第二十四話
気付いた時には、同じ年頃の子供達と、規則正しい集団生活の中にいて、なぜ自分がここにいるのか?どうして厳しく躾けられているのかも良くわからず生きていた。
母親の顔は覚えていない。産後、しばらくして肥立ちが悪く亡くなったらしい。
父親と初めて会ったのも、父親がどういう立場なのか知ったのも、五歳になった時だった。
「お前がコーランか」
「‥‥はい」
自分と同じ髪と瞳の色を持つ大人の男の元へ連れて来られ、戸惑っていると名前を呼ばれ困惑した。
「今からお前の能力を調べる。なに、痛くはないさ。楽にしていればすぐ終わる」
そう男は言うと、男の隣りにいた陰険そうな小柄な男が僕の頭に手を翳した。
突然の事に驚いて、ビクリと体を震わせ縮こまっていると、そう時間も掛かることなく翳された手は頭上から離れて行った。
「これはこれは、なかなか良い物をお持ちですぞ」
「ほう。説明を」
「はい。まず一つ、こいつは血縁魔法を引き継いでおります。更に、当主として引き継いだようです。効果は細かくは判りませんでしたが、結界としての効力がありそうです」
「おお、そうか!でかしたな!こいつの母親の言っていたことは確かだったと言う事か。素晴らしい。それで、まずは一つ‥‥と言うことは、二つ目もあるのか?」
「ええ、ええ。次は二つ目でございますが、なんと、特能を持っております」
「素晴らしい!して、どんな特能だ?」
「それが‥‥申し訳ございません。特能を持っている事はわかるのですが、どういう特能かは私の魔法では判りませんでした‥‥」
「ふんっ。鑑定魔法の精度が我が国で一番だと聞いていたのにその程度か」
「もっ‥申し訳ございません」
「まあ良い。下がれ。そのうちわかるだろう。さて、コーラン――」
目の前のやり取りが何を意味するのかもわからず、ただただ状況を見ているしかなかった僕は、名前を呼ばれ、その声に固まってしまった。
一度目に名前を呼ばれた時は、ただ呼ばれた。だが、今呼ばれた二度目は、とてもとても優しさと慈愛に溢れるような暖かさのある声色だったからだ。
それに、目の前の男の僕を見る眼差しは、とても好意に溢れている。
「――こちらにおいで」
手招きされ、恐る恐る男の元へと近付くと、驚くべき事が起こった。
その男は、膝を着き、両手を広げて、近付いた僕をふわりと――抱きしめたのだ。
「コーラン。私はお前の父だ。お前はなんて優秀な子なんだろう。父は、お前がどの子よりも私の役に立ってくれることを期待しているよ」
この、父との邂逅のすぐ後から、僕には専用の一人部屋と、専属の従者が一人付けられ、僕の人生はガラリと変わったのだ。
自分は、庶子ではあるが、貴族籍を持ち、父――王弟の子供であること。共に生活している子供達が兄弟であること。血縁魔法の当主としてその力を保持していること、そして――特能を持っていること。
次々と説明される事柄に、まだ五歳の頭では理解が追いつかず狼狽するばかりだったが、徐々に様々なことを理解していった。
勉強でも何でも、少しでも成果を出せば、時々会いに来る父が僕を褒めて、自分の事のように喜んでくれた。
「なんて役立つ子だろう!お前は私の誇りだ!」
その言葉が欲しくて、僕は貪欲に日々を邁進する。
父に褒めて欲しい。父を喜ばせたい。
親の愛情に触れてからは、もっともっとと、愛情に飢えていった。
父の愛情の欠片さえも、他の兄弟に渡したくはない。兄弟を蹴落としても、何をしても、もっともっとと、欲し続けた。
そんなある日、僕の人生に影響を与える二人の人物と出会う。
一人は、父の嫡男。
その存在を知った時は、嫉妬で気が狂いそうだった。
父と同じ屋敷に住み、父と共に食事を取り、父に公に息子だと紹介される存在がいる。
僕は、感情のままに父に聞いた。
「僕だけを父上の息子にして!どうしたらそうしてくれるの?!」
父は、嬉しそうに目を細め僕に柔らかい声で語りかける。
「私の一番の望みを知っているか?」
「一番の望み?」
「ああ。私は、憎い隣国が欲しい。元々あの国は我々の国だったはずなのだ。それなのに、あの蛮族達は、それを認めようとしない。愚かな事だ。あの国を手に入れ私に捧げてくれたなら、コーラン‥‥お前だけが私の愛しい息子だよ」
それを聞いて、僕の人生をかけるべき目標が定まった。
父の望みを叶え、僕は、父の唯一の息子となる。
父と同じ屋敷に住み、父と共に食事を取り、父に公に息子だと紹介されるのだ。
どうやって目的を叶えようと思案して、一番最初に脳裏に浮かんだのは、一人の人物。
あの、敵だらけの屋敷で、唯一利害なく話せる唯一の相手。僕の計画に利用できそうな、あいつの顔が浮かんだのだ。




