第二十三話
王城の中にある第二の謁見の間。
一番格式高く広い第一の謁見の間よりは、狭いその場所には、ただならぬ緊張感が漂っていた。
王と王妃、王太子殿下と宰相をはじめとした高位の官僚が立ち並び、両脇には、必要以上に多くの騎士たちが微動だにせず整列している。
その中で、微笑を顔に貼り付け、余裕のある態度を隠そうとしない王太子殿下と瓜二つの外見を有するシーランと、側に寄り添うコーランは、全員が冷めた目で見ていることに気付くことなく王座の前に足を進めていた。
「本日はこれより、陛下とシーラン殿の親子鑑定を執り行う」
全員が、所定の位置に着いた事を確かめてから、宰相が、厳かに告げる。
「ピウス神官、ご説明を願います」
白い神官服に身を包んだ神官ピウスが、ゆっくりと歩みを進め、全員を一瞥すると、ゆったりとした神官らしい心地よい調子で話し出す。
「神官のピウスです。これから私の特能を使用し、陛下とそちらのシーラン殿が、真に親子の繋がりがあるかどうかお調べします。方法は、至極簡単。痛みも御座いません。両者に私の手を握って頂くだけです」
もう一度、ゆっくりと全員を一瞥し、ピウスは続ける。
「そして、両者が親子であれば、お二人の体全体が同時に淡く光り輝きます。親子でない場合は、何も変化を起こしません。ご理解宜しいですか?」
「ああ、理解した。説明ご苦労、ピウス神官。シーラン殿も宜しいか?」
陛下が、ピウスに了解の返事の後、シーランに声を掛ける。
「ええ、勿論です」
場に相応しくない程に、にこにこと機嫌良さそうな笑顔でシーランが応える。
答えた声も、若干弾んでおり、その様子に一部の者達は僅かに眉を顰めた。
「ではこちらへ」
そう告げたピウスの言葉で、陛下とシーランがピウスの両側に足を進める。
両側の二人をそれぞれ優しげに見つめた後、ピウスが左右の手をゆっくりと差し出す。
「それでは、お手をどうぞ」
「ああ」
「はい」
平坦な陛下の声と、引き続きシーランの弾んだ声の両極端な様子に気を留めることなく、ピウスはしっかりと手を握り込み、天を見上げるように顔を上げ目を瞑った。
そして、すぐに目に見える変化が起こる。
陛下とシーラン、二人の体が淡く光り輝き出したのだ。
誰も声を発しはしないが、息を僅かに飲むような気配がいくつか謁見の間を伝う。
「お二人が、真に親子であることをここに証します」
ピウスがそう宣言した。
その後は、一度休憩を挟み、場所を移して今後の話し合いが行われる予定だった。
だが、神官ピアスの退室を見届けた後、騎士により、二脚の椅子が謁見の間に持ち込まれ、シーランとコーランに席に着くように、と言う。
「こちらへお座り下さい」
謁見の間の中央に、場違いのように置かれる二脚の椅子。
若干、戸惑ったように目を泳がしてから、二人は席に着く。
一番格式高く広い第一の謁見の間よりは狭いが、この第二の謁見の間も、王国の威厳の象徴で有るからには、それなりの広さを誇っている。その中で、中央に座り、王族と官僚、多くの騎士達に囲まれる状況に二人は不信感を覚えたのか、徐々に眉を顰めだした。
「発言を」
シーランが、堪らず、といった具合に声を出す。
「許す」と陛下が答えると、恐る恐るといった具合にシーランが質問する。
「この後は、休憩を挟み、場所を移動して話をすると伺っていますが、なぜこの場に留め置かれているのでしょうか?」
「すまんな。理由は答えられぬが、しばしそのまま待っていて欲しい。なに、そう時間は掛からんよ」
「ええ、予定と異なりますが、そのままお待ちください」
「はあ‥‥」
陛下と宰相の返答に、不安げにシーランは答える。
それからは、誰も何も言わず、かすかに人の息遣いが聞こえる程度の静寂が空間を覆った。
微動だに誰もしない中、時間が経つ度に、様子が可怪しくなる者達がいた。
――シーランとコーランだ。
二人は、ソワソワとし始め、シーランに至っては、若干ではあるが額に汗が滲んでき出す。
そして、更に少し時間が経過してから、コーランが発言を求める。
「閑所に行きたいのですが‥‥」
「わ、私も閑所に行きたいです」
コーランに続いて、シーランも同じように閑所に行き、用を足したいと申し出る。
見方によっては、二人が尿意を我慢出来ずに、落着きがなくなったようにも見えるが、二人以外の誰もそうは思っていない。
「そこまで時間はかからん。もうしばし待たれよ」
陛下のその言葉に二人は黙り込むが、時間が刻々と進み、もうそろそろ一刻は経とうとした頃、二人は焦ったように席を立ち上がった。
「恥ずかしいことに我慢出来ないのです。閑所に行きます。失礼」
「私も‥‥。失礼します」
そう言い、足早に謁見の間を出ていこうとする二人の目の前を塞ぐように、騎士達が一斉に移動を開始した。
「何なのです?!閑所くらい行かせて下さい!」
「そうです!何なのです?これは?!」
二人は慌てふためき、強い口調で叫ぶように言う。
「席に着かせろ」という陛下の命に、騎士達により嫌がる二人は、力ずくで席に戻されるが、まだ二人は諦めず、どうにか抜け出そうと抵抗を続ける。
そしている内に「そろそろです」と、胸元から出した懐中時計を取り出した宰相が告げた。
すると、抵抗していた二人の姿が徐々に霞だし、そして著しい変化を見せた。
王太子殿下にそっくりなシーランは、コーランの姿に。
コーランの姿は、王太子殿下にそっくりなシーランの姿に変化したのだ。
お互いに目を見開き呆然としているシーランとコーランを無視して、王たる威厳を形にするような地を這う低い声で、陛下がこう言い放った。
「お前達の企みは、全てわかっている。観念せよ」
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