だが、見つかった特能があまりに有用すぎると、神官共は孤児を聖王国に連れ帰ろうとするからな。説得されるぬように気を付けねば」
「そんな横暴な事を神官共はするのですか。もしそうなった場合は、私にお任せを」
「ははは。やはりお前はわかっておるな。役立つ良い息子だ」
僕に特能があると知ってから、様々な方法を試した結果、僕には、他者と姿を完全に入れ替えれるというかなり希少な特能が使えることがわかった。
但し、時間制限があるらしく、一刻半、二刻までいかない程の間だけ。
もしも、特能持ちの孤児が見つかり、神官が聖王国へ誘ったなら、その孤児と入れ替わり、誘いを断れば良い。
そして訪れた孤児院で、神官達が続々と孤児達の特能の有無を鑑定し始めた。
大規模な孤児院なので、期待したが見つかった特能持ちの孤児は一人だけ。しかも、動物の感情がわかるというものだった。動物と会話が出来るわけじゃない。ただ、動物の、嬉しい、楽しい、悲しいといった感情を感じるもの。
畜生の感情がわかって何になるのだと、僕も父もがっかりだった。
全員の鑑定が終わっても、それで視察が終わるわけではない。
これから最低でも三日間は、神官達により孤児院が正しく運用出来ているかを確認するのだ。
その内の一人の神官に僕は付き添うことになった。
この神官との出会いで、僕は二つの幸運に恵まれる。
ずっと付き添っていれば、それなりの会話を熟し、ある程度仲良くなるものだ。
話の流れで、僕はこの神官に精度の高い鑑定魔法で、僕の特能の詳細を調べて貰うことにした。
神官は、誓約で決して嘘は付けない。
なので、鑑定前に、僕の特能の詳細を知っても誰にも言わないように願う。
「ええ、誰にも話しません。生涯の秘密と致しましょう」と、神官から言質を取り、血縁魔法で結界を張り、鑑定魔法を掛けてもらう。
制限時間の有る他者との入れ替え。
もっと詳細に調べれば、僕もまだ知らない使い方があるかもしれない。それが使えるものならば、もっと父の役に立てるはずだ。
「なるほど。これは珍しい特能ですね。他者と姿を入れ替えるとは‥‥。仰る通り、時間制限があります。この時間は延びることはありませんね。あと――」
「あと?」
「もしも、入れ替わっている間に、相手もしくはあなたが死んでしまった場合、元の姿に戻れないようです。お気をつけ下さい」
まさか、そんな使い方があるとは思わず驚いた。
そして、一番に脳裏に過ぎったのは、父の嫡男と自身の入れ替わりだ。
僕みたいに特能もないくせに、僕より優秀でもないくせに、父の息子だと公に認められている憎い男。
もしも、僕が入れ替わったなら‥‥。
「ちなみにですが、もしも入れ替わって相手が死亡した場合、私の特能と血縁魔法は私に残るのでしょうか?」
「ええ、残りますよ。中身は変わりません。あくまであなたの特能は、外見だけを入れ替えるものですから。ですが、一生偽りの姿でいるなど良くありません。遊び半分で多用しないようにして下さいね」
「ええ、勿論。神官様、有難うございます」
そして、最終日の三日目。
もうひとつの、最大の幸運が舞い込む。
「どうされたのですか?」
この孤児院は、かなり大規模なものだ。
だから、孤児の数も多いが、孤児院の使用人の数も相当数いる。
神官と歩いていると、一人の下男と思われる薄汚れた男を見るなり、神官は立ち止まった。
「ええ、ちょっと‥‥。すみません、そこのあなた」
神官が下男を呼び止める。
「はい、何でしょう?神官様」
「ちょっとお顔を見せて下さいね」
そう言うと、長く伸びボサボサとした少し据えた匂いのする男の髪を神官が掻き上げる。
よくこんな不潔な奴の髪を‥‥と、眉を顰めていると「お時間を取ってすみません」と、神官は言い、すぐにその場を離れた。
「あの‥‥さっきのは?」
神官の行動の意味がわからなく聞いてみると、こう言ったのだ。
「この国の視察の前に隣国に訪れていたのですが、先程の男性が隣国の王太子殿下と顔が驚く程瓜二つだったのですよ。ただそれだけです。ふふ。でも、ああも似ているなんて世の中不思議なことがありますね」
これで、僕に二つの可能性が生まれた。
父の嫡男か、隣国の王太子か。
どちらに入れ替われば、父の望みを叶える事ができるか。
答えは一つだ。
幸い、使える駒は揃っているのだから。




